なんとなく
猥雑な雑踏が、R&Bで塞いだ鼓膜にノイズとして聞こえてくる。音量を上げようとしたけど、それもそれで何か違うと感じて、テレキャスまみれのロックを再生した。
気怠そうな歌声とスカした歌詞が、今の俺にぴったりだったから、信号待ちの時点ですっかり自分に酔ってしまった。
信号が青に変わる。白線だけを踏むために俯きながら歩く。その途中で薄汚れたスニーカーの紐が解けたことに気付いた。渡り切る前に後ろから早歩きで俺を追い抜いた中年サラリーマンに靴紐を踏まれて、よく分からない殺意が湧いた。
街灯の下で片膝をついて、紐を結ぶ直す。妙にかじかんでいる手で、丁寧に結び直す。疾走感のあるサビのところなのに、背中を丸めて汚れた蝶々を作っている。
冷たい風にさらされる前に、ポケットに手を突っ込んで歩き出した。
どこに向かっているんだろう。いい感じに自分に陶酔出来ればそれで満足だったから、もう帰ってもよかった。
なのに、行くあてもないのに、俺は歩いてる。
急に飛んできた車のハイビームに目をやられたのに、歩いてる。
なんとなく、歩いてる。