第6話
リベルタの濡れた髪とホットパンツ姿がなんとなく悩ましい。さっきの裸も頭をよぎって、少しだけまだドキドキしてしまう。ミシェルは「うーん」なんて頭を掻きながら、僕のノートパソコンを発見したらしい。
「夢を見られてしまったみたいだね」
「ミシェルはいつも、あの悪夢だ。他の夢も見られればいいのに」
リベルタはそういって、僕のパソコンのBluetoothのスイッチを切った。
「え?まさかBluetoothで電波飛ばしていたの?!」
僕が言うと、リベルタは笑いながら
「ミシェルは生身で電波の送受信ができるんだよ」
と言う。
「空中を走ってる電波を見ることもできるし、たぐりよせたり遮断したり追いかけて命令を書き換えたり、傍受したり」
傍受、さっき上階の新婚さんの音を拾ってしまったのはこれだったのか。
「俺の母親は、俺が8歳のときに自殺してね…それからあの夢を見るんだ。もう10年も経つのにおかしな話さ」
僕は自分の母親を思い出した。
「おかしくなんかないよ」
リベルタがふっと僕を見る。
「僕の母も、8年前に行方不明なんだ」
ニューモンターニュブランは麓の街。すぐ近くには、山がある。冬には白く覆われる美しい山を観光として訪れる人も多い。当時10歳の僕と母は、共に山の低地をトレッキングしていた。
本当に大したことない、山に挑むなどとは程遠い、ささやかに自然を楽しむ程度の登山のはずだった。
記録的な吹雪が襲うまでは…。
「それでお母さんは亡くなったのか」
僕は首をふった。
「まだ見つかっていない、行方不明だけど…せめて遺体だけでも見つけたい」
それから僕は雪が怖くなった。だから毎年夏に、この街を訪れては母の遺体を探している。
「だけどさぁ、捜索隊も諦めた捜索を、1人でどうにかなるもんなのか?」
リベルタが眉をひそめる。
「捜索隊はほとんど山を探していないんだ」
「なんで?」
僕は首をふった。
「あの山は、国境と軍の施設が入りくんでいて、あちこち立ち入り禁止なんだ」
ミシェルが、ふうん、と笑った。
「軍が見つけたなら、情報があるかもしれないな。たぶんアクセスできる」
頭の中で、何かが動く音がした。
「みつかる?本当に?」
「わからないさ、検索はかけてみるけど…何もわからないんじゃ困るな、トーマス君、名字は?」
僕は急いで言った。
「エリックだよ、トーマス・エリック」
「エリック?」
リベルタがじっと僕を見る。
「な、なに?どうしたのさ」
ミシェルは僕のスマホを見つめている。スマホがついたり消えたりパチパチした。中を見られたらしい。
「父親はエリック社の代表か…それより」
ミシェルが窓の外を見た。
「防犯カメラに映っているぞ、追っ手がきたようだ」