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第5話

僕は夢を見ていた。もう何度も見ているので、これが夢の中なのだとわかる。

寒い、周りは一面真っ白だ。足が埋まり、重くて動けない。

僕の肩を、優しくて力強い腕と手が支えている。


母さん。


「大丈夫、必ず助かるからね」


母さん。


上空からヘリコプターの音がして、救助隊員がロープで降りてくる。

「子供を先にお願いします」

母はそう言うと、僕の手をぎゅっと握って笑った。


「大丈夫、後で会いましょう」


僕は救助隊員と、ロープでヘリコプターに乗った。

その時、強い風が吹き始めて、ヘリコプターは大きく揺れた。上下左右、グルグルまわった。


「ダメだ、出直そう」

僕は叫んだ。

「待って、まだ母さんが!」


幼い僕が何を叫ぼうと、救助隊員は僕の体をシートに固定すると、すぐに現場を飛んで去った。


…昔々トゥーレに王様がいました…


何の歌だろう?夢の最後がいつもと違う。


…本当に墓場まで誠実な王様でした…


僕の夢は終わり、不思議な気持ちで目が覚めた。


…お妃は亡くなる時 王様に

 金の杯をあげました…


隣のベッドでミシェルが静かに眠っている。金の長い髪が、波間のようで、白い肌が漂っている。サングラスは取っていて、目はつむっているものの、人形のようだった。どこか生気がないような、そんな顔色にも見えたから、なおさら人形のようだった。


…王様にとってこの杯以上のものはなく

 宴会の度に その杯で飲んでいました

 王様の眼から涙が流れました

 その杯から飲む度に…


少し暗くて悲しくて、それでいて驚くほど美しい調べ。

ふとベッドサイドに開いたままのノートパソコンを見ると、そこに知らない映像が流れていた。


最初、ミシェルが映っているのだと思った。金の長い髪と顔立ちがとてもよく似た女性が映っている。女性は化粧をしながら、この歌を歌っているようだった。


…死が近づいてくると

 王様は王国の都市を数え

 世継ぎに全てを与えましたが

 その杯はお与えにはなりませんでした…


僕は映像を消そうと、一瞬指を動かした。しかしなぜかじっとそれを見つめていた。


…王様が催す宴会の席で

 騎士たちは王様を囲んでいました

 高い 代々の王の広間で

 海辺のお城の上で…


女性は化粧をやめ、グラスを用意する。そこに波なみと水が注がれる。


…年老いた王様は酔ってそこに立ち

最後の命の炎を飲み干し

その聖なる杯を

深く波の中へと 投げました…


化粧ポーチの中から、何か薬をとりだして。


やめて、母さん、とミシェルが一瞬呻いた。


…王様は 杯が落ちて水を吸い込み

海の中深く沈んでいくのを見ました 

王様の眼は閉じ

もはや一滴も飲むことはありませんでした…


歌い終わると、女性は薬を飲み干し、しばらく動いていたけれど、だんだん静かになった。


「悪夢だ!」


リベルタがシャワー室から走って出てきて、ミシェルを揺すって起こしにかかった。

リベルタは裸だった。


「ふ、服を着て!」


言いつつ、抜群のプロポーションだなと頭の片隅で思っていた。


「…う…。俺、何の夢みてた?」


ミシェルが頭を抱えながら起きたのを確認すると、リベルタは僕と目を合わせたが、恥ずかしい顔をすることもなく、またシャワー室へと入っていった。


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