第4話
僕は救急車を呼ぼうとしたけれど、リベルタがそれを激しく遮って、結局どこかホテルに部屋を借りることになった。
「3人部屋でよろしいですか?」
「はい」
「喫煙室と禁煙室が…」
「喫煙で!」
とリベルタ。
煙草吸うのか、と思いながら、僕が支払いをためらっていたら。リベルタがさっき作ったIDカードをかざしてチェックインした。
「ご利用ありがとうございます。マチルダ様」
本当にIDカードの書き換えなんてできるんだ。いったいどんなハッカーなんだろう。
部屋は2階で、廊下を突き当たったところにあった。借りた鍵でドアを開けると、ふたりでミシェルを運び込んだ。
背中でドアがバタンと閉まると、何だか不思議な気持ちになった。
リベルタを見る。琥珀色の目にどうしても心が揺れてしまう。こんな綺麗な人と逃げているなんて、なんだか映画みたいだ。
ミシェルはフラフラと、ベッドまで歩くと突っ伏した。
「鎖が…視界を遮って…」
「わかってるミシェル、この部屋に盗聴器がないか調べてくれ!そのあとでなら倒れてもいいから」
リベルタはミシェルの靴を脱がしながら、ミシェルに頑張れとけしかける。
ミシェルは、深呼吸をすると、目をつむった。さっき倒れた時よりは顔色も若干良くなったようだ。
「…この部屋にはない。上の階にひとつ、たぶん古いタイプのが。ラジオで『なるようになるさ』が流れてる。いい曲だな」
そうして、まるでラジオが聞こえているかのように、曲にふけっている様子を見せた。
「なるようになるさが流れてるのか?こっちでも流すか?」
「俺は聞こえるからいいよ。…上の階の盗聴器教えたら怪しまれるかな」
「どんな人が入ってるんだ?」
「新婚旅行らしい」
僕はなんとなく漠然とそれを眺めていたが。
「!」
突然ミシェルが顔を真っ赤にして、耳をふさいだ。
「どうしたんだ?」
僕が聞くと。
「いや、その…」
「あー、わかった!上の階の人ヤってんだろ新婚さん!」
リベルタがニヤついて叫んだ。
「えー…」
僕にも少しわかってきた、盗聴器で電波が飛んでいると、その電波を拾ってしまうんだろう。
それにしても、ベッドで休んでいて上の階のセックスの音が聞こえてしまうなんて大変だ。
「どこかテレビの電波でも拾っておくよ…」
ミシェルは枕を頭に乗せて、大きくため息をつくと、そのまま眠り始めてしまった。