第2話
食事をしながらふたりが話した内容によると(といっても名前しか名乗らなかったが)、女の子のほうがリベルタ。金髪青年のほうがミシェルというらしい。とにかく相当空腹だったのだろう、ふたりとも無言だ。特にリベルタのほうは手まで使って押し込んでいる。
そうして、ようやくお腹が落ち着くと、食後にリベルタは珈琲を、ミシェルは紅茶を飲みながらため息をついた。
リベルタが言う。
「追われているんだ」
「見ればわかります」
僕は続けた。
「お金あるんですか?僕学生なんであまりないですよ」
昔は、現金というものが主流だったので、犯罪をおかした人も飲食ができたらしい。今は個人情報カードが身分証明書から金銭の収支の全てを管理している。つまり、指名手配されている人は、どこに行っても支払いができず自動で通報される仕組みになっている。このふたりも、何らかの事件を起こしたか巻き込まれたかして、カードが使えなくてお腹を空かせていたのだろう。
「個人情報カードを貸してくれないか」
やっぱり!
「僕は払いませんよ!だいいち、食べていたのはふたりだけだし」
「違うんだよ」
リベルタが耳打ちしてきた。息が当たるとなんだかドキドキした。
「違うって?」
「貸しなって、増やしてやんよ」
僕が個人情報カードを出すと、ミシェルがそれを受け取った。そして店の片隅にあるお菓子のコーナーへ行くと僕のカードを差しこんだ。やっぱり勝手に使うんだろうか。でも僕のカードは、セキュリティがかけてあるから、他人には使えないはずだ。
少し時間がかかっていただろうか、やがて棒のついたキャンディがひとつ出てきた。
そして、パソコンに繋ぐわけもなく、スマホをかざすわけもなく、そのままサッと僕にカードを返した。
「僕のカード、セキュリティかかってなかった?」
リベルタは笑いをこらえている。
「残高確認しな」
僕は、スマホを取り出すと自分のカードの残高を確認した。
「100万だって?!ちょっとまって、これ、犯罪じゃないのか?」
確か僕の残高なんて10万もあるかといったところだったはずだ。履歴を調べると、少額ずつ返金だの振り込みだのが連なっている。しかも、過去にさかのぼってデータを書き換えないとこんなことは不可能だ。
「ゆっくり休める場所を探してほしい。お金が必要なら、ミシェルがいくらでも増やせる。怪しまれない金額ずつ渡すことになるけど」
リベルタはそう言うと、ミシェルを見つめた。ミシェルはサングラスを取って、店の防犯カメラを見つめている。
「消せる?」
「大丈夫だ、繋がっている。追いついた、消した…」
ミシェルは疲れ切った様子で、ひとつ大きく息を吐くと、僕のほうをじっと見た。
「信じてほしい、俺たちは何もしていない」
初めてサングラスを取ったミシェルを正面から見たが、吸い込まれそうな青い瞳が、不思議だった。こんな顔だったら、僕にも彼女がいたんだろうか、超絶な美男子だ。
リベルタは、ミシェルを心配そうにぼんやり見つめながら。
「このまじゃ、あたしはまだ大丈夫だけど。ミシェルが死んでしまうんじゃないかって心配で」
僕は頭を抱えた。何がなんだかさっぱりだ。だけど、ひとつだけ訊いておかなければ。
「ふたりは、何をしたんだよ?何で追われているのかくらい…」
「あたしたちは」
リベルタは怒りの表情をあらわにした。
「人を殺せないから追われているんだ」