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朝食はバターの香りと共に(2)

「本当にいくらでも使っていいのか」


「好きなだけ使え。なんなら浸すくらいかけてもいいぞ」


 ハチミツの瓶を持つエルフリーデは、慎重すぎるくらいゆっくりとフレンチトーストにハチミツを垂らしていく。初めにハチミツを使った際には各所に一滴ずつ垂らして食べようとしたので、もっと使ってもいいんだぞと勧めたら予想以上に驚かれた。

 どうやら向こうの世界ではハチミツは相当な貴重品のようで、それを好きなだけ使うということは信じられない行為らしい。


「加減はお前に任せるが、俺はこのくらいだって使うぞ」


「バカな、貴様は王にでもなったつもりか!?」


 ハチミツの瓶はエルフリーデが持っているため、久継はメープルシロップの瓶を持ちそのまま傾けた。黄金の液体がどろりとフレンチトーストに垂れていき、中央にたっぷりと乗せたものをナイフで伸ばして切り分けていく。

 切り分ける際にザクリと小気味いい音を立てて分けられたフレンチトーストは、内側にまでメープルシロップが染みわたり、それをフォークで刺し口へと運ぶ。

 その様子を、手を震わせながら見守っているエルフリーデは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「どうした、食べないのか。他にも果物とか色々あるぞ。好きなだけ食え」


「後から金貨など請求されても、私には払えんからな。食べた後で対価など要求はするな」


 口調は変わらないものの、目の前で一掬いずつ垂らされていくハチミツにその目は釘付けであり、久継がメープルシロップに浸されているフレンチトーストに、苺のジャムまで乗せて食べているのだから我慢など出来ようもない。

 ナイフとフォークは使い慣れているため、いつも使っているように切り分ける。

 そして、ハチミツを自分の中では限界の量まで塗った一口大のフレンチトーストを口に運び、噛み締めた途端にエルフリーデは目をつむり身悶えた。

 口内に広がるハチミツの甘味に、その後から広がるバターとパンの香ばしい香りがたまらない。フィニエスでは甘味類は高級品であり、贅沢に好きなだけ使うなどということは、貴族や領主でも特別な日だけの楽しみだった。王であってさえも、その限りではないだろう。

 それを、居候である自分にその贅沢を勧めてくる、この平民は何者なのだろうか。


「お前、そんなに甘いもの好きだったのか」


「この日本とやらでは、これが普通なのか……?」


「朝食にフレンチトーストか。実をいうと俺は米派なんだが、パンのほうが口に合うかなって」


「そうではない、こんな量の甘味を消費できるほど豊かなのかと聞いている」


「そっちか、確かに少し多いかもしれんが、人によってはこれが日常だしもっと多い人もいる」


「なんと……日本とはそこまで文化が発達しているのか」


 この時点で文化レベルを考えているあたり、年齢に見合わず賢い子なのだろう。

 だが、そんな勇者様も甘味の前ではこのとろけ具合である。


「ほら、こっちも食べてみろ。これは口に合うかはわからんが、うまいぞ」


 一口フレンチトーストを食べただけで感動しきっているエルフリーデの皿に、果物を各種乗せていき、1つ乗せられる度に慌てるエルフリーデの様子は大変面白かった。

 その後は新しいものを食べる度に手を止め感動し、食べ終わるまでに1時間ほどの時間を有して、片付けが終わった頃にはすっかり昼を過ぎていた。


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