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勇者を名乗る少女(3)

 幸いブレーカーが壊れていることはなく、少し作業しただけでアパートの電気は元に戻ったが、久継の住む201号室が停電の原因だということはすぐにばれたようで、大家からお説教を受けてしまった。

 その間エルフリーデは、入り口から見えない死角の部屋の隅に座らせておき、無事に見つからずにやり過ごした。


「驚いたな、本当にさっきのは魔法なのか」


 大家のお説教から解放され、部屋の隅に座り込んでいるエルフリーデの元に戻ると、エルフリーデは頭を抱えて小さくなっていた。どうしたのかと頭をつついてみると、目だけを覗かせちらりとこちらの表情を伺う。


「違うのだ、私はただ貴様の髪を少し逆立てる程度のエントラを使ったつもりだったのだ。それが、まさかこの家屋の機能を壊してしまうとは、露ほどにも思わなかったのだ」


「なんだ、そんなこと気にしてたのか。勇者のくせに、案外小心者か?」


「小心者とはなんだ!私がしおらしく反省していれば、勇者をなめるな!」


 勢い良く立ち上がったエルフリーデは、握ったこぶしを振り上げ全身で不服であると抗議する。そんなエルフリーデの頭に久継は手を置き、乱暴にわしゃわしゃと髪をかきまぜた。


「わぷっ、何をする無礼者!」


「ガキが失敗したくらいでへこんでんじゃないの。そもそも魔法を見せてくれって言ったのは俺だし、お前が気に病むことなんてないだろうが」


 頭をぐりぐりとされているエルフリーデは、片目を細めながらもその手を振り払おうとはしない。さて、とその場を仕切りなおした久継は、座布団を2枚運んでその場に並べた。


「とりあえず、現状を整理するぞ」


 座布団に胡坐をかく久継に対し、意外にもエルフリーデは座布団に正座をした。

 ここに来るまでにどこかで知識を得る機会があったのだろうかと思ったが、ここに来る経緯も含めて話さなければと、久継は机に置いてあったお茶を一気に飲み干した。


「とりあえず、エルフリーデの言っていることが嘘じゃないと信じよう。その上で聞くが、お前は自力でフィニエス王国とやらに帰れるのか?」


「うむ、それなのだがな。こちらに来れたということは何かしらの手段で帰り道も開けるとは思うのだが、如何せん情報が足りない。私とてこの世界に来たのは本意ではないし、帰れるのならばすぐにでも帰りたい」


 眉を八の字にして困った顔をしたエルフリーデは、肩を落としながら現状を説明する。

 久継も腕を組んで考えるが、そもそも魔法の存在を知ったばかりで、異世界への帰り方などいくら考えてもわかるわけがない。となれば、次の問題はこの勇者の日本での生活である。

 エルフリーデが着用している衣服はぎりぎりオシャレの範疇とも言えなくもないが、それでも少しこの日本では浮いてしまう。服装自体はそこまでおかしくはないのだが、防御力を上げるためだろうか、各所に留め具やバックルのようなものがはめ込まれている。


「お前、帰る方法が見つかるまで、どうするつもりだ?」


「残念ながら、この世界に頼れる知り合いはいないのだ。明日からはまた広場の大筒や、橋のたもとで寝泊まりするしかないな」


「ちょっと待て、お前日本に来てどれくらい経ってるんだ」


「かれこれ、3日ほど経っているな」


 その答えに、久継は絶句した。

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