フィニエスの勇者(3)
エルフリーデが握り締めた赤い聖剣が、少女の心の揺れ方を表すようにその輪郭を朧げに揺らす。久継はエルフリーデにどう対応するのがいいかと考えるが、聖剣を握り締めて涙を流す少女にかける言葉が浮かばない。
「残党刈りをしている時に、ふと考えてしまうのだ。この力は私には過ぎたものだったのではと、私以外が使えばよかったのだと。そう考えれば考えるほど、自分に自信がもてなくなったのだ。そして思ってしまったのだ、私ごとき小娘が戦争を終わらせるなどただの傲慢だったのではと」
言葉は浮かばなかった久継だが、エルフリーデの発言に引っかかるものを覚えた。
そして、エルフリーデに気づかれないよう棚の後ろへと手を伸ばし、目的の物を掴んで背中へと持ってくる。
「私に世界を救う資格など、人を救う資格などなかったのだ。人を救っていたつもりが、新たに不幸な人を生み出し、勇者を名乗る資格などあるわけがない。だから異世界である日本へと、誰かが転送陣を細工し私を飛ばしたのだと私は思う」
「よし、エルフリーデ。そのまま動くなよ」
俯いていたエルフリーデは素直に動きを止め、その俯いている頭めがけて久継は手を振り抜いた。スパァンといい音を立ててハリセンがエルフリーデの頭を強襲し、軽い衝撃と大きな音に驚いたエルフリーデは目を白黒させている。
「さっきから聞いてれば、人を救う資格だの過ぎたる力だの、何様のつもりだ!」
「きっ、貴様!私のことを何も知らぬくせに、何様とは何様だ!」
「お前のことで知っていることなんて、泣き虫で食い意地の張った年相応の部分しか見てないからな、勇者エルフリーデなんて俺は知らない!」
「――ッ!」
いきなり頭をはたかれるという、勇者になってから一度も経験していないであろう衝撃に、涙も引っ込み言い合いになるが、久継の一言にエルフリーデは思わず言葉に詰まった。
久継はそんなエルフリーデに、さらに言葉をつないでいく。
「まだガキなのに、色々背負い込みすぎなんだよ。そりゃ周りの大人が勝手に背負わせたものもあるだろうが、ほとんどは自分で抱えてるだけだろうが。確かに勇者としての矜持や立場ってもんが、向こうの世界ではあるのかもしれない。けどな、ここにいるときくらい責任なんて考えず、やりたいようにやっていいんだ」
「私の……やりたいように?」