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勇者の聖剣講座(2)

エルフリーデは、赤く輝く聖剣を先ほど切ったカボチャに当てるが、かぼちゃが切れるような様子はない。聖剣はかぼちゃを貫通するだけで、傷一つ付いていないのだ。


「このように、破邪の剣は物理的な破壊力は持たないが、その代わりに内面を切ることができる」


「内面を切る?精神的な何かを切る感じか」


「相変わらず理解が早くて助かる。読んで字のごとく、破邪という名の指す通りこの破邪の剣は、切った者の邪な心を切ることができるのだ」


 どこか誇らしげに聖剣を掲げるエルフリーデの話に頷きつつ、久継は同時進行で調理を進めている。今は野菜をあらかた切り終わり、付け合わせの粉ふきいもを作るためにじゃがいもと水を火にかける。

 

「切った者の邪な心を切る、か。じゃあ、それで切られても死ぬことはないんだな」


「もちろんだ。むしろ、血を流さずに決着をつけるために、この聖剣を私は使っている。聖火の剣は扉を切ったり、柱を切ったりと建物に突入する時しかほとんど使わん」


「なるほど、ずいぶんと便利な聖剣だが、他に聖剣はあるのか」


「うむ、歴代勇者は様々な聖剣を顕現させていたらしい。魔力の塊として使っているのは私だけらしいが、一振りで山河を砕く破壊力を持った聖剣や、その剣を抜くと闘争心や身体能力が飛躍的に上昇する聖剣などがあったらしい」


 後半のは魔剣の類ではないだろうかと思いつつ、じゃがいもに竹串を刺してすんなりと刺さったので、湯を捨てて水気を飛ばすためにさらに火をかける。水気が飛んで表面が粉を吹いてきたら、適当に胡椒やパセリをかけて完成だ。


「それはあれか、その代の勇者の性格とか性質が反映されてる感じなのか」


「一概にそう言えるかは私にもわからんが、無関係ではないだろうな」


「だとすれば、エルフリーデらしい優しい聖剣だ。少なくとも、さっきの魔剣とは大違いだな」


「なっ、優しいなどと、私はただ勇者としてだな……」


 勇者としての功績を褒められることには慣れていても、自分自身を褒められることには慣れていないのか、優しいと言われただけなのに聖剣が霧散した。慌てている姿もかわいいが、そろそろかぼちゃの調理にも取り掛かる時間だ。


「エルフリーデ、さっき切ったかぼちゃの種をくりぬいて、一緒に皮も剥いてくれ」


「わかった、種は乾燥させておくのか」


「いや、種は捨てるぞ」


「バカを言うな、この種一粒から村人たちの来年を生きる糧が」


「そういうのは農家の方々がやってくれるからいいの。普通の家でかぼちゃの栽培とかできないから」


 しぶしぶといった様子でかぼちゃの種をくりぬき、かぼちゃの堅い皮を聖剣を使ってするすると剥いていく。普段はかなり固めで苦戦するかぼちゃの皮剥きだが、聖剣があるだけでこんなにはかどるのかと少しうらやましく思う。

 あっという間に種と皮がなくなったかぼちゃを、エルフリーデは久継の指示通りに1cm幅に切ってから皿に乗せ、ラップをしてからレンジに入れる。


「この薄い膜はなんなのだ」


「これがあると、野菜が乾燥しないでいい感じに柔らかくなるんだ」


 ラップをかけるとどうなるかなど、いちいち考えたこともなかったが、しっかり説明できるよう調べておこうと思ったが、レンジの仕組みのほうが実はよくわからない。エルフリーデに水分子の話をしても難しいだろうしと考えながら、久継はポタージュ用の玉ねぎを鍋の中でバターと共に炒めつつ、フライパンでは塩コショウで下味をつけ小麦粉をまぶした鮭に火を通していく。


「それ、面白いか?」


「うむ、ただ回っているだけなのだが、なぜだか目が離せんのだ」


 レンジの中でくるくる回っているかぼちゃをじっと眺めているエルフリーデは、年相応の姿に見えてなんともほほえましい。厄介なかぼちゃを片づけてくれたことに感謝しつつ、火が通った鮭をいったんフライパンから外し、バターとニンニクを香りが出るまで炒めていく。


「ヒサツグよ、この世界の料理はこんなに手間のかかるものばかりなのか」


「お前の世界だと、手間のかかる料理はないのか」


「ないことはないが、基本の調理方法が切る、焼く、煮るくらいしかないからな。どうしても同じような料理が増えてくる」


 日本の戦国時代と、変わらない水準だろうか。

 その調理過程のみでも、やろうと思えば色々とできそうだと考えながら、食欲をそそる香りを立て始めたニンニクに、レモン汁とバルサミコ酢を加えてソースを作る。

 そこに先ほどの鮭を戻し、ソースを絡めながら再度火を通してムニエルの完成だ。

 同時にかぼちゃの過熱も終わり、エルフリーデは熱くないのか平気な顔をして加熱後の皿を持ち、そのかぼちゃを炒めた玉ねぎの入った鍋へと入れる。牛乳と一緒に煮込んでから手持ちのハンドミキサーで、かぼちゃを細かくポタージュ状にして完成なのだが、エルフリーデは緊張の面持ちでハンドミキサーを使っていた。


「この国の料理には、こんな武器まで用いるというのか」


「武器じゃねえから。指とか挟むと危ないけど、武器じゃねえから」


 少し砂糖を加えて甘みを出し、かぼちゃのポタージュも完成する。

 じゃがいもと一緒にゆでておいた人参と粉ふきいもをムニエルと共に平皿に盛り付け、ポタージュもよそって食卓へと運ぶ。最後に2人分のご飯を運び、大きなトラブルもなく夕食の準備が終わった。

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