渡り廊下のシンデレラは愛しの王子に気付かれたい
桜並木の中で制服を着て歩くのも今年で最後なんだなと思うと、寂しさが滲んでしまいスカートの裾をぎゅっと親指と人差し指で挟む
「よしっ!行こう!」
若干の寂しさを振り払って小走りに並木を抜ける
まだ新年度は始まったばかりなんだから
☆★
私が通う酒蔵高校は名前の由来通り元々は酒蔵があった場所を高校にしたらしい
だから新年度が始まる入学式や終わりの卒業式には代表が特注の酒樽を木づちで割るのが伝統なの
昇降口前には新クラス表が貼り出されているせいか沢山の生徒が友達と一緒だとか当たりの担任だと騒いでいる
「ええっと私のクラスは……」
進藤麗羅……進藤麗羅…あった!
私の名前が6クラスある内の2組に進藤麗羅の文字を見つけた
ちなみに……あの人が2組にいたりして〜なんて淡い願望を胸にリストに再び目を通してみると……
あっ……あーっ!ああぁぁっっ!!
アッタ………アッタヨー!!
3年間片想いの相手
神田亮治の文字が神々しく見える
「おーい、レイ?オメェ大丈夫か?」
はっ!息をするのも忘れて只のクラス表に見入ってしまったみたい
時間ギリギリを攻める聖良ちゃんが来るまで昇降口にいたなんて……恥ずかしい
手の平で顔を覆い隠す私を尻目にクラス表を確認しているのは数少ない友達で親友の綺羅星聖良ちゃん
名前が珍しいのもあって昔は苦労したみたいで男っぽい性格はそれも原因の1つなのかも
「おっ!3年間変わらずレイと一緒のクラスだな」
「腐れ縁だよね〜」
「……どういう意味だぁ〜?あぁん?」
「冗談だからほっぺつねらにゃいれ〜」
でも内気な私にも気さくに話しかけてくれて相談に乗ってくれる優しい女の子
肩までのショートカットがよく似合ってるんだ〜……そして胸も大きいの
私も負けてないと思うんだけどな〜
「レイも遂に運が回って来たんじゃね?神田とおんなじクラスだぜ?」
ニヤニヤしながら見られると意識しなくても顔に赤みが増してしまう
無視して教室に向かおうとした時
「聖良っ!まだ服装チェック終わってないぞっ!ちゃんとボタンを閉めなさい!」
校門の方から生徒指導の先生が叫んで走って来る
「っべ!悠長にしてる場合じゃねぇぞ?」
「ちゃんとボタン閉めなよ〜」
「っせぇなぁ!いいんだよボタンなんか、行くぞっ!」
「私関係ないのに〜」
聖良ちゃんに手を掴まれ新しいクラスまで走らされた
3年生は4階建ての2階にクラスがあるから遅刻ギリギリダッシュも楽になるな〜
3年2組の札が見えて教室の前、磨りガラスで中は見えない
新しいクラスメート達がそこにはいる
深い呼吸を一つして隣で待ってくれている聖良ちゃんと一緒に扉を開ける
「おおっ、悪い。ビックリしたよな」
開けた扉の数センチ前に亮治君が立っていて私達同様に人がいてビックリした様子
これはお知り合いになる千載一遇のチャンスなのでわっ?
「こ、こちらこそごめ……」
「ビックリするだろうがぁ!気をつけろよなっ!」
「わ、悪りぃな。すまん」
聖良ちゃんは短気だから思った事をすぐに言ってしまう
あああーっ!亮治君と仲良くなるいいチャンスだったのにっー!
「レイも何とか言って……ん?どした?」
聖良ちゃんが言うにはその時の私は亮治君の方を向きながら聖良ちゃんを睨み続け『ごめんなさい』と呟きつづけていたらしい
片想いの相手が目の前にいて、その相手に親友が文句を言ってたのが私の思考回路がショートしてまった原因だろう
自分の座先を確認してつっ伏せる
「うぅ〜お終いだよ〜」
「元気だせよ。まだチャンスはあるって」
「……ぐすんっ。 ドン引きしてないかな?」
「……シテナイヨ」
「うわーーーん」
新しいクラスで初めのHRですることと言えば勿論、自己紹介
まずは担任の先生が紹介してから出席番号順に名前と部活と趣味を軽く30秒程で発表する
隣の3組は好きな食べ物からアーティストまで2分で発表させられたと聞いた時は3組じゃなくて良かったと心底思ったよ
「名前は神田亮治、部活は……」
あっ!亮治君の番だ
亮治君……かっこいいな〜
背が高くて顔も整ってて身体つきも良くて〜って私がただ見た目で選んでるみたいじゃない!
私が亮治君を好きになってのにはちゃんと理由があるんだからっ!
あれは私が入学してすぐの移動教室で迷子になっちゃった時
別館への渡り廊下を半泣きで歩いてたら前から亮治君が
「もしかして迷った?その教科書は……音楽だね。任せて」
って私の手を引いて別館にある音楽室まで連れて行ってくれたおかげで始業ギリギリだったけどなんとか間に合った
けど亮治君は別クラスだから遅刻してしまったに違いない
何だかんだタイミングがなくてまだあの時のお礼、言えてないな〜
「進藤さんっ!聞いていますか!?あなたの番ですよっ!」
担任の笹本先生が窓際の私の机を揺らしていて眉間に皺が寄っている
思い出に浸っている間に順番が回って来ていたみたい
急いで立ち上がるけど焦ってたからか考えていた発表が頭からすっぽり消えていた
どうしよう〜と斜め前の聖良ちゃんを見ると
『吸って〜吐いて〜』のジェスチャーをしてくれている
すぅ〜と一息したら落ち着いてきた
「な、名前は進藤麗羅です。部活には入ってなくて〜趣味は…りょ、料理ですっ!よろしくお願いしますっ!」
勢いよく腰から折り曲げてお辞儀をしたので机に頭をぶつけてしまったけど、みんなの緊張していた空気が解けたみたい
近くの子が心配してくれる中で聖良ちゃんだけは突っ伏して笑いを堪えてる
全員が発表し終わったと同時にチャイムが鳴り休み時間に
まだ突っ伏して笑ってる聖良ちゃんの脇腹は今はガラ空き、することは一つ
両手の人差し指で脇腹をちょんっと押し込むと『あひっ!』と笑いも相まって情けない声が飛び出た
「可愛い声が出たね〜」
「覚悟は、出来てるよなぁ?」
「ご、ごめんなひゃい〜」
二度目のつねりはダメージが蓄積されてる分余計に痛かった
ほっぺを抑えながら行きたかったトイレに向かう
みんな緊張してたせいかトイレの前には列が出来ていて休み時間内には入れそうにない
どうしようかと思った時、2階には渡り廊下がありそこから別館のトイレに行ける事を思い出した
あまり時間もないので小走りに廊下の突き当たりを左に曲がり渡り廊下が見える
何とかトイレを済ませて出ると周りには誰もいない
慌てて来た道を戻り渡り廊下を走ると前に人がおり後ろからぶつかってしまった
「ご、ごめんなさい!」
「こちらこそって、あれ?進藤さん……だよね?」
「え?」
ぶつかった相手は亮治君だった
言いたい事は山ほどあるけど全然頭が回らないよ〜落ち着け私ー!
そうだ、あの時のお礼言わなきゃ
「あ、あの…音楽室まで連れていってくれて……ありがとうございます」
「ん?……あー!あの時の女の子進藤さんだったんだ!気にしなくてもいいのに」
「そ、それと…ぶつかってごめんなさい」
「いいよいいよ。それより早く行かないとあの時みたいにギリギリになっちゃうぜ?」
そうだった
急がなきゃ遅刻しちゃう…けどもっと亮治君とお話ししたいよ〜
でも急がないと……あー!混乱してきた〜
「わ、私そろそろ行くねっ!」
「えっ、なら一緒に」
「だ、大丈夫だよ!もう迷わないからーっ」
一緒に戻りたかったけど、クラスの皆に勘違いされて迷惑かけたくないから意味わからないこと言って逃げちゃった
嫌われちゃったかな〜?うぅ
★☆
「進藤さん……不思議な子だな〜」
走り去った彼女を見送って後を追うように戻ろうとした時、進藤さんがぶつかってこけた所に何か落ちている
これは……ハンカチのようだな
先程の衝撃で落ちたのだろう
届けてあげようと拾い上げたら模様が見えてしまった
そのハンカチはガラスの靴の刺繍が入ったもののよう
「なんだか、まるでシンデレラの物語みたいだな」
1人廊下で呟いた




