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遊夢編01

その日の放課後、僕と星井は図書室へとやってきた。


叔父には公衆電話から遅くなるとは伝えた。


前にも言うたが、僕はスマホを持っていない。


どうせ来年にはこの学園を去ることになるし、その時に星井や悪魔と会えなくなっても僕は困らない。


僕は彼女達を『友達』と思ったことはないのだから。


そんなことを思いながら数分後、図書室に入り席を取った。


「星井、お前の苦手教科って……」


「恋、かしら?」


赤らめながら決め顔になりながら、彼女は冗談を言うた。


「じゃあ国語な」 


僕はツッコミすらせず華麗にスルーし、国語の教科書を開き、最近までの内容を復習することにした。


星井もそれに習い、真面目に僕の話を聞いた。


あまり悩むこともなく問題を解き進め、質問も僕が悩むほどの難問もなく、軽々と復習する。


星井は僕が思っている以上に勉強が出来ていた。


「なんだよ、不良のくせに勉強出来るのな」


僕は嫌味ながらそう言うた。


「私、推薦でここに来たくらいだから、このくらいなら楽勝なのよ?タカタカはまだここで期末テスト受けてないから知らないだろうけど、こう見えて上位なのよ」


「はっ?」


勉強が出来るのに、授業を毎回のようにサボっているのか?


僕はその疑問を星井に聞いた。


「……うちの教師、裏でセクハラするロリコンって知ってた?」


「あ、あの先生が?」


「それで私も被害者。でもその時に私の友達が動画ってくれてさ、それ弱味にサボってるのよ」 


「……そうか」


「へへっ、引いたよね?」


「いや、むしろ羨ましいと思ったよ」


「羨ましい?」


「……いや、なんでもない」


助けてくれる友達、僕にはないものだったから。


僕は僕自身を自分で守るしかない。


いつだってそうだ。誰も僕を助けてくれない。


昔からそうだ。周りの人間は、僕を否定する。


僕を拒絶する。君の悪い、この能力のせいで。


「……すまん星井、今日はここまでだ」


「えぇ、もう?」 


急に頭が痛くなった。


思い出したくない記憶を見たからだろうか。


「勉強出来るならいいだろ?他のことで穴埋めしてやるから」


「ほんとに!?じゃあ、今度の土日にデート!」 


「デートだと?……まあ、言い出したのは僕だから、いいよそれで」


「やったぁ!……あっ」



――図書室では静かに。



周りがこちらを睨んでいたことに気付き、僕と星井は図書室を出た。 


「それじゃ、またな」


「約束、忘れないでね!」


僕はとりあえず近くの水道で水を飲み、軽く息を吐いた。


徐々に体調も落ち着き、僕は家に帰ることにした。


学門の前まで歩いていると、見覚えのある少女がいた。


「奇遇だね、変態さん」 


転校生の亜熊だった。


相変わらずの際どい格好、どちらが変態なのやら。


「僕の名前は高橋炊柏だ。お前も変態だろ、そんな目立つ格好して」


「ふふっ、見たいの?」


「バカ言うなよ。それじゃあな」 


「待ってよ。折角なんだから近くまで一緒に帰ろうよ。私、まだこの町になれてなくて」


「駅か?」


「そそ」


「近くまでは僕も同じだから、そこまでは案内するよ」


亜熊と近くまで一緒に帰ることになった。


彼女は雰囲気でいえば大人引いていて、甘い香りがする。


香水というよりは、フェロモンのような感じだった。


異性なら誰もがメロメロになりそうな――


「なに見てるの?」


「いや、別に」


「ほんと、変態さんだね」


「はいはい、僕は変態ですよ」


面倒だから軽く会話を流した。


それにしても、昼間はあれだけ騒いでいた男子が誰ひとり、彼女と下校しないのは何故だろ。


彼女が断った?


まあ、そう考えるのが普通だろう。 


しかしそんな彼女と一緒に帰るのは、他の男子に比べると優越感はあった。


そんな彼女との下校も、終点となった。


「さ、ここを真っ直ぐ行けば駅だから」


「ありがと。君、変態のくせに優しいのね」 


「変態はみんな優しいんじゃないか?」


「適当いっちゃってさ。まあいいわ、またね」


軽く手を振り、僕も家へと向かった。


その道中、ふと僕は少し彼女を思った。散々は言われてしまったが、彼女とは話が合う。


どこかの悪魔や不良より、健全に感じていた。


「亜熊、ね」


僕はほくそ笑んでいた。


まるでこんなの、僕が僕じゃないみたいに。


ほんの少し、明日が楽しみになっていた。

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