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第4話―覚醒する悪魔―

 僕の名前は高橋炊樫(たかはしたかし)、17歳。


――という自己紹介ついでに改めて僕の能力を説明する。


 ひとつ、相手の認識を書き換える能力。


 ふたつ、認識したものを現実に変える能力。 


 これらは2つに1つの能力。


 このセットがあってこその能力だが、僕はこの能力を何故持っているかは分からない。


 生まれた時から持っていたのだろう――そしてそれを持っていたことに気付いたのは16歳、割と最近だった。


 しかもこれらは目からなのか手からなのか、発現している身体の部位も分からない。


 念を込めれば使える、というだけだった。 


 そんな僕の今住んでいるのが叔父の家、いや正確には古本屋『落とし物天使ちゃん』とふざけた名前の店である。


 2階建てだが土地は狭く、店である1階ですら、結構ギチギチに本が詰め込まれ重ねられで、新刊だけは外の陳列に置いてある。


 そして外にある鉄紺階段を使い2階に行ける。


 そこは常に本の在庫が何冊あり、部屋の広さはキッチン、トイレ、畳が八畳ほどの部屋である。  


 そこが僕が今住んでいる部屋だった。


 そして放課後、家に帰り、階段を上る手前、予定がなければ決まって叔父が僕を呼び止めるのだ。 


「タカタカ、すまんが店番頼む。じぃじはパチンコに行かなきゃならん」  


 叔父は自分のことを『じぃじ』と呼ぶ。


 歳は40代過ぎくらい、髪は白でいつも茶色のニット帽を被っている。 


 趣味のパチンコのために、こうして夕方いつも待っているのだ。


「またバイト代は勝ち分次第?」


「贅沢言うなよ。本は売り上げにならないんだからよ」


 本を買う人はほぼ皆無、新刊は別として。


 古本屋とあって、中に置いてある古書は埃まみれで買うこと人がいないのだ。


 それ故に雑誌の新刊でぼちぼちと売れたお金を叔父はパチンコで一山稼いで食い凌いでいた。


 僕は店内のレジにある椅子に座り、来るはずもない客を適当に本を読んで過ごすだけでお金となるのだ――じぃじ次第だが。


「……これにするか」


適当に本を取り、店番が始まった。





 パラパラと本を読み初めて1時間後、見覚えのある姿が顔を見せたのだった。


「この匂い……やはり居ったか」


 星井操を拉致した悪魔の茶髪女子高生だった。


 以下悪魔と称する。


 店に入り、こちらを凝視する。


 こちらがなにか言い出すのを待つかのように。


 黄色の瞳がギラギラと輝き、今にも翼が生えそうだ。


 言うなれば、猫が威嚇で毛を逆さでるみたいだ。


「いらっしゃい、悪魔さん」


 僕は冗談混じりでそう言ってみた。 


「なに読んでるの?」 


「シェイクスピア」


「あらそ。それよりも私がここにきた理由、気にならないの?」


「ならない」 


「あなたを殺そうとしたのに?」


「そんなこともあった」


「昨日の今日の話しでしょうが」


「なら、二度とその口を聞けないようにしてやろうか?」


「……殺す」


 僕は強気にそう言い放った言葉に彼女は動揺すらしなかった。


 彼女は翼を大きく生やすと、今度は頭から大きな羊のような角を生やす。口の歯も悪魔染みた八重歯が目立つ。


 店の本が台風のように舞う中で、僕は力の解放を余儀なくされた。 


 彼女が何かを仕掛けようとするのは目に見えていたため、僕は持っていた本を片手に椅子から立ち上がった。


 認識させる力は、使いようでは様々なことができる。


 僕はその力の使い方を知っている。既に前例としてあるのだ。


「お前は、クラウチングした時点で試合終了なんだよ」


「はっ?」


 僕は持っていた本を投げつけた。


 彼女にとってはその本が大きく見えている。


 本は彼女の体を挟むように包み込んだ。


「何をする気だ!!」 


「前回の時点で君は僕と関わるべきじゃないんだ。ましてや現代の悪魔がこんなところに来た時点で負け戦もはだはだ強いぞ」


「またやらしいことでもするのか!?」


「もうそんなことする必要もないだろ?あれは『あくまで脅し』なのだから。今度のは、(ぬる)くないやつだ」


 本に挟まれた彼女の顔に手をかざした。


 かざした手で僕は彼女の顔を鷲掴みにした。


「僕は今から君の能力を奪う」 


「そんなこと、出来るわけがないだろ!」


「出来るんだよ。僕に不可能はない。現に君は僕のようなものに犯されたんじゃないのか?」


「……!や、やめるだ……」


 今、彼女の認識が変わり始めた。


 認識は意識が濃いほど、僕は能力を発揮しやすい。


 彼女の顔に徐々に電気が流れ始める。


「いやぁぁぁあああああああ!!!」 


「君の力を、本の中に封印する」


 顔から出た彼女の悪魔の表情がそのまま挟んでいた本に封印された。本は束縛を止め、僕の手元へと返ってきた。


 本の表紙に小さい刻印のようなものが浮かび、これで僕は悪魔の能力を使うことができる。


 そして彼女は悪魔が抜かれ、人間しかない空っぽの悪魔になった。


 その一瞬の出来事に彼女は戸惑った。


 本当に今、能力が抜かれたのか疑心暗鬼していた。


「……これは、本当に……」


「さ、喧嘩は終わりだ。これで、お前は、殺せない」


「うぅ!うぅ~!!」


 彼女は力が出ない実感が湧いた。


 どんなに頑張っても悪魔に成ることが出来なくなっていた。


 彼女は泣いた。その場で静かに涙を流した。


「返して……返して……」


 彼女は僕に静かに詰め寄ったが、僕はそんな彼女が少し可哀想に思えた。


「もう二度と僕に近付かないと、誓うか?」


「……!」


「誓うのか?」


「……降参よ。あなた、私より悪魔よ、ほんと」 


 僕は彼女に能力を返した。


 もちろん全部じゃない。本に封印した能力が一覧となって出ていたため、気になったものだけを残して返した。


「さあ、これで魔界にでも帰れよ」 


「……さよなら」


 彼女はトボトボと店を出て、空へと帰っていった。


 僕は再び店番へと戻った。


 ちなみに、散らばった本はちゃんと片付けた。


 本は物だから本自体に認識を変えることはできない。


 彼女の能力、明日確かめてみよう。

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