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女子高生は悪魔or催眠術師?  作者: 名無 無垢
戦闘準備の回ー天使編ー
49/49

最終章ーさよならー

昔のことだが、魔界人と人間が仲良くなった時代が終わり、戦争の時代が始まりを告げた。だが天界人の仲裁により、魔界人は天界人に血肉を分け与え、人のために罪を庇った。だがこの戦争を知るのは聖人のみ、当時まだ幼かったサタナエルは納得がいかず、怒りを露わに部屋を荒らしたという。


そして亜熊と悪魔はその時、弱いながらも戦争を生き残り、父サタンの死を見守り、次期サタンの後継者となる。そんな魔界人のお偉い様達が勝手な話を壁際で黙って聞くしかなかった。


亜熊はただの魔界人、特殊な能力など有りはしない。強いて言うなら、サキュバスとインキュバスの能力を半々に使い分ける。

同族からすればそれは決して良いものではなかった。その2つの種族は名は似てど、仲が良い関係ではなかったのだ。


そんな亜熊に寄りそったのは悪魔だった。


「……何よ」


「私、これから魔界人の戦力として魔王様の配下に着くけど、アンタも来ない?」


「私が?……役に立つかしら」


俯く亜熊、悪魔は軽く笑った。


「立つわ。それは私が保証する」


「根拠なんかないくせに」


「ない!けどね、私はアンタが好きだから、一緒にいたらどうにかなる気がするのよ」


「……ふっ、貧乳のくせに」


「今それ関係なくない!?」


そんな具合に亜熊は配下に着いた。そんな昔話、そんなことが今、悪魔の脳裏に浮かんだ。


塵のように砂となり、悪友に魂を喰われた。

高橋はただ、そんな彼女をただ涙を流してみているしかなかった。


「逃げるぞぉ!」


叔父さんの声だ。

今いる皆の場所の認識を書き換え、一斉にその空間をこじ開け、長い廊下を宙を浮きながら突き進む。

悪友は首の骨を鳴らし、翼を生やして追いかけてくる。


皆を引っ張りながら叔父は冷や汗を拭き、この短い時間で作戦を立てることを考えた。


「いいか!俺らの想像を遥か超えた力だ!このまま外に逃がすのも得策ではないのも分かる!でもやるしかねぇ!今俺らが奴を殺す以外に手はねぇんだよ!」


「……とはいえ、どうやりましょう?このまま逃げてるだけでは勝てませんよ?」


サタナエルの言葉に叔父は小さく頷く。


「これは賭けだが、俺が罠を張る。10秒……いや8秒が限界かもしれないが、動きを止められる」


「……」


「一か八か。このまま死ぬよりずっとマシな作戦だ。そうだろ、タカタカ!!?お前聞いてるのか!?」


「あぁ、聞いている。俺は今、冷静さを失いつつある。だからやるなら早めにやろう」


怒りで唇を噛み、血を流しながら殺気立てていた。その姿に叔父は寒気を感じ、悪魔と星井の顔を見た。


「仇討ち、なんて思うなよ?これは戦争なんだ。俺の指示に従って貰うからな?」


「……わかったわ」


「……はい」


悪魔と星井が小さく返事をした。



博打を打つような作戦が始まる。



しばらくして、追いかけてきた悪友が足を止めた。そこにはサタナエル1人が立っていた。


「皆はどうしたのかな?」


「知りませんね。それよりその力、亜熊の力か?」


「異族の力、ほんと宝の持ち腐れよね。こんな素晴らしい力があるなら、色々活用出来ただろうに」


「吸収と引用、確かに素晴らしい力ですね。知らぬ間に、私の魔力も徐々に吸い取ってるようですね」


「分かってるなら早く来なよ?それとも怖気付いて下でも濡らしたのかしら?ひひひっ!」


「狂気の沙汰ね。悪いけど、私は皆さんを逃がすので手一杯、天界のモノとしてもアンタを生かす訳にはいかないのよ!」


いつも被っていた帽子を脱ぎ、天使の輪を徐ろに出す。溜め込んでいた魔力を一気に解放し、自分の両腕から氷を詠唱させる。


ツララのように尖らし、そのまま複数の粒を悪友に浴びせる。


「無駄無駄無駄ッ!て、どこぞのボスキャラですか私はwwwそんなの痒い痒い!」


悪友は腕を一振りすると、突風で一気にツララを逆風となり、サタナエルにツララが刺さる。両腕を八の字に身を守るも、ツララを深く刺さり、苦しさが表情に出る。


「雑魚。ほんと雑魚」


「まだよ!【召喚術ー影の王ー】ラミエル、ガブリエル、ウリエル、サンダルフォン!」


天界人の天使たちの分身を召喚し、その意思はサタナエルに従順である。

この召喚で既にサタナエルの魔力はほぼ0に等しい消耗だった。しかし召喚された天使の実力は本物のさながら、悪友を倒すことも可能だと思った。


「さぁこれで貴方も終わりです!」


「あんた……忘れっぽいよね?亜熊の力、忘れたの?」


「ナニッ!?」


「魅了する力!!!サキュバスの力を!!!」


召喚された天使たちの意思は悪友によって魅了されてしまった。分身とはいえ、悪友にとっては造作もないことだった。


剣先は悪友でなく、サタナエルに向けられると、分身を解除する。


「……魔力はもうない」


「バカじゃん。何のために召喚したのよって話じゃない?さぁ息の根を止めてやるわ!」


悪友が急接近する。一気に距離を縮めに飛んで来た。サタナエルが諦めに目を瞑ると、小さく笑った。


「バカはテメェだ」


「なっ!?」


叔父が仕掛けた結界が一気に発動する。悪友は鎖でがんじがらめにされ、両手両足に手錠が付けられた。更に魔法の結界で魔力を封じ、完全なる捕獲に成功した。


「ふぅ……間に合いましたね」


サタナエルが安堵すると、叔父と皆が姿を見せた。認識で姿を隠していた。


「よし、後は俺がトドメを刺す」


本来なら悪魔か星井、と言いたいところだが、最後の最後まで何が起こるか分からないため、叔父に全てを託した。


悪魔が用意した銀の十字剣を叔父が受け取り、そのまま鎖ごと肉体へ押し殺した。


「その剣は魔力と肉体の機能を封じる魔界の剣、これでもう安心よ」


「……亜熊……うっ」


星井が泣いた。

その姿に高橋は頭を軽く撫で、悪友の死に様を眺めていた。思うところはあった。彼女に対しての恨み、自分が犯してしまった罪に対して、心の中で懺悔していた。


「さぁ帰ろう。結界から出るぞ」


叔父の言葉に皆が小さく頷く中、高橋だけが何か不可解な、何かが引っかかっていた。


「悪友の子……そうだ。俺が孕ませた子とは別の子がいると……だが悪友が死んだのに……この予感はなんだ?」


「タカタカ?さっきから何をブツブツ言うてるの?」


星井の言葉など耳に入らず、高橋は血相を変え、近くにいた星井を突き飛ばした。


「えっ?」


後ろを向いていた悪魔が横に飛んで来た星井を目の前に、高橋へ視線を送るとーー


ーー高橋の胴体に黒い手が刺さっていた。


「!?」


「た、タカタカ!?」


「バカな!悪友は殺したのに何故だ!」


悪友は間違いなく死んだ。だが悪友の腹から黒い手が長く伸び、高橋をそのまま悪友の腹の中へと引き込まれた。


蓄えられた魔力で急成長したのだろうか、赤子のように悪友が這いつくばっていた。


「ぱ……ぱ……パパ……美味しいよ……もっと、もっと……」


悪友の意思ではない何かだった。その意思たるモノが悪友の身体を使い、高橋を飲み込んだ。


「イヤァァアアアアア!!!」


「落ち着け星井!くそっ!悪魔、サタナエル、応援を呼べ!!!もう俺らの手でどうにもならない!!!」


「既に呼んでいる!しかし応答がないのだ!どういうことだ……何故魔王様から返事がないのだ……」


「まさか……他の堕天使が、既に……」


時は既に遅かった。


魔界も天界、堕天使の分身によって、世界は崩壊の道へと進んでいた。


このままでは人間界に堕天使が来るのも時間の問題であった。


「とりあえず遠隔でゲートは閉じたわ!一旦逃げて、体制を立て直すしかないわ!」


「タカタカァァアアアアア!」


「星井!暴れるな!逃げるんだよ!」


悪魔に引きずられながら星井を連れ出し、叔父とサタナエルは逃げながら異空間からの脱出を計った。


「ここだけ少し、魔力が弱いです!」


「よし来た!おりゃぁぁああああああ!」


叔父が持つ精一杯の魔力で壁にヒビを入れると、サタナエルが捨て身で思い切り体当たりをした。小さいながら空いた穴から脱出に成功をし、もう飛ぶ力もない叔父とサタナエルに変わり、悪魔が全魔力の解放をする。


「この姿になるのも久々ね。飛ばすわよ!」


この姿に最後になったのは、高橋へのリベンジ戦の時以来だった。あの時、認識の変換で呆気なく負けてしまったことを思い出しながら、皆を乗せて空を飛んだ。


「……この景色が人間界で良かった。どうやらあの空間は残ったままのようだな」


「……タカタカ……」


「星井、貴方は家に帰りなさい。そんなんじゃ、足を引っ張るだけですから」


「……」


黙りの星井、そのまま星井の家へと降りると、星井は何も言わずに悪魔から降りた。


「大丈夫、応援が来れば必ず倒せるわ。タカタカだって帰って来るわよ」


悪魔の慰めに「うん」だけ言い、星井は家の中に入っていった。


「あの子は人の子、当然の反応よ。仮に天使の力が再び目覚めても、戦えるか分からないわよ」


「……応援に期待は無理、なのか?」


「既に堕天使が魔界と天界を襲っている可能性のが高いでしょうからね。数人だけでもこちらに来てくれれば、恩の字でしょう」


「やっぱな。ならやることは1つ、それぞれの故郷を助けに行け。サタナエルは天界、悪魔は魔界に帰れ。俺は待機して待ってるからよ」


その言葉に、2人は不安になった。

この状況で1番の冷静さを持つのは叔父さんだった。だからこそ、その時見た叔父の笑顔が怖かった。


「お願い、絶対1人で行くなんて無茶はしないでね!」


「悪魔ちゃん、俺はそんなバカじゃないさ。安心しろ、ちゃんと店にいるからよ」


「……信じますよ」


2人は現地で解散、そして叔父は店へと向かった。息子同然の高橋が死に、込み上げて来る気持ちを抑えながら、叔父は仏壇の下に置いた母の天使の輪を持った。


「ほんの少しでも、力を貸してくれ……」


仏壇に線香を上げ、コーヒーを一飲みすると、叔父はタバコを一気に吸い終え、あの空間へと向かうのだった。2人を待たずに、1人で……ーー




その頃、星井は家に帰るなり、直ぐにベットにうずくまった。誰もいない空間、さっきまでが夢物語で、明日になればまた学校にタカタカがいるんじゃないかと思っていた。


そんなことあるはずないと分かっているのに、星井は嫌なことから目を背けた。


すると、スマホから珍しくいつもの2人から連絡が来た。


『星井、今からモック来ない?久々に遊びたい』


片割れの方からの連絡に星井は即答した。


『いいよ。暇してたし』


時間は20時過ぎ頃、長いと感じたあの戦いは意外にも時間の経過をしていなかった。星井は軽く私服に着替えてファーストフード店に向かった。


みんなが戦いに行っているのに、1人だけ、普通の日常に溶け込もうとしていた。


私には関係ない。ただそう言い聞かせた。


店の前にいつもの2人がいた。他愛もない話しをしながらポテトを摘み、笑い続けた。

2人はそんな星井を見ながら、食べる手を止めた。


「なんか変わったよね星井」


「ホントね。良い意味で」


「えぇ、どゆこと?」


「前は教師のセクハラで不良ぶっていただけだったのにさ。彼氏出来てからの星井って、何となく活き活きしてるってかさ」


「高橋って意外と人気あったのに、アンタのせいで諦めた女子どれだけいたやら」


「……タカタカ?」


「あぁ〜星井、嫉妬してる系?大丈夫よ、あんたも見た目だけは可愛いから浮気しないよ彼は」


「それ星井のフォローになってなくない?」


タカタカ、それを思うだけで胸のところが痛くなるのは何故だろう。彼の顔が浮かぶだけで嬉しいって気持ちになったり、悲しいってなったりすりはのは何故だろう。


星井は気がつくと、涙を流していた。


「ちょっ!泣くほど!?」


「ほらぁ、あんたが余計なこと言うから」


星井は高橋の大事に気づいた。あの時、星井を突き飛ばした時の高橋の顔が忘れられなかった。笑っていた。小さく何かを呟いていた言葉が、急に思い出す。


「あの時……確かにタカタカは言ったんだ。任せたって、私に」


「ほ、星井?」


「ごめん、私行かなきゃ!次はご飯奢るから立て替えておいて!」


星井は走った。悪友から生まれた子を倒すために、それで高橋が帰って来るかは分からないけど、何もしない自分がムカついていた。


いつも誰かのために無償で動いていた彼の代わりになるのは私しかいない、私がやらねば誰がやるのよ!


星井の心から言葉が聞こえる。眠っていた天使に目を覚まそうとしていた。


『己の欲望、奮起に目覚めた我が主人様、今の貴様になら預けて良いかもしれぬ……我が力、強欲の力!』


「あら?今回は随分おしゃべり出来るのね?いいからさっさと寄越しなさいよ!バカな私とサヨナラする力を!」


『失い気づいた己が信念、好かろう。我が力、貴様に預ける』


星井は悲しみながら、その力を貰い受けた。

白い翼は漆黒となり、そのまま悪友のいた空間へと一直線に向かう。



その頃、天界ではーー


「よし、これで全員ですね」


堕天使を一掃し、ようやく息を整えた天界。


「魔力の補充をしなさいサタナエル、我々は先に向かいます」


天界人の強力者達が一斉に人間界へと向かい出した。サタナエルは使い切った魔力の補充のために一眠り着こうと、湖へと身体を漬かっていた。


「……おや?」


すると、天界から下界を見下ろすモニターを見ると、空を飛ぶ星井の姿が見えた。


「天使の力?……凄い力だ。やはり私以上の力をお持ちでしたか……彼女なら、やれる」





一方、魔界の方でも同様に、悪魔が堕天使を一掃し終え、魔力の解放を解除した。


「人間界の支配を横取りするモノを生かして置けぬ!サタンよ、貴様は少し休むが良い」


「いや、私も血飲んだら直ぐに行くわ!亜熊の仇も撃ちたいからね」


「敬語を使わなくなった、か。それで良い、サタンは豪快のがサタンらしいからな。では、先にこちらの軍は向かうとするぞ」


血の瓶を飲みながら人間界を移すモニターに映る星井を眺めていた。悪魔は小さく笑い、親指を立てた。


「アンタならやれるわ。その力、存分に発揮しちゃいなさいよ」




「んぐぅっ!」


1人で悪友を乗っ取る赤子に、叔父が吹き飛ばされていた。


まだ不完全ながらその力は強大で、中々手の施しようがなかった。


「くそぉ!悪友以上にやべぇなオイ!」


既に片腕を吹く飛ばされ、その肉片を食われてしまった。叔父は大量の出血に意識が朦朧とし、段々立つことが難しくなってきた。


「うぅ……ふふ、歳かな。このままだとマジで喰われるな」


「パパ……パァアぱ……」


黒い手が悪友の身体を引きずりながら叔父へと向かって来る。叔父にはもう魔力も、認識を変えるほどの力はなかった。

唯一出来ることは、餌となって時間を稼ぐ、ということだけだった。


「へへ、ここまでか。すまない……タカタカ、みんな……」


諦め、目を瞑る叔父。迫り来る赤子を前に歯を食いしばっているとーー


「【聖なる十字ーホーリーランスー】!!!」


天界人の技、その輝きに身に覚えがあった。


「姉さんと同じ……そか、間に合ったか」


天界人が一斉に現れ、集団で攻撃を始める。

黒い手は抵抗をしながら、逃げようと走り出した。


「逃すなぁ!!!」


「ご老人、大丈夫ですか!?」


「バカ野郎、俺はまだ40代だ」


叔父は治療を受け、他の天界人が悪友の子を追うと、挟み撃ちをするように魔界人が現れた。


「同胞の仇なり!殺せぇ!」


黒い槍を一斉に投げ付けると、悪友の子はもがき苦しみ出した。

追いついた天界人と共に囲み、動きを完全に封じたと思われたが、悪友の子は身体を使い、両足で上空へと逃げ出した。


「逃がさないわ!」


星井の声に叔父が驚き、星井はそこにいる全員の注目を浴びていた。その神々しい光に、天界人も魔界人も、見惚れてしまった。言葉に出来ないその光に、叔父は呟いた。


「マリア……そうか。星井の持つ力は、皆を寛容する力……」


「ま、ま?」


「終わりよ!」


その光から放たれた大きな槍、全身を突き刺しそのまま地面へと落下した。悪友の身体から出ていた黒い手は完全に消滅すると、悪友と別の身体が吐き出された。


「こいつは……?」


「岸辺明を長年乗っといた堕天使よ。こいつが今回の事件の張本人」


「サタナエル」


他の天界人の肩を借りながら現れたサタナエル、吐き出された悪友は直ぐに拘束されると、そのまま天界へと転送された。


魔界人も一息着くと、そのまま背中を向けて帰っていく。


「今回のは貸しにするぞ、人間。次こそは、支配してやる」


「へへっ、そうかよ」


そして星井が降りてくると、岸辺明を天使の力で治療する。


「この子に罪はないもの」


「そうですね。とりあえず2名、病院に連れていきましょうか」


「おいおい、その力で治してくれよ」


「ダメよ。岸辺も叔父さんも、人間らしく治療して下さい」


星井に叱られ「やれやれ」とばかりに頭をかく叔父、後から来た悪魔に連れられ、入院をするハメとなった。


これで全ての事件が丸く収まったけど、死んだ人たちが帰ってくる訳ではなかった。


「星井さん、後で天界に来て下さい。申請しなきゃいけない書類があるので」


「じゃあ叔父さんたち送ったら行くわ」



…………高橋焚柏が転校して数ヶ月の物語は、こういった形で幕が降りた。天界も魔界も、人間と仲良く手を結ぶことになったのは5年後のお話。


そして星井は高校を卒業をして大学には行かず、叔父さんの本屋へと就職をした。岸辺明と一緒に。長年記憶を失っていた岸辺の教育をすると共に、星井は店を繁盛させようと、店を立て直したり、同時経営にパンを売ったりしながら切り盛りしていた。


「星井さん、新刊来ましたよ」


「じゃあ先に並べておいて。もう直ぐパン焼けそうだから」


「まったく、人の店なのに張り切るねホント。じぃじはパチンコに行くから、よろしくな」


「軍資金の管理はこちらでしますね。それから○×店の701番台打ってくださいね。今日は出ますから」


「……趣味まで管理されるとはな」


星井は街の中では有名人で、その頑張りから雑誌のインタビューを受けるほどだった。看板娘としても、パン屋としても。


「本屋とパン屋、か。1つくれないか?」


「いっしゃいませぇ!おや、見たことないお客様だけど……何処かで見たような……」


「明ちゃん、何してるの?お客様がお待ち……して……る」


「久しぶり。人間としては帰って来れなかったけど、天界人として帰って来たぜ」


「私もね♪」


「嘘…………嘘!?」


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