天使編04-04
僕の体内にいるはずの悪友が顔を出した――その状況に一同は息を飲む。
しかしどうして、どうやって、そんな事が可能としたのだろうか。
悪友は僕の身体から出て来たというのだろうか。
「フフ……ウフフ……」
悪友はこちらを見てニヤニヤと笑っていた――その悪魔染みた笑顔、やはり僕の知る悪友で間違いはなかった。
「お前は、どうやって僕の中から出た!」
僕は再び声を上げて質問をすると、悪友は決まって言葉を返した。
「だ~か~ら~!バカかなぁ~キモいなぁ~!教えないって言ったばかりだろ?で・も♡ 私の味方になるなら教えてあ・げ・る♡」
二重人格者のような温度差のある態度、初対面の悪魔は思わず表情が引きずる。
「キューちゃんみたいな奴だな」
「私あんなんじゃなぁい!」
『言ってる場合ですか!』
天使が間に入り会話を止め、既に戦闘態勢の目をして腕から魔力を滲み出していた。
その姿をニヤニヤと見ていた。
『消えろぉぉおおおおおお!!!堕天使!!!』
作った氷をツララのように尖らせ、多数複数に悪友に目掛けて放つ。
バリバリと音を立てながら悪友に突き刺さる――ツララは砕けて冷気となり、姿が見えないまま続け様に攻撃を受けていた。
僕は複雑に冷気の煙が消えるのを待った。殺すことに躊躇しているのではない。ただ、なんか……。
「終わった……のか」
砲弾が切れ、天使は少し後ろへと下がる――だが当然この程度では悪友は倒れるはずもなかった。
「アハッ☆ いやいやぁ楽しい楽しいぃ……おっとまた笑いが……ブフォッwwwギャハハハハッwww」
「……」
僕は品のない彼女の笑いに慣れない。当時よりもひどく、ねじ曲がった笑顔をはみ出していた。
「タカタカぁぁああ、いいねその顔!もっと見てやりたいところだが、こっちには時間もないんですねぇ!
一つだけ良いこと教えてあげる。あんたの体内にいる堕天使は、私は別の子よ」
「なにっ!?」
「あぁ!あぁぁぁああ!!信じた?信じてた?信じていたんでしょうねぇ!?今どんな気持ちかなぁ?かなぁっ?」
悪友の表情、目の中にある瞳孔が開き地響きが起きる。
「……!」
パラパラと土崩れする天井と周りを見渡してしまった咄嗟の瞬間、目を離してしまったその時、気が付けば息荒く僕に詰め寄ってきた。
その瞬時の出来事に周りはタジタジと動けなくなり、悪友が僕の頬に軽く触れ、目と目が合う。
洸惚な表情を受けべて頬を色めかせる。その一瞬だけ、彼女の昔の姿と重なる。
純粋な黒い眼差しが僕をねっとりと舐め回すように見つめ、小さい声で呟いた。
「ばーか」
その言葉だけは当時のままだった。
安堵を取られたことに目を覚ました悪魔が天使になり武器を一心に振るうが、悪友は再び一瞬に元の位置へと戻った。
「みな、気を抜くなよ!」
「あはっ☆なんかうるせぇクソジジィだなぁ」
叔父の言葉に悪友が汚らしく答え、大きくため息を着いた。
「なーんか、みんな勘違いしているっぽいなぁ。私がわざわざ堕天使に襲わせたのも、このツインテをサラったのも、
ここにお前らが来るのことも、全部私のシナリオ通りのことなんだよ」
「どういうことだ?」
「まだ気づかないか?天使の召喚こそ、私が外へ出るための条件みたいなものだったんだよ。つまり岸辺明を演じ、ツインテを、亜熊を、タカタカを天使させたのもぜーっんぶ!私の思い通りだったんだよ!
あははははははっ!ワロタッ☆」
僕らを指さし笑い転げる。僕らは彼女に何もできなかった。さっきの力を前に足が動けずにいた。
「しかしどうして岸辺明に……?」
「監視、だろうな。あいつが死んだと認識させ、堕天使を利用してタカタカの身体に悪友がいると思い込ませた……そんなところか」
亜熊の言葉に鋭い推理と一緒に叔父が返す。もしかしたら亜熊が絆の力を持つことも計算に入っていたといたら、策士にも程があるってもんだ。
ここにいる全員が天使の力を使える者同士。岸辺明、今さらだがそれが本名だったのか。
「これで地上に出られる……こんな亜空間にいるのは息が詰まるからな」
「……僕の中には何もいなかった、のか?」
「ああん?バッカだねぇ、そんな訳ねぇじゃん。よく思い出せよ……そんな矛盾、あるわけないよなぁ」
「……僕の中には堕天使がいる。その事実だけが本当ならば……ぼ、僕の中にいるのは……!」
「そうだよ。お前が腹ませた私の子だよ。今、他の堕天使が栄養をえいさほいさと毎日のように運んでいるのよ。幸せなか・ぞ・く♡作ろうね?」
「やっぱりテメェは今ここで殺すと決めたぁ!」
「や、やめろ亜熊!そんな安い挑発に乗るんじゃない!」
亜熊が羽を使って全力で低空飛行し、そのまま天使の力を使い神々しい光を悪友の身体に浴びせた。
だがそんな光は片手で吹き飛ばされ、悪友がニヤリと笑う。
「一回死んでスッキリしよっか?きゃっはっはっはっはっはっ!グッバァーイ♪」
「っ!」
「やめろぉぉおおおおおおおおお!!!!!」
声を荒げて咄嗟に僕は走ったが、5歩ほど歩いた途端に、亜熊の身体が僕の視界から消えた。
塵のように灰が舞い散り、ふわふわと赤い炎だけが残った――その炎を悪友が口から飲み込み、ゴクリと飲み干した。
「これっ!これっ!私が欲しかった力……まず一人」
僕は頭が真っ白になり、何も考えられないまま、膝をついてしまったのだった。




