天使編04-03
僕らが店に着き、寝ている星井の部屋へとやって来た。だがそこにいたのは泣き崩れていたバイトの明だけだった。
「ぐすっ……えーんえーん!!」
子供のように喚く明、そして滅茶苦茶になった部屋、星井の喪失、これらから察するに連れていかれた。
「堕天使か!?」
叔父の言葉に明が強く頷いた。
「なんか……邪魔だからとか、天使だからとか、私よく分からないけど……場所言われて」
「一旦落ち着こう。こんな時こそ、な?」
「高橋がそう言うとはな。成長したな!」
悪魔が何故か上から目線で僕を誉めた。
僕は明の頭を撫で、泣き止むのを待ち、叔父はお得意のアイスコーヒーを皆に入れた。
「飲めば落ち着くさ。今うち、お前らも体力回復しないとな。まあ輸血くらいならあるからよ」
「なんで本屋なのに輸血が!?」
「ここの店の名前は?」
「落とし物天使ちゃん……落とし物……堕としもの、天使…………ダジャレかよ!」
つまりここは堕天使の討伐を元々メインに使われていた基地らしく、叔父がそれを継いでいる。
とはいえ、元が僕の母親の経営だと聞いたのは全ての戦いが終わってからだった。
「はぁ……ありがとう炊樫さん!」
明が落ち着き、僕は撫でるのを止めた。
「大丈夫だ。それより場所以外に何か言われたことは?」
「えと……もし、20時までに来なかったら殺す、て……ひっぐっ!」
「あぁ、泣くな泣くな!悪いが道案内だけはしてもらいたいからな」
『今は14時前くらいですね。少し仮眠しましょうか。また続けて戦うんですからね』
天使の案に反対の意見はなく、みながゆっくりと頷いた。
「なら見張りで交代制するかねっと。じいじは一階の本も片付けなきゃだから後で寝るわ」
「……こっちも寝るだけのスペースは作るか」
僕らは散らかる部屋のゴミを部屋の角に押し付け、スペースを作りそこに布団を敷いた。
先に寝たのは悪魔、亜熊、そして天使の3人からだった。
本当によくここまで僕らのために働いてくれている。悪魔から始まり、そして天使と出会った。
悪友が起こした一連から数年、お前はまだ僕の腹の中にいるのだろうか。
きっといるんだろうなーー恨みを持ちながら、また出会う日はそう遠くないのだから。
☆
そして寝ながら輸血も行い、僕と叔父も一眠りし、とうとう約束の時間1時間ほど前、僕らは店を出て明の後ろに付いて行く。
わざわざ星井を誘拐するということは、何か取引を考えている線が強かった。
僕らの中で取引の対象となるのは、天使その者の存在、あるいは僕と叔父の認識を変える力なのかもしれない。
どちらにして、僕らは無償で星井を助けるつもりでいた。この力は間違いなく、渡せば世界を終わらせるような使い方をするだろう。
「……いつの間にか、結界の中ね」
悪魔が周りを見るーーそう僕らは既に敵の本拠地に足を踏み入れていたのだ。
そして結界の存在に、叔父が疑問に思う。
「結界が使える堕天使がいるってか?奴らの中にそんなに魔力豊富な奴が存在したか?」
「いるだろう。僕も一度は結界のようなところに入ったからな」
「オリジナルなら分かる。だがコピーは栄養運ぶアリみたいな存在なんだぞ?そんな奴が結界とは思えないが……」
「考えすぎだろ。どちらせよ、オリジナルに会えるならそれに越したことはないだろうからな」
「……」
叔父は黙り込み、僕らは結界の奥の奥の方へとやって来た。何もない亜空間、そこの中央には星井が寝ていた。
僕らは用心しながら一斉に部屋へと入り、背中合わせになりながら星井の元へと進んだ。
そのまま何事もなく、寝ている星井の元へとやって来た。
「よし、後は脱出するだけだ」
しかしその言葉を発した瞬間の出来事、亜空間の部屋の出口が肉片のようなもので塞がれ、僕らは外へ出ることが出来なくなってしまった。
「……やっちまったか」
「明、お前も無事か?」
僕が明の方を向いた。そしていつもの笑顔が見えた。見えていた。そこに見えていたのは紛れもなく僕が認識している笑顔だった。
「はひ……大丈夫、でふ……」
笑いを堪えているような喋り方に一同が困惑する。
「あ、明?」
僕は明の異変に心配するーーが、その心配が消えるのも時間も問題でした。
「フフ……うふふ……!大じょっ……ぶぉっ!オホホホ!イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!アヒャヒャヒャァア!!!あっはははははっ!!!きゃはっはっはっ!!!!」
明が壊れた。まるで壊れたロボみたいに笑いが収まらなかった。狂気に満ちたその笑いにゾっとしたした。
「いひぃひぃ……あはっ、あははははは!!!」
「明!気は確かか!」
「……」
僕の言葉にピタリと笑いが止まり、明は僕らに中指を立て、ニヤリと笑い、大きく息を吸った彼女は口が避けるように再び大きく笑った。
「ワロタぁぁああああwww草生えたぁぁあああwww大草原不可避www」
「な、なんなんだ?」
「まぁだ分からないかなぁ?良い子ちゃんキャラも疲れる疲れる……」
顔の皮膚がシールのように剥がれ、剥がれた顔をみて僕は恐怖心が押さえられなかった。
「そんな、バカな……!!!」
身に覚えのある顔に、息を飲んだのは僕だけでない。危険視していたはずなのに!時間はまだあると思い込んでいたのは僕らだった。
「きゃはっ☆ 久しぶり♡」
堕天使のオリジナルであり、僕が悪友とあだ名を付けたその少女がそこにはいた。
「お前……どうやって?」
「ん?バーカwwwそんな教えるかよイ○ポ野郎www」
続く




