天使編04-01
昨日の男子高生殺人事件の一件でしばらく学園が休校となるらしく、直ぐにグラウンド集合の電話を受けた。
僕と星井にそれを伝え、しばらくして朝食を食べ終えた。そして星井は静かに先に帰っていった。
そこへ席を外した悪魔たちがやって来た。
「さぁて、学校が今日から休みになりそうだな。儀式の準備は整った。午後に星井とお前を天使も戻す」
悪魔の僕は軽く頷いた。
「あぁ、わかった」
「覚悟は出来たようね。ふふ、惚れ直しちゃう」
「へぇ」
「な、何よ……冷たいねぇ~!亜熊ちゃん泣いちゃう!」
『そんなことより』
「そ、そんなこと!?」
天使ことサタナエルが間に入り、帽子を深く被り、僕には見えないと思う輪を隠した。
『学校とやらに行きましょうよ。なにやら、嫌な気配が学園に集まろうとしてますよ?』
僕らの会話をどこかで聞いているように、状況は今、よくない方向へ向かっているようだ。
いや、僕の腹の中で聞いている--そんな気がした。
「……叔父さんは?」
『そういえばいないですね。この気配に気づいて先に行ったのかもしれませんね』
「生徒が集まる前に行くぞ!」
☆
悪魔、亜熊、そして天使が力を開放し、僕は悪魔の背中に乗って学園へと向かった。
既に生徒がグランドの中心に何人か集まり、そこには警察官、パトカーが数台集まっている。
「ご苦労なこと。どうせ戦いやしないくせに」
「悪魔、お前が呼んだようなものだろ間接的に」
「じゃなきゃ今そこにサっちゃんが協力してくれないだろ?」
『サタンの貴方にサっちゃんと言われたくないですよ、サっちゃん』
「やめろ、被る」
そんな雑談をしている間に生徒がどんどん集まる。悪魔と亜熊が学園敷地の角と角に待機する。
そして天使と僕は屋上からその様子をみる。生徒が全員学園に入るの待つ--結界の準備が始まるのだ。
『……悪魔、亜熊、エスケープにお願いしますよ?』
「了解」
「はぁい」
力を開放し、人間には見えないように『血塊結界』を張り巡らせる。これで外部からは侵入ができない。
ただ問題なのは、外へ出るものが現れないかどうかの問題だった。
「叔父さんはいないようだな」
『いえ、天使独特の気配はあります。学園内で待機してますね』
「そうか」
どうやら叔父の心配の必要はないようだ。問題なのは、僕らの方なのかもしれない。
今のところ、何の動きもない。結界もあまり長く張ることはできない。
動くタイミングが分からないまま、集会が挨拶を始めようとしていた。
「えぇ、ではこれより全校集会を行います。数名欠席者がいるようですが、先ほど保護者から連絡を貰いましたので悪しからず」
集会の会話はサタナエルが聞いているようだ。人間を干渉するだけのことはあってか、五感は僕らより優れていた。
『叔父さんが欠席扱いにいたみたいです。あと集会の中に星井さんもいますね……キョロキョロしてます』
「星井にはまだ力がないからな。僕らのこと探しているかもな……」
『大丈夫ですよ高橋さん。星井さんは、守ります。同族だからとかじゃなく、私だって仲間ですから』
「……そうだな」
僕らは集会の進行を遠くから見守り、何事もなく時間ばかりが過ぎていく。
サタナエルの感じた嫌な気配とは何か、生徒も徐々に暑さ残る校庭でぐったりとしているのが見えた。
「おいおい、なんか可笑しくないか?」
『息の荒い声が増え始めましたね……しまった!こんなっ!』
「サタナエル!?」
サタナエルが上空へと上昇、それを見た悪魔と亜熊が結界を咄嗟に解除するーーサタナエルが太陽に向かって冷気を放つ。
『熱帯冷却の陣!』
サタナエルが太陽の周りに氷を被せ、グランドの温度を著しく下げる。そこに悪魔と亜熊が駆け寄る。
「攻撃は太陽熱だったのか!キューちゃん、みんなにエネルギー送れる?」
「足りるかどうか……やるだけやるからアンタのも魔力貸しなさい」
亜熊の能力は、インキュバス(奪う)でありサキュバス(求愛)だが、彼女には与える力もある。
だが雑種と呼ばれる彼女は器用にその能力を使えるのではなく、雑にもバラバラに体力を振り分けてしまう。
「頑張ってキューちゃん!」
悪魔は血を魔力に変え、そのエネルギーを亜熊に分け与える。
「は、話かけないで……集中できないから!」
不器用なりに倒れそうになる生徒へ上空からエネルギーを送る姿に、そのエネルギーの大きさにサタナエルがふと疑問に思う。
『……そんなにたくさん。生徒全員にエネルギーを送るのに、どれくらいの魔力を?』
「えっ?……はっ!キューちゃん、エネルギーを送るのをやめて!これは罠よ!」
悪魔が何かに気づいた。そして天使もその頃に気づいたが既に亜熊の体力は限界となっていた。
「ごめん、もう……使い切っちゃっ……た……」
「キューちゃん!」
落下する亜熊を悪魔が途中で持ち上げるが、悪魔も結界、そして血のエネルギーを分けていたため万全ではない。
それを見かねた天使が服の前ボタンを開け、心臓に自分の腕を抉るように刺し込んだ。
溢れる血を氷のように塊にしたものを、悪魔の胴体に溶け込ませた。
「あ、ありがと」
『礼はいいです。それよりも敵は!堕天使は!?』
「キャー!!!」
その悲鳴に下を見渡す悪魔たち、今度はグランドに堕天使が無造作に複数人現れた。
現れた堕天使が一人の生徒を歯でかじり倒す……首はもげ、顔だけが落ちた。
警察官がその違和感に気づき、堕天使の前に来ては一斉に拳銃を構えていた。
「殺人鬼だ!撃てぇっ!」
放たれる鉛に多少怯むものの、受けた拳銃の弾を身体の皮膚をバネにミシミシと音を立てながら打ち返そうとする。
「させるかってんだ!」
叔父が学園の窓ガラスを割り、そのまま警察官のいる場所の認識を自分と入れ替えた。
そのまま叔父は弾丸そのものの認識を消し、弾は消滅という形で凌いだ。
そして上空から回復した亜熊が警察官を心を支柱抑え、生徒と共に外へと走らせる。
「ナイスだお前ら。タカタカは?」
『屋上です』
「亜熊ちゃん、だったか?お前が付いてやれ。お前は天使の力がないだろうからな」
「痛いこと言ってくれるじゃないの。わかった」
苦虫を潰すような顔で亜熊は飛び、そのまま高橋の元へと護衛側に付いた。




