天使編03-03
星井、お前が素直に僕のこと好きなのは嬉しいよ。
星井、いつも世話を焼いてくれるな。
星井、僕のために泣いてるのか?
星井、どうしてそんなに僕のことを……。
星井、イジメっ子だった頃が懐かしいな。
星井、仲間二人がたまにお前のことを心配してるみたいだぞ。
星井、僕は来年引っ越しするんだ。
これ以上……僕を好きならないでくれ。
僕まで星井と離れるが、怖いじゃないか。
☆
ーートントントン……まな板で包丁を切る音が聞こえる。
僕が目を覚ますと、キッチンで星井がエプロンを着て調理をしている。
僕の右腕に包帯が巻かれているーー夢ではないようだ。
「おはようタカタカ、ちょっと待っててね」
僕が起きるとそこには星井がいた。
そして皆がいなかったーー僕の折れた右腕が木の板と包帯で固定されていた。
でもその包帯にはグチャグチャに何か文字が書かれているのが不気味で仕方なかった。
「悪魔が書いてたよ、その文字。早く治るらしいよ?」
「……そうか」
僕は星井にもてなされた朝食の前に座り、星井も僕と対面の位置に座った。
「さ、召し上がれ!」
「……いただきます」
僕は左手で箸を持ち、震えながら卵焼きに手を伸ばし、口に運ぼうとするが、途中で落としてしまう。
そんな僕を見兼ね、星井が箸で拾う。
「しょうがないわねぇ。はい、あーん」
「い、いや……それはちょっと」
恥ずかしさに目を背けてしまうが、星井は折れることはなかった。
「あーん!」
「……」
「誰かなぁ?人のこと泣かせたおバカさんは?」
「あ、あーんします!」
僕は罪悪感と共に口の中へと箸を入れる。
その中に広がる甘味と程よい塩加減が僕を驚愕させる。
「……腕を上げたな」
その一言に星井は笑った。
「ちょっと何様よ?でも嬉しい……やっと笑った」
「えっ?」
「ずっとしかめっ面で、何かから逃げていたみたいに気の休まらない……そんな顔だったから」
何かから逃げていた、か。
僕の不安など、ずっと見ていた星井からすればバレてしまうものだった。
僕は気付いてやれなかったーーいや見ないフリをし続けていた。
人と関わる必要などないものに等しいとずっと思っていたからだ。
来年には引っ越し、今はみんなと居てもそのうち記憶の中から消えると思い込んでいたから。
信じることをしてやれていなかった。
僕は臆病だったーーみんなから忘れ去れるのが怖くて、怖くて、避けることをしたのに。
「タカタカ?」
僕はもうこの気持ちから逃げたりはしない。
星井も、みんなも、守ることを選ぶーーたとえみんなの記憶から消えることがあっても、僕はーー
「星井」
「な、なに?」
「好きだ」
「……………………………………………………………………え?」
「僕はお前が好きだ」
「……ごめんもう一度?」
「好きだと言っているんだ」
「……いやいやいやいやいやいや!そんな訳ない!タカタカがそんなこと言う訳ない!さ、さては……お、お前堕天使だな!?タカタカのフリをして私を困らせてるために現れたんだな!?」
「……」
「えぇと……でもね、その言葉は待ってほしい」
「ん?」
「この戦いが終わったら……も一度、聞かせてほしいの」




