天使編02-02
叔父さんは亡くなった母の弟だった。でも親戚の集まりとか葬式とかに顔を出したことはなかった。
僕が中学を無事卒業して、高校の一年間も無事に終わり2年生になったある日、父に言われたのが始まりだった。
「また転勤になった」
僕は「またか……」と小声でそう呟いた。
父は仕事人間だ。だから僕に謝ることもなく、手続きはいつも話を聞いた頃には終わっている。
そんな父が僕は大嫌いだった。でも口論するほど僕も熱い人間でもないから、いつも黙って付いて行くだけだった。
「今回は学校が遠くなるから、お前は叔父のところに住んでもらう」
「あ、そう」
僕は本を読みながら冷めた返事をする。
僕と父は叔父のいる駅で待ち合わせ、時間通りに叔父と出会う。
「よう、義兄さん」
「……後は頼むぞ」
「て、おいおい!挨拶それだけかよ」
「金は振り込んだ。お前の好きなパチンコでやればいいだろ」
「……ったくよぉ。おい坊主、名は?」
父は直ぐに見えないところまで歩き出し、叔父が僕の名前を聞く。
僕はめんどくさそうに答えた。
「炊樫」
「たかし……高橋炊樫か。めんどうだからタカタカだな」
懐かしいあだ名に嫌気は指した。
僕のことをタカタカと呼ぶのは、この頃で言うと悪友くらいだったから。
でもこれからお世話になるのに文句言う必要もないため、僕はそれを受け入れた。
「これからよろしく叔父さん」
「おう!飯でも食いに行くか!」
この日、僕は回る寿司を叔父さんと食べに行った。お金はあるはずなのに回る寿司――まあいいけど。
ご飯の後は叔父さんの経営している古本屋へと着き、横のある鉄骨階段を上がると、1Kほどの部屋とシャワーのある部屋があった。
「ここが、お前の部屋だ。邪魔な在庫本は……あ、読むか?」
「……本は好きですよ」
「ならこれがオススメだ」
「?シェイクスピア?」
「ルパンとかの原作本みたいなものだよ。ま、店にも同じ本はあるがな。あとはこれとかこれとか……」
後は官能小説ばかり渡された。
僕はそれを何となく受け取り、叔父さんは店の番へと戻ってしまう。
僕は軽く部屋を片付け、その日は眠りについた。
叔父さんとの出会いはこんなものだ。
そんな叔父さんが、認識を変える力を持っているのは何故だろう。
「は、離せぇ!」
動けないフードの彼女は悶えていた。
それを半笑いに叔父さんは彼女の仮面を剥いだ。
「……やはり、お前だったか」
僕も見たことがある顔、まさかこいつが黒フードの正体だったのか。
「母さん……」
僕の母――死んだはずの母が黒フードの正体だった。
「死んだ、はずじゃ……」
「洗脳で生きてるように動いてるだけだ。安心しろタカタカ、こいつは偽物の死体だ」
叔父はそのまま彼女の心臓を腕ごと貫通させ、心臓を引き抜いた。
血が飛び散り、死体は溶けるように液体となって消えていく。
「黒フードをした女は今、他にもいるからな」
「どういう、ことだ?」
「あ?あぁ……どこから説明すればいいんだ?」
「僕の出会った黒フードとは、別なのか?」
「お前がどこまで黒フードについて知っているかは分からないが、こいつらは記憶の共有で生きているんだ。だからいくらこいつらを殺そうと、オリジナルに記憶は残る。この体も、ここらで死んだばかりの体だ」
「オリジナル……」
「堕天使、と呼ばれている」
「!?」
僕の追いかけているモノと叔父さんのが繋がった。黒フードの正体が、悪友が産み出していた堕天使そのものだった。
「堕天使は天使でも悪魔でも、どちらの力も使えるらしいがな。しかし何故お前がそんなのに?」
「叔父さんこそ、なんで……」
「……やれやれ、こいつは困ったな」
半笑いに後頭部に手を当てる叔父に、僕は何だか気が抜けてしまうばかりだ。
叔父さん、あなたはいったい?




