天使編02-01
その日の夜、僕らは狭い部屋で川の字となって眠る。暑い空気……汗を垂らしながらも眠りに着く一同。
僕はふと考える――いや、この思考が夢なのかまだ眠りに着いているかは分からないが――悪友が僕の中にいることと、そして堕天使が今も人々から栄養を吸い、蓄えているのも分かる。
そして対策の天使も味方に付き、岸辺明も仕事熱心でシフトを任すこともきっと可能だ。
なら今抱いているこの不安はなんだろう。
悪友が怖いのか?――いや違う、僕らが負けるはずはない。
僕が天使の力を取り戻せるのも時間の問題だからだ。
僕が思う不安は、きっと星井の安否なのだろうか。
星井……今更彼女が天使だったことに驚く必要もない……僕もきっと人間じゃないから。
ここ最近の出会いの重なり……サタンの娘である悪魔。インキュバスでもサキュバスでもない亜熊遊夢。そして天使や黒いフードの女性か。
そういや、黒いフードの彼女は僕らのことを知っていたな。
あの時――悪友のことも、堕天使のことも、そして僕の余命も、星井のことも……あれ、どうして――あのことも。
どうしてあの時、僕は気付かなかった。
「あの時……」
た、確かに言った。彼女は知りすぎているくらいに。
確かにあの時は絶望的に追い込まれていた。そして助けられたが故に見逃していた。
「……くっ!」
僕は真夜中、宛はないが外を走った。
今、僕の仮説が実話になろうとしているこの瞬間、僕は気づいたんだ。急なことだが、こんなことがあってしまうなんて!
「お探しですか?高橋炊樫?」
満月を背景にカッコ良く登場する彼女、今度は正面からの会話からか、狐の面を付けていた。
「テメェ、何故僕がここにいると分かった?」
「テメェとは随分な言葉ですね。まあ呼ばれた気がしたから来たんですが」
「あの時気付けなかったのは僕のミスだったんだ。お前の墓穴に」
「墓穴……何のことです?」
「そもそも!何故僕らのことを知っているんだ?既にその時点で敵視するべきだったんだ!」
「ちょっと、さっきから一体何の話です!?ひ、ヒドイ事を言わないでくださいよ……」
動揺なのか不安なのか、それとも芝居なのか。彼女は慌ただしく答えた。
「そんな三文芝居にはもう騙されないぞ。お前、どうしてあの時、悪魔に人間の血があると分かった?」
黒いフードの彼女の墓穴――誰も話したこともない情報を何故、彼女が知っているのか。
それは1つしか理由がない――何処かで血を調べたからだ。
「……それを知ってどうなんですか?仮にその事を話しても……か、仮にもですよ!?仮にも私は……貴方を……ぐすっ……助けたんですよ?星井操も……助けたのに……」
泣いているのか。たが僕は動じない。
「あぁ、そうだったな。『自分の認識を書き替えた自分』が助けた……名演技だったよな。お前が僕を騙すために天秤という舞台でわざわざ敵を作り、そして見せつけた幻なのだろ?」
「……」
「どうも可笑しいと思ったんだ。話し過ぎたんだよお前は。悪友が卵を生む話しも、堕天使を作ってる話しも……天使の情報からは今すぐ悪友を引き出すのは危険と言われたぞ。秋頃という期間、それは悪友本人から聞いたんじゃないのか?それともお前も天使だというのか?」
「……」
「黙ってないで何とか言ったらどうだ――!お前が――!」
ダンッ!!!――僕は続け様に何かを口走ろうとした瞬間、彼女は僕の近くまで地面を踏んで降りてきた。
「あぁあぁうるさいなぁぁああ!いちいちネチネチ説教かよ?」
黒いフードの彼女が頭のフードを脱ぎ、髪の毛が露となった。しかしそれだけでは誰なのかまだ分からない。
白銀の髪色、今家にいる天使も同じ髪色だが……僕は他の天使を見たことがない。逆に星井は青黒い訳だから、偏見と憶測で語る訳にもいかない。
仮面はどうやら、取るつもりはないようだ。
「バレちゃあしょうがないよな?高橋炊樫、お前を今ここで……殺す!」
「認識を変える!」
「無駄だ!今のお前程度の人間が認知改変などと、軽く言うんじゃないよ!」
「だったら、オレのはどうだ?」
低い声、この声……割と久しぶりに聞いた声。
「か、体が動かん!」
「ったく、留守番ご苦労様。間に合ったな」
「叔父さん!?」
「話しは後だ。こいつは堕天使の中ボス、てところかな?さあ、一緒に倒すぞ」
状況が読み込めないまま、僕は叔父さんと共に戦うことになった……どうして叔父さんが。




