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第3話―イジメっ子なりの和解―

「止めてくれ……もぉ……死んじゃう……」


 彼女は幻に埋め尽くされていた。その夢から目を覚ましたのは、その後から1時間後のことだった。 


「はぁ……はあ……」 


 汗だくで気持ち悪い。彼女はそう思った。 


 何が起こったのか分からず、起き上がり直ぐに状況を理解した。


 悪夢を見せられた。悪魔である私が悪夢を見ることになるとは、そんな屈辱を味わったのだと理解した。


「くそっ!許さないぞ、高橋焚柏!」


 地面を血が出る勢いで殴り付けた。


 その熱が覚めない内にも一つ気がついたことがあった。


 下を濡らしていた。悪魔とはいえ見た目は17歳の少女、そんな自分に泣きそうになった。 


「これ、どうやって帰ればいいんだよ!」


人目に付かず、彼女は懸命に帰って行くのだった。





 翌日――僕は学校に行こうか悩んだけど、結局登校することにした。


 下手に休んで怪しまれるのも釈然としないと思い、僕は教室でいつも通りに席に座り、小説を読み始めた。 


 すると、後から教室に到着した星井が僕の目の前で足を止めた。


「ちょっと、いい?」


いつもと違う声のワントーン高い声、僕は何を言われるか何となく察したため、本を閉じた。


 彼女に連れられ屋上へと足を運ぶと、そこには星井の仲間二人もそこにいた。


「昨日はありがと」


「あぁ、別にいいよ。気にするな」


 僕は流すように相槌をした。


「今まで散々なことしたのにさ、なんか、おこがましい、よね?」


「そうかもな」 


「これから、もう今までみたいなこともしないからさ……仲良くしてよ」


「……はっ?」 


 僕は理解に苦しむ言葉を耳にした。


 最後にぼやいた言葉だ。今彼女は『仲良く』と口にしたのか。冗談ではなかった。僕は軽く首を降った。


「止めろ。なにもしなくていいから、これからは目が合っても無視してくれればいいよ」


「ちょっと!そんな言い方なくない!?」


「そうよ!星井が折角仲良くしようとしているのに!」


 仲間二人が間に挟まってきた。


 折角、なとど口にしているが僕はそんなこと頼んでいない。


 ただ静かに1年間過ごせればそれでいいのだから。


 そのためには、この3人は妨害でしかなかった。

 

「恩着せがましく考えないでくれ。助けたのに理由はないし、ただ命まで失う必要はないと思っただけだ」


「命?」


「あの茶髪の女は、きっとそうしただろうと思っただけだ」


 皆まで言おうとしたが、それは止めた。どうせ信じる訳はない。


 証拠の写真も昨日消してしまった。


 僕の言葉に星井は呆然とこちらを見ていた。


「そのもしかしてのために、今までひどいことした私を、助けて、くれたの?」 


「よしてくれ!そんなんじゃない……」


「まあ、さ。お互い直ぐに仲良くなれる柄じゃないのは分かるよ。だから、私なりに努力はする」


「……」


 僕は星井を拒絶しようにも、どうやらそれは無駄なようだ。だから僕は彼女と友達となった。


 どんな返答をしようとも、恐らく彼女の性格的に無理してでも恩を返そうとするのだろう。


 僕が諦めることで彼女が納得するならと、その場はそれで収まった。


「ま、よろしく」


 僕は軽く返事をした。


 その言葉に満面の笑みで手を握ってきた。


 その姿は昨日までとは別人だった。


「今日、お弁当作ってきたから!お昼はここで食べようね!」


「べ、弁当……!?」


「それじゃ!」


 昨日の蹴り飛ばしで頭でも打ったのだろうか。


 どういう事なのか、僕は唖然とするばかりだ。


 彼女の性格が180度、変わっていた。


 僕の催眠術の影響が彼女にも受けてしまったのか。


 でもあの時は、あの悪魔と僕しか目を向いてる者はいないと思ったが、変に影響を受けているなら目を冷まさせないとならない。


 術は本来時間で解けるものだが、このケースは初めてのため、術の解除方法をも一度調べなくてはならない。


「やれやれ……」


 僕は戻りたくもない彼女のいる教室へと戻った。


 こんなことなら、助けるべきではなかった。





 お昼になり、屋上へとやってきた。 


 彼女の作られた弁当は絵に描いたような綺麗で、玉子焼きにウインナー、からあげに星形に切られた人参などなど、たくさんあった。


 そしておにぎりに顔が書いてある。


 僕は恐怖した――普通ここまでする弁当を2人前、目の前にあるのだから。 


「はい、あーん」


「はぁ!?」


 僕は理解した。こいつ、距離の縮め方を知らないのだと。


 友達という友達をいないこいつなりに多分無理していることを理解した。


 あの仲間2人も何やかんや、こいつに気を遣ってるんだなと痛感する。


「お前、誰にでもあーんとかしちゃうわけ?」


「うん。私と仲良くする人間にはみなそうするわよ?」


「人間、て。お前、今後それ無しな。弁当は食ってやるから」


「何で?」


「異性があーんしていいのはカップルだけなんだよ」


「へぇー。ま、いいじゃん?」


「よくねぇよ!なに華麗にスルーしちゃうかなぁ!?」


 ツッコミを入れるのも疲れる。


 友達になるのって、やっぱり疲労困憊となる。


「今後とも仲良くするなら、距離を大事しなきゃ駄目なんだよ。色々と困るだろ?」


「私は困らないよ?」


「いや、僕は困るから。周りから色々と勘違いされても困るから」


 彼女には『友達』と『恋人』の距離とか感性を持ち合わせていないのだろう。


 正直、彼女の天然さを考えば、僕に対しての過去のイジメも、僕の勘違いだったのだろうか。


 僕が冷たくしたから、彼女も冷たくした。


 初めから僕の方から距離を置いたのは、言うまでもなく、1年間無事に過ごすため。 


 でも彼女自身、イジメで有名なのもまた間違いはないはずだからさ、その可能性は薄いのかもしれないけれど。


「ごちそうさま」


 色々と考えても答えは出なかった。


 今後の距離を考えないといけない。


「明日はサンドウィッチがいい?」


「いや、あ、もう、うん……好きにして」


 心が、折れそうだ。

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