覚醒の時
見えてしまった未来に抗うことの出来る力はない。
僕は気がつけば再び天秤の前にいた。
堕天使がこちらの意見を待つように睨んでいた。
答えに正解なんて最初から無い。
昨日からの伏線が今日の些細な事で死となる前線で僕はどうすることも出来なかった。
僕に出来ることは~ー戦い逃げることだけだ。
「認知を変えろ!この空間などなかったことにしろ!」
僕は命一杯に全身に力を入れて堕天使に変換を試みた。しかし彼女はそれを嘲笑う。
「私に、認知を変えるだけの能力が効くとでも?一体なんのマネなんですかこれは?」
「簡単だ。僕はどちらも受け入れない。それが答えだ」
僕は二人が好きだ。
そんなのは出会った時から分かっていたんだ。
天の邪鬼だと、誰かは言うだろうな。
どちらかを選ばなければ世界が終わるというのなら、僕自信が死を受け入れるしかなかった。
「残念ですよ高橋炊樫。あなただけでもと、思った行動だったけれど、お節介みたいね」
「お前は、僕を知っているのか?」
「えぇ、とてもね。あなたが記憶がないだけで、あなたはこの魔界と天界を結ぶ天秤なの。つまりこの天秤こそが、あなた自身」
「だから……見えたのか。未来が」
「未来?この天秤にそんな力はないわ。この天秤は未来を決めるだけの器よ。それともあなた……さっきの数秒間、何を見たの?」
「さあな。幸せではない未来だったかな」
「既にお前に未来はない!私がお前を殺し、その身体を乗っ取ってーー!」
堕天使が構えようとした瞬間のことだった。
無数の光の針を刺され、そのまま花火のように身体が塵となった。
「間に合いましたね。堕天使……何故ここに……」
黒いフードから女性の声が聞こえた。
彼女は、未来の最後を見届けた観測者。
さっきまで見えた未来にいたのは確かだった。
「お前は……まあ今はいい。堕天使は何故僕のところに?」
「あなたに力があるからです。人間の認知を変える力を」
「この能力は、人間しか対象じゃないのか?」
「そうです」
「でも……悪魔の時は……」
「悪魔には人間の血が入っています。だから勘違いをした……そうですね?」
「あぁそうだ。貴方は、何を知っているんだ?」
「今あなたに教えられるのは、この堕天使が、間違えた未来に生まれた悪友の一人、ということです」
「間違えた、未来に?」
「それを今から、順を追って説明します」




