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第2話―悪魔との戦闘―

 放課後、僕はいつも通り帰ろうとしていた。


 いつも通りというのは、誰とも話さず誰とも関わりを持たず、先生にさよならを言わずに帰ることである。


 僕は一人、カバンを脇に挟め、両手をポケットに手を突っ込みながら下駄箱へと向かった。 


「高橋ぃ!」 


 誰か僕を呼び止めた。この声は女性、星井の仲間だった。

息荒く、ただ事ではない様子だった。


「高橋、助けてくれ!(みさ)が捕まった!」


「……はっ?」


「変な先輩がお前を指名して……とにかく、お前を呼んでるんだ!」


 僕を呼んでいる。


 つまりは僕を知っている人物で間違いはなかった。


 まさかとは思うが、昼間屋上で見た女子高生だろうか。


 まさか撮る瞬間を見られたかもしれない。

 

 しかしそれで星井が捕まったのは何故だろう。 


「星井は、俺の名前を口走ったのか?」


「えっ?いや、なんというか……文句言うてたよ。いつも通り」


「……」


 複雑だった。やはりイジメられてる身としては、何とも言いがたい気持ちでいっぱいだった。


 とはいえ、このまま僕が助けを断れば彼女はどうなるのか、大体の検討はついていた――血を吸われて死ぬことになる。


「そいつはどこにいる?」


「第二体育倉庫……」 


 僕は走って向かった。


 第二体育倉庫とは、小さい倉庫で基本的に人がやってこない場所だった。


 確か転校してきて初日くらいに『第一体育倉庫、て名前なんだけど、実際はこっちのが新しいのよ。


 でもこっちのが目立つし、利用回数も多いから皆こっちを第一体育倉庫と呼ぶの』と担任の女教師に説明を受けた。


 つまり第二体育倉庫とは、グランドにある小さい倉庫のことだった。 


 いくら彼女に罪が有ろうと無かろうと、死ぬことはない。


 ただそう思い、僕は走った。





 僕は第二体育倉庫のシャッターを開け、薄暗い倉庫の電気をつけた。


 埃被った電球が周りを照らす。そこにはガムテープで口を塞がれ、身体をロープで縛られている星井の姿が目の前にいた。


 少しだけ淫らに制服がはだけている。だがまだ血を吸われてはいないようだ。


 僕は少しずつ星井へ向かい歩くと、カチャッ――という音が聞こえ、振り向く前に「動くな!」という罵声に動けなくなった。


「待っていた。高橋炊樫!」


 予想通り、やはり屋上で見た彼女。恐らく間違いはなかった。


 振り向けないから全体を見ることは出来ないが、少しだけ動けた目線で髪の毛を確認できた。


「動くな、といっている」


「……なら星井を解放しろ」


「なら例のブツを消すのだ!」


 やはり写真を撮ったのがバレていたようだ。 


 僕はスマホの画面を彼女に見せながら操作をし、画像を言われるがまま消した。


 彼女は何も言わずに銃のようなものを降ろし、早く助けろと言わんばかりにこちらを睨んでいた。


 僕は星井の元へ向かい、ロープを外し、口のガムテープをゆっくりと剥がしてあげた。 


 星井は泣き出した。


 余程怖かったのだろう。だけど僕を苛めている星井を助けたことに、何というべきか、僕はムカついていた。


 そんな感情を抱きながらも、僕は星井に肩を貸してあげた。そのまま出口へ――そのまま帰るつもりだった。だが彼女がそれを許す訳がなかったのだ。


「っ!」


 彼女は風の如く、星井だけを出口へと蹴り飛ばした。


 僕は一瞬の出来ごとに動けなくなった。


「さぁ、血をよこせ!」


 目の色が変わった。月のように黄色に輝く目は人間の物ではなかった。


「やはりお前は、吸血鬼なのか……?」


「吸血鬼?違う、私は悪魔。人間界を征服するためにやってきた」


「悪魔?」


 それに答えるように彼女は唸りを上げながら背中から大きな翼を広げた。


 破けた制服から出たその翼は禍々しい黒と紫の色合いで、その非現実のファンタジーに僕は唖然とする。


「本物の悪魔……」 


 僕はそうぼやいた。


 人間の皮を被った悪魔が目の前にいる。


 そう思うだけで背中に寒気が走る。


 逃げようにも僕の背後は物の巣窟(そうくつ)で、逃げようがない。


 だからこそか、僕は戦うことを選んだ。


 前にも話したと思うが、僕には戦う術がある。


 それで勝てるかは分からないが、何もせず死ぬよりはマシだと思い、力を少しずつ解放はした。 


「何だその目は。人間のくせいに生意気な目は」


「生憎、生まれつき目付きは悪いんでね……」


「知るかよそんなの。さぁ、私のために死んでくれ」


 彼女は持っていた銃の構え、僕へ向けて躊躇なく一発、二発、と連続で撃ちまくる。


 血飛沫が飛び散るその光景に彼女がニヤリと笑う表情を浮かべていた。


 僕の身体は地面と叩きつけられ、血が全面へと波を打っていた。


 呆気ない結末に彼女はため息一つ付き、死体に近づいてくる。


「人間は脆いよな。鉛弾を(ぴすとる)に込めて打つ、それだけで殺せる」


 頭を鷲掴みされ、垂れる血を(すす)っていた。


 美味しそうに美味しそうに、甘い密を飲み干していた。


 そういう姿が僕には見えていた。


「旨いか?僕の血は?」


「なっ!?」


 彼女は乱暴に認識されてた僕を放した。 


 僕の能力を発動していたことには、どうやら気がついていないようだ。


 それには都合がよかった。


 僕の能力に気がついていないその時点で僕に勝ち目はあった。


 何故ならば、僕の能力は『認識したことを現実に認識する能力』だからだ。


 分かりやすくいえば催眠術、彼女がそう思えばその通りになる、夢を現実と勘違いさせる能力だった。


 そしてもう一つ、僕には幻を見せることが出来る。


 この2つの能力を使うことで、初めて相手を陥れることができた。


 女性でもある彼女に僕は僕の趣味で「殺す」ことにした。


「さぁ、堕ちるがいい」


 僕の呟きに彼女は既に幻を見ている。


 無数複数に現れる僕の姿――


 十字架に張り付けとされた彼女は成す術もなく、犯された。


 剣では刺され、血が垂れる。服を脱がされては乱暴とされる。 


「い、いやぁ、ああっ、んんんっ!?」


 口を手で塞がれ、叫びたくても叫べない。 


 涙を流すが誰も助けない。


 羽は千切られ、何もかも滅茶苦茶となる。そんな幻を見ている。


「今回はうまくいった……」


 僕は星井を連れてその場を去った。


 最後まで見届ける必要もなく、彼女のその後はお察しの通りだった。死ぬことはないと思うが、しばらく失神して動けなくなることは間違いなかった。 


 僕は星井を保健室に置いて、一人、自分の家へと帰ることにした。


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