亜熊ルートーBAD ENDー
「僕は亜熊を選ぶ」
その選択をした僕はバナナを手に取った。
星井は唖然とするように僕を見つめていた。
「どうして……そんなにその女がいいの!?」
僕は出会った時から亜熊が好きだった。
その気持ちは確かに偽りの愛だったのかもしれない。
それでも亜熊の魅力は人間を超えるものだった。
僕は手のひらを反すように気持ちを裏切り星井から目を叛けた。
「結局あんたは私に勝てなかった。それが今証明されたのよ。約束通り、私が高橋君の彼女になるの」
「そ、そんなの結局タカタカが決める事じゃない……そうでしょ!?」
再び星井が僕に目を向けた。
そんな星井に僕はハッキリと答えを出すことにした。
「星井、すまない。僕は亜熊が好きなんだ」
「そんな嘘……!?あんたを、一度は殺そうとしたんでしょ。それなのに……」
驚きのあまり開いた口が塞がっていなかった。
星井は事実を受け止めようにも気持ちが追い付かないのか、虚ろな目で茫然としていた。
「じゃあ高橋君、行こうか」
「……どこへ」
「魔界によ。アナタを手に入れた以上、この世界にいる必要はないから」
僕と亜熊は学校を後にし、一緒に魔界へと一度帰る事となった。
星井はただその場で震えながら、涙を流すのだった。
☆
それから数か月後、あの日を境に気が付けば悪魔も現世から消え、星井はいつもの仲間二人と登校していた。
失恋の傷も徐々に消え、いつもの日常へと戻ろうとした日のことだった。
今日は天気が悪くドシャブリの雨、傘を差しても肩が濡れてしまう。
「今日体育バレーかな?」
「だねぇ。この雨じゃソフトは無理だしね」
そんなたわいのない話を星井と仲間の一人が校門を前にして話していると、もう一人が足を止めた。
そのまま茫然とうずくまり、下を向いたまま動かなくなった。
「どしたの?気分悪いの?」
仲間の一人が駆け付けた。
星井も駆け寄ろうと振り向いた頃にはーーもう、仲間はそこにいなかった。
「あれ?」
周りを見渡すもドシャブリで景色を見る事が出来なかった。
霧雨のように地面の水が蒸発を始めている。
星井は傘を置いたままその場を走り出した。
どんなに進んでも見えるものは何もなく、ただ只管に仲間を見つけに走った。
「ねぇいるんでしょ!!ねぇってばぁ!!」
そんな声も虚しく雨の音で打ち消され、星井は息を切らしながらも足を止めなかった。
泣きそうになりながら、服は泥んこになりながらも、苦しくても探した。
「……誰!?」
最果てに誰かの影が見えた。
その人影に走り出す星井。
もはや世界は霧に包まれた孤独の中、一人でいる事に怖かった星井にとってそれは安心感でしかなかった。
近づいた先に見えた背中に手を乗せると、その人影が振り向く。
そこに見えたのは人でなく、人の形をした禍々しい存在だった。
「い、いや……あっあっーー!」
星井は悲鳴を上げる間もなく首を跳ねられて、血飛沫が雨と混じって消えていく。
身体だけとなった肉片を禍々しい存在の何かが貪るように食らいついた。
「美味しかった?」
「あぁ……これで、悔いはない」
星井と話すその声は高橋だった。
高橋が星井を殺したーー昔好きだった人を自分の手で終わらせたかった。
ただそれだけの理由で殺し、人間を辞めて魔界の住人となっていた。
そして今日、既に魔界が現世を支配し、天界に向けて戦争の準備を進めていた。
「悪魔は?」
「さぁね。それよりさ、終わったらね?うふふ、あなたのが欲しいの」
「あぁ、終わったらいくらでもやるさ」
二人は雨の中、人間を殺しに霧のように消えて行った。
世界は既に人間という存在を消し、天界人と魔界人だけの神話へとなった。
もう誰も観測することは出来ない。一人を除いてはーー
「戦争の準備は始まってしまった……人間のいないこの世に、何の意味があるのでしょう……」
黒いフードの少女がそう呟いた。
世界は破滅へと向かい、そして何もかも失った。
虚無の世界の傍観者となった黒いフードの女性は自ら息の根を止めた。
「ロキ……あなたの……元、へ……」
世界は、終焉となった。




