星井ルートーBAD ENDー
「この些細な選択こそが、貴方の運命を変えるのです」
そんな僕の答えは1つだけだったーー
「僕は星井を選ぶ」
天秤に白い羽が募り、星井を指した器は大きく傾いた。
そして堕天使は何も言わずに消えてしまった。
正直、今の一瞬で何が起きたかなんて分からない。
でも僕は無意識にみかんに手を伸ばしていた。
「ほらね、タカタカは私を選んだのよ。あんたみたいな淫乱女を選ぶ訳ないのよ」
星井が誇らしげに上から目線で亜熊を見下す。
その選択に怒りなのか悲しみなのか、複雑な表情を浮かべたまま白い目で僕を睨んだ。
「どうして……なの。私があんたを嫌いになってもいいっての……」
僕は選んでしまった。
だから僕は後戻りが出来なかった。
「お前は少なくとも、僕を殺そうとしたじゃないか」
「違う!あれはあなたが欲しがっただけ!殺す気はなかった。もし本当なら今ここにあなたはいないじゃないの……」
強烈な声とは裏腹に徐々に弱気になる亜熊の発言に僕は罪悪感を覚えた。
それなのに何故だろう。僕は取り消すつもりが起きずに泣きそうになる亜熊を見つめていた。
女の子を泣かすのはこれで2回目となる。
悪友の顔がチラつくように脳裏から記憶が入ってくる。
そう、あの言葉が木霊する
『二年後に会いましょう』
その時だった。
物凄い吐き気と眩暈に襲われる。
この感覚は二年前にも味わったのと同じ感覚だった。
吐きたくても吐けない、カラカラの何かが身体から飛び出そうとしていた。
そんな状況を無視するかのような出来事が起きた。
「ーーっ!」
僕の横にいた星井が教室の壁へと吹き飛び、教室にいた生徒を巻き込んだ。
気が付けば亜熊は手のひらから空気玉のようなもの、恐らく魔力を放った。
放った魔力に追い討ちするように、翼を生やした亜熊が黒い棘のようなものを星井の全身へと突き刺した。
「うぐっ……う!た、たかた……」
僕の名前を呼ぶことも出来ぬまま息絶えてしまった星井の姿がそこにあった。
僕は恐怖はしたが、認知を変えれば星井が助かるかもしれないと期待をした。
だがこの猛烈な吐き気のせいなのだろうか、上手く力を使うことが出来なくなっていた。
僕自身唖然とするばかりで、亜熊に目線を送った頃には遅かった。
亜熊が僕に手を出した。
僕の頭に情報が入るよりも先に死んでしまった。
首を跳ねられた。
そして何もすることもないまま、教室にあったのは数人の死体と息をする亜熊だけだった。
「……なっ!」
亜熊にも、吐き気が襲い始めた。
それも高橋とは別物のように、身体の中に蛇でもいるかのように暴れだす。
「何よ!何なのよ!何がいるのよ!!!」
大声で抗うも身体の中の敵を倒すことなど出来ないまま、亜熊の腹が避けようとしていた。
「あぐっ……!あ、あぁ……」
恐怖で足がすくむ。
その後に痛みが走るのを感じた。
パニックで呼吸も困難のまま下を濡らしていた。
「助かて……悪魔!助けーー」
ーーグジャァッ!!!!
柔らかい何かが裂ける音が教室を響かせる。
この時既に亜熊に意識などなかった。
魔界の住人である彼女は魂だけの存在となり、再び身体の再生をしようとするが、その魂はモノノ数秒で浄化されてしまった。
そこから生まれた“何か”によって、新たな生命がこの世に生まれた。
「約束は果たさせて貰うよ」
この言葉を誰に発し、誰も答えることの出来ないまま、その者は教室を出た。
☆
そして数日後、ものの数日後に世界は完全に堕ちてしまった。
町に人は愚か、まともに生きる生命がこの世を去った。
「ロキ……」
ただ一人を除いては。
黒いフードに身を包んだ彼女、過去に星井を救った彼女だけが残ってしまった。
「もはや、天界へ行くゲートもない……魔界もいつか……彼女に手を貸し、ヴァルハラも滅ぼされるのでしょうか」
彼女はただ祈り続けた。
世界を救う救世主の誕生を。
だがそれはーー叶わぬ夢となったのは、この世界がおとぎ話となってからのことだった。




