第1話―星井という女―
僕は結局教室でお昼を済ませ、残り時間を持ち前の小説を読むことに勤しんだ。内容は所謂秋葉系の萌えラノベだ。
挿し絵の女の子が露となる姿を、誰の視線も気にせずに宥めるように見続けていた。
僕は俗に言うアニメオタクだった。
「タカタカ~なーに見てるのぉ?」
僕のことを勝手なあだ名で呼ぶのは、ここ最近僕のことを苛める同じくクラスの星井 操であった。
青黒のツインテールに第一ボタンが外れて鎖骨が見える。僕は彼女のことが嫌いだ。
何かある度にちょっかいをかけ、馬鹿にする態度にイライラしていた。
本を取り上げられ、勝手にパラパラとページを捲られては嘲笑った。
「こんな本読んでる時点で終わっているよね。ホントきもい。変態も良いところよね」
ボロクソの一言だった。
だが僕は過去にも似た経験はあるから痛くも痒くもない。ただ少し、ストレスが溜まるだけのことだった。
僕は席を立ち、彼女から本を奪おうとしたが、本を遠ざけられ、そのまま本を読んでいた。
「そんなに必死なものなら、学校に持ってこなきゃいいよ」
「出た、星井の嫌み」
「でも操は悪くないよね。悪いのはモジャオ君よ」
便乗して仲間が二人やってきた。
僕は深くため息を着き、手伸ばし星井へと向けた。僕の立つ位置からでは届かないが、少し前に話した『特殊な能力』を使えば--
「えっ?」
持っていた本が僕の手元へ買ってきた。
詳しく話すと、僕は『相手の認識を書き換える』ことが出来る。
単純に言えば、僕が念じればそのまま念じて願ったことが現実となる能力。
つまりは、今僕は彼女に『本を最初から奪っていない』ことを認識させ、結果、本は僕の元へと戻ってきたということだ。
「いい加減にいろよ星井。頼むから、二度と関わらないでくれ」
「くっ!」
僕はガン付けるように彼女のことを睨み、再び読書へと戻った。
彼女も何も言わずその場を去り、仲間二人も一緒に教室から出ていった。
「ったく、一体何が楽しいのやら」
そう、僕は一人事でそう呟いた。
彼女のイジメの行動は僕だけに起きている訳でなく、何かしら理由がある特定にだけ行っているようだ。
そのため、誰が次の対象になるから分からないのだ。
とはいえ、僕がこの高校に来てから特に友達と呼べる友達が出来ていないため、相談のしようがないのだけれど。
「ホントむかつくよね、あいつ」
さっきのイジメのボスとも言える女の子、星井はさっきの仲間二人を教室を後に屋上へと向かってきた。
お決まりのサボり、彼女ら3人は二年生では有名な不良だった。
見た目は普通の女の子なのだが、裏腹に態度は決して良いものとは言えなかった。
「まっ、今日にでも拉致してボゴればいいんじゃね?」
「そろそろ私らの恐ろしさ、分からせないとねぇ」
仲間が二人がニヤニヤと勝手な相談をするが、星井はあまり浮かない顔だった。
「拉致は、止めない?」
「な、なんで?」
「えっと、ほ、ほら、さっき変なことしたじゃん?」
星井が冷や汗をかきながら仲間に説得をする。
「変なこと?」
「ほ、ほら、本を勝手に--」
「本?本がどうかしたっけ?」
「さあ?」
「覚えてないの?奪った本をあいつが――!」
「奪った?ちょっと星井、意味不明すぎ」
「えっ?」
「だって操、今回は本なんか奪ってないじゃん」
認識の変更は対象となった人物に関わる記憶に連結する。
だが星井にだけ、認識が変わった時の記憶があった。
それは何故なのかはまだ分からないが、仲間二人は認識の変更に成功していた。
その会話をたまたま聞いていた一人の女子高生が、屋上からこちらへ向かう。その足音に星井が振り向くと、屋上から来た彼女が満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ、今の話し、聞かせてよ」