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遊夢編04-06

「……ここは?」


 静かなる教室で、たった一人のまま星井は自分が横たわっていることに気が付き、そして自分は恐ろしい幻影を見て気絶したことに気が付く。


 身体を起こし、教室を出て廊下を見渡すも、誰一人そこにはいなかった。


「……みんなは?私、どうして……」


 状況に混乱しながら廊下を進み、取り合えず外へ出ようと動こうたした時、外側の窓に大勢の生徒が集まっているのが見えた。


「あれは……なんなの!?」


 星井の位置からでは集団の塊にしか見えず、今何が起きているかは分からないが、とても良くない状況に変わりはなかった。


「直ぐにここから出なきゃ!」


 星井は走って一階行きの階段へと向かう。


 真っ直ぐ長い廊下を走り、角を曲がれば階段が見える手前で、星井の視界に良くないものが移る。


 それは意識などあるはずのない目をした男子生徒が2人、階段で待機していた。


 走る音に気付いたのか、生徒がこちらに向かってくる。


「なんなのよ……なんなのよ!」


 来た道を戻ろうと振り替えるが、その先にも人影が薄く立っていた。


「誰!?」


「静かに。そこどいて」


 ゆっくりとこちらに近づいた人が影から姿を見せるも、黒いコートで身を包んだせいか、その人の顔を見ることが出来なかった。


星井は静かに後ろへ下がると、黒いコートの人は左手を大きく振り下ろした。


「浄化せよ!」


 神々しい白い光を男子生徒に放つと、光が身体に吸い込まれて行く。


 そのまま男子生徒は無気力のままに倒れた。


「さあ、お行きなさい。彼があなたを待っています」


「……よくわからないし、それを聞いている時間もないけどさ。あんたが誰かも知らない。でもありがと!いつかこの恩は返すから」


 星井は兎に角走った。


 高橋のもとへ、ただその事しか頭になかったから、何も考えずに走った。


「必ずや、彼を助けるのですよ、ロキ」




 そしてその頃、生徒を殺さない程度の加減を調整しながら倒し続けるも、切りがなく既に疲労困憊だった。


「悪魔化の……ぜぇ……疲労もこんなにキツいなんて!」


 ほとんど能力の試しなどない高橋にとって、悪魔になるということに身体が拒否反応を示していた。


 覚えのない寒気と吐き気、高熱を及ぼすような症状に能力は解けてしまい、人間へと戻る。


 僕は意識を朦朧とし、もう立つことも難しかった。


「くそぉ、俺はこのまま、殺されるのか……」


 大勢の生徒に囲まれ、このまま殴り殺されるのだろうか。


 僕はグランドの土を握り、悔しさのあまり涙が止まらなくなった。


「高橋くーん♪お・そ・い♪もぉ、こちらから来ちゃった♪」


 そこへ上空から大きな翼を広げながら亜熊が降りてきた。


 その姿に僕は驚きしかなかった。


「てめー……悪魔だったのか……」


「ポンピー!正解よ高橋くん、私の大好きな高橋くん……」


声のトーンを下げながら僕の頭を上から鷲掴みし、吊し上げるように持ち上げる。


「こいつら邪魔だから、消していいかな?こんな精力も持たない人間なんて、いらないし」


「よ、よせ!」


「なんてね♪しないけど、今は校内にでもぶちこむけどね」


亜熊は黒い煙を羽から放出されると、溶けるように囲んでいた生徒が一瞬にして消えた。


「安心してよ。テレポート、させただけだから」


「……」


「これで二人きり、最高のラブシチェエーションよね」


「どこがっ!」


「少なくとも、あなたは私から遠退くことは出来ないのよ」


「……どうゆうこと、だ?」  


掴んでいた手を放され、僕はそのまま地面に叩きつく。


「私は婬夢サキュバスの血、そして吸魔インキュバスの血を引き継いだ悪魔。そしてあなたの心は意識はなくとも既に私が支配しているのよ」


「支配、だと!?」


「あなたは、私を殴れない。殺せない。得意の洗脳とやらも、使えない」


「!?」


 僕思い出す、昔悪魔図鑑で読んだことがあった。


 サキュバスという悪魔は、人間に化けて異性の誘惑する悪魔だということに。


 つまり僕は、こいつと出会った時には既に、心を奪われていたんだ。 


「あなたに勝ち目なんてないの。この

まま私の王子様になって、幸せになりましょ?」


 その言葉に抵抗する力と気力を失いかけていた。


 僕はそのまま、何も考えず亜熊の恋人になるのも悪くないと思えた。


 既に勝負は終わっている。


 勝てる見込みなど、ないに等しいーー


「とか考えてるんじゃねぇよキーック!!」


「なっはっ!!」


 僕の目の前で亜熊が跳び跳ねていく。


 そして今、僕の目の前に悪魔がいることに気付いた。


「バカ野郎!学校に来るなと言っただろうが!」


「す、すまん……」


「ま、そのお陰でこちらも回復出来たしな。それより、お前、諦めるのか?」


「……」


「星井に、会いたくないのか?」


「星、井……」


 そうだ。


 僕は気がついた時には星井のことが好きになっていた。


 星井も僕のことを好きになってくれていた。


 僕を苛めていたのが嘘のように星井は僕に昔の思い出の片鱗を思い出させてくれた。


 僕も変われた。


 そして、悪魔も僕のために頑張ろうとしている。


「能力、返せよ」


「あぁ、これで貸し借りも無しだからな」


 悪魔に全ての能力が戻される。


 能力を封印していた本は真っ黒に染まり、ほんのりと温かさを感じた。


 まるで人の温もり、というやつに近かった。


「その本は、私はお前を繋いだ絆の証だ」


「絆?」


「そう、全てを思い出すことが出来たんだ。返ってきたのは能力だけじゃない。人間の温かさ、温もりってやつなのさ!」


 悪魔がいつものように翼を広げた。


 だが、光景はいつもと違うものだった。


 亜熊が起き上がり、顔を上げた時には、意を決していた。


「ば、かな……白い翼……悪魔のあなたがそんなっ!」


「これで終わりよっ!」


 白い翼が針のように細く尖った羽を飛ばし、無抵抗のままサキュバスの身体に突き刺さる。


「あぐっ!うぇ…………ああぁぁああああ!!!!」


 羽は花火のように細かく分散し破裂する。


 悪魔は翼を縮め、腕を組んで誇らしげに叫ぶ。


「これがっ!これがサタンの力なりぃ!」


 サキュバスは倒れ、僕の胸にあるわが溜まりのようなものがスゥーと消えた。


 僕はフラフラのまま、悪魔へと近づく。


「ありがとな、ほんとに」


「ま、私もこれから反逆者として生きて行かなきゃだしね。ほんと、これからどうーー」


「タカタカー!!!」


そこへF-1カーでも走って来たかのようなスピードで僕は強く抱き締められ、鯖折りされたみたいになった。


「よかったー!よかったよー!」


「はぁ……てかおいっ!高橋がっ!」


「きゃぁあああ!タカタカ、しっかり!?」


 その後のことは覚えていないけど、サキュバスを倒したことで全部の生徒の洗脳は解け、大半は病院へと送られた。


 残りの大半はその日は大飯食らいで治ったようで。


 そして死亡者が一人、セクハラ疑惑だった担任の教師がなくなったみたいだが、葬式は教師や生徒会のみで行ったとかなんとか。 


 これで星井がまた学校で授業するのだろうか。


 僕はそんなことを思いながら、夢の中へと行った。

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