遊夢編04-05
僕の状況は最悪でしかない。
前方後方ともに大量の生徒が群れでこちらに迫っている。
このままでは時間の問題となるばかり、僕は悪魔の能力のリストを見る。
それらの中に僕がこの状況を打破することのできるスキルは何もなく、もはや自分の能力しか頼れるものはなかった。
「……やるしかない」
僕は前へと走った。
近付けば呑まれると分かっていても、このまま黙って死ぬわけにはいかないからだ。
僕は先頭の女子生徒に『認識を現実に変える能力』を使い、その生徒が僕の味方であることに書き換えてみた。
成功するかは分からないが、もし能力で生徒の認識を変えられるなら、まだ策はある。
「どうだっ!」
生徒は白目だった瞳に僅かながらに色を取り戻した。
恐らく成功しているはずだった。
だから僕はそのまま洗脳を解いた生徒にも僕と同じ能力を分け与えた。
認識を変えた人間を更に認識を変えさせることで、僕と同じような能力を使えるようにした。
「よし、思った通りになった……」
それを今度は他の生徒にも使い、どんどんネズミ算のように増やしていく。
僕自身、能力の限界は分からないけど、やれるだけ味方を増やすしか方法はなかった。
「うぅ……はぁはぁ」
突然の疲労感、使えば使うほど体力が消耗するのを感じつつある。
僕の能力は精神的なダメージが入るようだ。
現状、一人の人間に対して2回も能力を重ねているのだから、倍の早さで負担が大きい。
しかし休んでいる暇はない。
早くしないと後方の男子生徒がこちらに到着してしまう。
「はぁはぁ」
息が上がるも洗脳解き続けるのは苦労する。
僕は能力を使う度に頭痛が走り、吐き気も同時に来てしまう。
スピードは落ちるものの、全ての女子高生を洗脳することに成功したーーが、先頭の方から再び目の色が消えるのを確認した。
「嘘、だろ!?」
そして同時に男子生徒が僕の背後にいるのを確認した。
希望と思われた作戦は絶望へと変わり、後頭部を思い切り殴られる。
「うぐっ!」
地面に顔が着き、僕は直ぐに仰向けに身体を起こすも、とても立ち上がって反撃出来る状況ではなかった。
僕は絶望を希望へと戻せる気力がなかった。
僕は星井のことが気になっていた。
もし僕が死んだら、星井はどうなるのだろうか。
あの悪魔は、今どこにいるのだろう。
助けてくれる保証など、どこにもないだろう。
そう考えれば考えるほど、僕は不安で堪らなくなった。
「(そうだよ。このまま、死ねるかよ!)」
僕は悪魔の能力を借り、筋力を上げて近くの生徒を蹴り飛ばした。
飛ばされた生徒は周りを巻き込み、一斉に吹き飛ぶ。
「痛っ!足が千切れそうだ……」
もう加減無しに蹴ることは出来なかった。
僕に残された道は余りにも少数派の意見とも言える行動、それこそ最後の足掻きとも言えた。
それが悪魔の能力のひとつ、悪魔化の力を使うことだった。




