遊夢編02
家に帰って直ぐのこと、僕は1人黄昏ていた。
とても気持ちがモヤモヤとしていたのだ。
この僕が亜熊のことを考えてしまうとは思わなかった。
頭から離れないこの状況、僕にとって災害そのものだった。
「能力で認識を変えられればいいのになぁ」
僕の『認識を変える能力』は自分を対象に使うことが出来ない。
それ故にこの気持ちを抑えるには、僕自身が克服するしかなかった。
取りあえず僕は気分転換に本を読むことにした。
「…………………………くそっ!」
読んで数秒で気づいた。内容が頭に入らなかった。
僕は本を適当に投げると、そこへ丁度悪魔とも帰ってきた。
「なに荒れてるの?」
「別に」
「んもう、こっちはこっちで忙しいのにさ。夜ご飯のひとつもないわけ?」
「知るか。寝る部屋があるだけいいだろ」
「……なんか変だよね」
悪魔は僕の態度に可笑しいと感じていた。
確かに今日の僕は少し可笑しかった。
いつもならも少し優しく返してもいいものを、やたら棘がある言い方をしてしまう。
「とりあえず、ラーメンならあるから。ところでお前、バイトは上手くいったのか?」
「まあね!」
悪魔は今日からバイトを初めていた。
もちろん理由は次の家を探し、家賃を払える環境にするためだ。
時給の高いバイトを見つけたらしく、悪魔はイキイキとしていた。
「そういや、どんなバイトなんだ?」
僕はヤカンに水をいれながら聞いてみた。
「喫茶店、てやつよ。悪魔の私が言うのもなんだけど、可愛い制服着れて働けるなんて、悪くないわね」
「へぇ、まあ順調ならよかった」
コンロに火をつけ、沸騰するのを待った。
悪魔はそわそわとこちらを見つめていた。
「気にならないの?私の制服姿?」
少し頬を赤らめ、こちらの様子を伺っていた。
こいつまで星井みたいなことを言い出すんじゃないだろうか。
「なるかよ。僕を何だと思ってるんだ」
「変態」
「お前までそんなことを……」
亜熊みたいな回答が返ってきた。
僕は湧いたヤカンのお湯をラーメンに注ぎ、割り箸と一緒に悪魔の前に置いた。
「まで、てことはあの星井にも言われたの?」
「いや、今日来た転校生に言われた」
「へぇ、転校生来たんだ。どんな子なの?」
「変態」
「なによ、あんたのクラス変態ばっかなの?」
「ばっか、て。星井は変態じゃないだろ」
「あいつのことはどうでもいいの。私が気になるのは転校生よ」
「ん?」
悪魔は少し険しい顔つきとなり、目の前の割箸を二つに裂き、ラーメンをススッて顔を上げた。
「悪魔がこの町に来ているわ」
箸で僕のことを指しながら、そう告げれた。
「そりゃ、お前だろ?」
悪魔、僕の目の前にいるのもまた悪魔だ。
「そーじゃなくてさ。新しい子よ。たぶん私が前回失敗したから派遣したのかも。あんたの言う変態が悪魔じゃなきゃいいけど」
容器を持ち上げスープを飲み干す、大きく息を吐き、ティッシュで口の周りを拭いた。
「そんな偶然あるかよ」
僕はその話を丸々鵜呑みには出来なかった。
悪魔なんて生き物がそう簡単に現れては困るからだ。
「一応、どの悪魔か調べておくから、用心しなさいよね」
「……悪魔ねぇ」
僕は天井を見上げ、その悪魔がこの人間世界にやって来たことに対しての危機を感じなかった。
現に目の前の悪魔を僕は倒すことが出来た。
悪魔は思っている以上に弱いのではないか、軽視してしまっていた。
でも既に僕は攻撃を受けていた。
そのことに僕自身気付ける訳もなく、近々僕の身に悲劇に起ころうとは、知るよしもなかった。




