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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
終わりと始まり
8/35

儚い日常

 それからさらに2日が経った。


 早馬の知らせを受けてシチナ村に3機の深緑色のゴーレス【ガンドマイストⅡ】が訪れた。


 全長15メートル。全体的に直線的でまさしく人工物であることがわかる。さらにその造形はそれが堅牢であると一目でわかるほどの重厚感を漂わせていた。


 頭部は一つ目のように見えたがそれの左右にはまた別に目がある。


 背中にある武装担架用補助椀(アルムアーム)には剣と狙撃杖を持っている。


 その内の1機が待機状態(ひざたち)になると1人の女性が降りて来た。


「お待たせしました。私はラグナンド騎乗士(きじょうし)団バースレンの副騎乗士長マーリ・フィッターです」


 マーリに対応しているのは初老の男性。彼がこの村の村長をしているらしい。

 互いに握手を交わすとその男性は頭を下げた。


「ありがとうございます。助かります」


「いえ、これも民のため。1機は常に護衛として動きますが2機は瓦礫の撤去に回します。可能であればすぐに指示をいただきたい」


「わかりました。それでは早速––––––」


 それを一騎は瓦礫の上に座り見ていた。

 見慣れないそれを見て本来ならば声を上げて慄くところなのだろうがそれ以上の物を経験した彼にとってはそんなことはしない。


 そもそもが今の彼はとてもではないがそんな気分になどなれなかった。


「あれが、ゴーレス……」


 今思えば自分が乗ったあのゴーレスはなんだったのだろうか。


 黒のゴーレスも気になるといえば気にはなる。が、それ以上に気になるのはやはり自分が乗った方だ。


 そもそもあれは本当にゴーレスなのだろうか。

 頭の中にいつの間にか入っている知識が違うと言っている。


 目を閉じればここ4日ずっと聞こえている声が響く。


『私の名を呼べ』


 その意味を考えていると話がまとまったのか2機のガンドマイストⅡはどこかへと歩き始めていく。


 その足音で頭をあげるとそこには先ほどまで村長と話していたマーリがいた。


「えっと……」


 突然のことに少し動揺しながらもどうにか口を開く。


「えっと……確か、マーリ・フィッター、様?」


 聞こえた彼女の名を一騎は恐る恐るといった様子で言うとマーリは笑みを浮かべた。


「マーリ、で構わないよ。様もいらない。【騎乗士(きじょうし)】とはそう言うものだ」


 騎乗士とはゴーレスに乗る操縦士のことを指す。

 基本的に騎士から選ばれ、その騎士もそのほとんどが名家の者がなるため一般平民がなろうと思ってなれるような存在ではない。


 しかし、一般的にはとあることによりあまりいい見方がされていないため普通の騎士よりも下の扱いをされることが多い。


 だが、別の世界から来た彼がそんな様子を知っているわけがなく困った様子で口を開いた。


「えっと……なら、マーリ、さんで」


「ああ、それでいい」


 マーリは笑顔で答えると一騎の隣に腰を下ろした。


 金髪に赤目、身に包むのは軽装の鎧。それらから放たれる雰囲気はまさに貴族、高貴そのものだ。

 当然、そんな女性を前に一騎がまともに話せるわけもなく言葉を探し、ようやく見つけたそれを外に出す。


「あの……それで、何の用、でしょうか?」


「そう警戒してくれるな。ただ、話をしたいだけだよ」


 一騎が首を少し傾げるがマーリは気にすることなく告げる。


「4日前の状況を聞けるか?」


「……はい。わかり、ました」


 一騎は嘘をつくことに少し罪悪感を覚えながらも頷き、話し始めた。


 緊張のせいか、それとも恐怖のせいか一騎は言葉につっかえながらもそれを話し続けた。

 マーリは途中で口を挟むことなく頷きながら話を聞いていた。


「……そうか。ありがとう。よくわかったよ」


 マーリは言いながら立ち上がった。

 そうやって立ち去ろうとする彼女の背中はどこか強そうに、自分とは何もかもが違う存在だと告げている。

 そんな彼女になら自分の心を迷いを告げてもいいような気がした。


「あ、あの!」


 そのせいか一騎は無意識に彼女に声をかけていた。

 マーリは振り向き、彼の方へと視線を移す。


 彼女の強い眼差しに少し後悔し、たじろぎながら告げる。


「あ、の……俺が、灰色のゴーレスに乗ったって……言って……信じてくれ、ますか?」


「な、に?どう言うことだ」


 一騎は今度は乗ったときの経緯を話した。先ほど以上に言葉を詰まらせながら、浮かばない言い回しはマーリからの助言を貰いながら話した。


 一騎の長い話を全て聞き終えたマーリは真剣な表情を浮かべたかと思うとフット表情を緩めた。 


「そうか……君は、守ったのだな。彼女たちを」


 その言葉が耳に届くや否や一騎は即座に立ち上がり、マーリへと詰め寄る。


「頑張った!?守った!?俺が!?あいつらの両親を殺して!泣かせて!他の人たちも殺して!それで……それで守ったって!本当に!!」


 言葉が刺々しくなるのを隠すことなど考えてもなかった。

 心の中に溜まっていたそれをただ率直に言葉として目の前のマーリにぶつけてしまっていた。


 驚きの表情を浮かべるマーリに一騎は我を取り戻し、距離を取り俯くと謝った。


「……すみません」


「……いや、構わない。私の方が不躾だった」


 マーリは視線を前へ、自分のガンドマイストⅡへと向ける。


「話を変えよう。少し授業を受ける気はないか?」


「授業……?」


◇◇◇


 足元が揺れる中、一騎は控えめに聞いた。


「い、いいんですか?勝手に動かして」


「構わん。今の私は村の警備中。これは偵察行動だ」


 悪戯っぽく笑いながらシートに座りガンドマイストⅡを動かすマーリに一騎はその後ろで心配そうな表情を浮かべた。


 授業を受けないか?と聞かれ頷くとあれよあれよと話が進み、ガンドマイストⅡに半ば無理やり押し込められ今に至る。


(なんで、急に……)


 ガンドマイストⅡの操縦席は灰色のゴーレスよりも少し狭いが後ろに人が入れるスペースぐらいはある。

 また、操縦席の前面にはモニターのような物が設置され、それが周りの景色を写している。どうやら近くの湖へと向かっているようだ。


「えっと……カズキ、だったな」


「はい。そうですけど」


「そうだな。まずは質問しようか。ゴーレスメンテッド、それは何のために存在している?」


 突然の質問に一騎は少し驚いたが冷静に考え始める。


 ゴーレス。自分のいた世界ではあり得る存在ではなかった人型の兵器。

 それが存在する理由とはなんだろうか。

 この世界ではあまりにも当たり前のことだろう。しかし、それはこの世界で産まれた者に当てはまることであり、一騎は違う。


 どうにか頭にある知識を捻り出して言った。


「大型の魔獣と戦うため、です」


 どうやらそれは正解だったらしくマーリは頷き、改めて説明するように話し始めた。


 ゴーレス。正式な名称は【ゴーレスメンテッド】。

 それは元々は魔術師にしか扱えなかった【ゴーレム】を誰にでも扱えるようにするために生まれたものだ。


 ゴーレムをメンテナンスするためのある種のパワードスーツのような物がその原型となっている。


 では、なぜゴーレムを誰にでも扱えるようにする必要があったのか。


 答えは単純、各地に現れる大型魔獣を倒すためだ。

 今より数百年前まではドラゴンを代表とするような大型魔獣が各地に現れていた。それら大型魔獣を倒すには同じく大型兵器のゴーレムが必要だった。


 しかし、ゴーレムを扱える魔術師の数は少なく、そのため、誰にでも扱える兵器というものは重要かつ早急に用意する必要があったのだ。


 と、その話を聞いているとある違和感に気がついた。


「あれ?でも、大型魔獣なんて……」


 そう、大型魔獣の話などこの世界に来てから一度も聞いたことがない。

 それなのにまだゴーレスメンテッドが存在しているどころか開発までされ続けている。


 そこに気がついた一騎にマーリはどこか嬉しそうに口を釣り上げた。


「それは簡単さ。我が国ガーンズリンドの隣国、セントリア王国もまたゴーレスを持っている。言いたいことは、わかるな?」


 そう聞くマーリに一騎は躊躇いながらも浮かんだ答えを口にした。


「……戦争に、使うため」


 マーリは一度頷くと説明を再開した。


 大型魔獣の脅威が去ると今度は隣国、セントリア王国の脅威が表面化した。


 それもそうだ。大型魔獣を複数でとはいえ倒す力を持つのだ。そんなものを早々に手放すわけがない。

 もし、自分が手放したとしても相手が手放さなければすぐに襲われ国が陥落させられるなど子どもでも想像できる。


 必然的にセントリア王国に対抗するにはガーンズリンド王国もゴーレスを残し、開発していくしかない。


「……そんな理由があったなんて」


「知らなかっただろう?」


 一騎は答えずに頷きで返す。

 この世界は平和だと思っていた。戦争なんてこの世界にはないと。そう思えるほどに長閑(のどか)だった。


「それは当然だ。国民たちには知らせるわけにはいかない。下手にその話を広げれば混乱が広がり、国民たちまでもがセントリア王国を睨むことになる。それは外交的にあまりしてほしくはないからな」


 あくまでも表面上はセントリアとガーンズリンドは友好関係を築いたいることになっている。

 しかし、それは仮初めでいつ壊れるかもわからないものである。


 日常などほんの些細なきっかけで容易に崩れ去つてしまう。

 日常とはいつ壊れるともわからない儚いものだ。とマーリは話しを締めくくった。


「よし、到着だ。先に降りてくれ」


 気がつけば目の前のモニターには湖が広がっていた。

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