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待つ者たち

 ネバリエの試験場。

 そこに2機のガンドマイストがいた。


 両機共に訓練用の模擬剣を中断に構え、向かい合いる。


 通常色のガンドマイストからマーリの声が上がった。


「では、始めるが……準備はいいな?」


「はい!お願いします!」


 それに答えるようにオレンジの肩アーマーを持つガンドマイストからカズキの声が返される。


 彼の訓練が始まってから10日。


 あれから完璧とは言えないがガンドマイストの操縦に慣れたカズキはマーリの教えの元に戦闘訓練を始めていた。


 まだそれを始めて3日しか経っていないためかまだぎこちないところはある。

 だが、それでも彼女と直接剣を交えるぐらいの力はあるらしい。


「では、初手は譲ろう」


「はい!」


 声が上がると同時にカズキ機が軽く腰を落とし、地面を蹴る。

 ズドンという地面を踏みしめる音、ガシンと関節が動く音を響かせマーリ機に迫った。


 そして剣のリーチにそれを捉えると剣を突き出す。


 その剣先をマーリ機は剣の腹で捉えた。

 そのまま軽く左半身を後ろへとずらし捉えたカズキ機の剣を滑らせる。


 綺麗に受け流され、勢いそのままに通り過ぎたところで剣を地面に突き刺し急停止。


「ッ!?」


 一息つこうとしたがそこで気配を感じ、背後ををろくに確認せずに左横へと跳ぶ。


 カズキの咄嗟のその行動は結果的に功を奏した。


 機体がカズキの操作に従い、動いたその瞬間、カズキ機がいたところにマーリ機の剣が振り下ろされたのだ。

 狙っていた相手を失ったその一撃は空を切る。


(やっぱり重い!)


 ゴーレスの重さに悪態をつきながらも空中制動を行い、自機の正面にマーリ機を捉えたカズキ。


 着地の隙を作らないように寸前で剣で横薙ぎ。

 その攻撃は完全に見切られていたらしくスレスレでかわされるが、目的通りに安全に着地をすることはできた。


 しかし、剣を振るったその行動が逆に隙となった。


 剣を振り切った後であるためカズキ機のほぼガラ空きな胴体へと向けてマーリ機の剣が振り下ろされる。

 姿勢を直した直後で先ほどのように跳んでかわすこともできない。


 カズキの視界に剣が迫る。

 咄嗟にそれをしゃがみながら左半身を前へ、ギリギリでかわしたが左肩のアーマーからガリガリと削れる音と衝撃が操縦席に響く。


 それに気圧されたがすぐに我を取り戻したカズキはそのままショルダータックル、マーリ機が姿勢を崩した隙を逃さず、距離を取るように後退した。


 打ち合う前と同じ距離になると互いに剣を中段に構える。


 互いに一度深呼吸、そして再び剣を交えた。


◇◇◇


 ガキンッ!と重い音が辺りに響き、地響きが体を揺らす。

 崩れ落ちるほどの揺れはないがそれでも揺れを体感できる程度にはある。


 2人の機体の模擬戦をエレナ、エリサ、そして仕事をサボっているメリスは眺めていた。

 そんな中でメリスが呟く。


「たった3日でよくもまぁあそこまでやれるもんだ……」


 そこには驚きというよりも感嘆の色の方が強く現れている。

 彼には才能がある。気前もあり、技術もあり、覚悟もある。


 それらがある程度わかっていたからこそ、カズキを騎乗士として推薦した。


(だけど……まさか、あそこまでとは)


 彼の才能はメリスの予想を数段上回るものだった。


 いくらアファメントに乗って実戦を経験しているとはいえ、歩行も走行もあっという間に身につけ、戦闘も模擬戦を行えるレベルにまで到達している。

 通常ならそこまで到達するには2、3ヶ月はかかるものだ


 だが、カズキがそれに要した時間は10日程度。

 その異常とまで呼べる才能は、まるで“ゴーレスに乗るために存在している”かのようにメリスには思えた。


「カズキ……そんなにすごいんですか?」


「すごいなんてものじゃないよ。もう1ヶ月も訓練すればそこら辺の騎乗士よりも強くなる。確実にね」


「へぇ〜お兄ちゃんすごーい!」


 キラキラとした目で戦闘を見上げるエリサ。

 それに対してエレナはどこか不安げな面持ちだった。


「心配かい?彼が」


「……今更って言われるかもしれませんけど」


 苦笑いを浮かべながら言うエレナにメリスは首を横に振り否定する。


「そんなことは言わんさ。彼は命を賭けている。あの技術も結局は誰かから何かを奪う技術だ」


「誰かから、何かを……」


 どこか問うような語調だったがそれにメリスは答えるようなことはしなかった。

 新たに何かを問うこともしなかった。


「ああ、そうだ」


 ただそうやって肯定を表しただけ。

 そう、彼女たちはもうすでに知っている。


 この世界は全てのものが存在できる世界ではないことを。

 奪われるものもあれば得るものもある。


「君たちは彼を信じてやればいい。それが君たちにできることで、それが彼の一番の力となることさ」


 だから代わりにそう言い残してメリスはネバリエの格納庫へと戻っていった。


 エレナはその後ろ姿に声をかけることもできずに見送るしかできない。

 彼が戦場から生きて帰ってくることを信じる。


 そう決めたが前回の戦闘後のカズキの姿が脳裏をよぎった。


 あれからすでに3週間、彼の顔が曇ることはなかったがそれでも時々思い出される。

 彼にそうさせているのは間違い無く自分たちだ。


 あの月の浮かぶ夜に自分の言葉が、行動が表情が間違い無くカズキを縛り付けた。


 姉のそんな不安の色を感じ取ったのかエリサは彼女の服の袖を指で摘み、口を開く。


「大丈夫だよ。お兄ちゃんは必ず帰ってくるよ。約束、したから」


「うん……そう、だね」


 一度頷き、エリサへと向けた顔を再びカズキの駆るゴーレスへと向ける。

 そして、ポツリと呟いた。


「でも、待つだけのことがこんなに辛いなんて……」


 信じて待つことしかできない自分の力の無さがエレナには苦痛でしかなかった。


◇◇◇


 そして、カズキとマーリの模擬戦闘を見ているのはエレナたちだけではない。

 バースレン城塞に2つの人影があった。


 1つは男性でもう1つは女性。どちらもが目の前で繰り広げられている戦闘を興味深そうに見ている。


 男性の方が顎をさすりながら呟いた。


「なるほど……所長から聞いた時には冗談かと思ったが……」


 なるほど確かに才能がある技量もまだ足りず、ムラがあるがゴーレスに乗って数日ということを考慮すれば何も言うことはない。


 しかし、その男性とは裏腹に女性は渋い顔で告げる。


「ですが、彼は根無し草の旅人らしいではありませんか……それが騎乗士、ましてや栄えあるネバリエの騎乗士になるなど……」


 その言葉には男性に対しての遠慮のようなものはあるが節々からは「納得ができない」と訴えている。


「だが、この部隊は実力ある者を認める。それが所長の考えで、私もそれには同意見だ」


 男性は模擬戦闘から視線を外し、それを女性へ向けて続けた。


「君が、今の地位にいるのもそのおかげだ。もちろん、私もね」


「はい……わかっては、います」


 その答えが小さくその場に響いた。

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