訓練と調査と……
ガーンズリンド城塞、そこに併設されているネバリエには情報漏洩防止のために新型ゴーレスの試験用の広い土地が用意されている。
しかし、現在そこにあるのは新型ではなく、それどころか旧型機に分類される2機のガンドマイストだった。
1機は両肩のアーマーをテスト機や訓練機を示すオレンジ色にしており、もう1機は通常機で全身を深緑の色をしている。
両機ともに待機状態で胸部の搭乗席を開いていた。
オレンジ色のアーマーを持つガンドマイストの前にはカズキが疲労感たっぷりの顔で倒れ、それをマーリが見下ろしている。
「君には才能があるな。まさか3時間で歩くどころか走ってみせるとは……」
関心するようにマーリは呟いた。
ガンドマイストの歩行には10時間、走行にらそれからさらに20時間ほどの訓練を要するのが普通。
その理由としては自分の体と機体の体格差の違いになかなか慣れることが出来ないからだ。
その感覚の差から恐怖を抱いたり、逆に興奮してめちゃくちゃに動かす者が少なからずいる。
そして、歩行に慣れると走行になるのだが走行時の揺れと予想よりも動く、ということへの慣れも必要となる。
それらの感覚的なものをカズキは3時間ほどで得ていた。
そんなカズキだがマーリの賞賛に対する返事をする余裕はあまりない。
「ま、まぁ、アファメントに、乗って、ましたから……」
カズキの世界では巨大な人型ロボットなど空想上のもので実際にはない。
それでもすぐに操作の感覚を掴めたのはアファメントを動かしていたからだ。
それを見たマーリが心配そうにしゃがむ。
「辛そうだが、大丈夫か?」
「大丈夫って言いたいです、けど……きつい……ですね」
そう、自覚できるほどに体力も精神力も残っていない。
その理由はカズキには簡単に察しがつけられた。
アファメントは動きをイメージすればその通りに動く、つまり“自分の体を動かすのと同じ感覚”で動かせる。
だが、ガンドマイストは本当に操作をしている。
それ自体はかなり簡略化され、わかりやすいがそれのせいか操作の細かい差でも機体は予想より大きく動く。
加えて1つ1つの動作がアファメントと比べて重い。操縦席がそこそこ揺れる。ということもある。
息も絶え絶えにアファメントとガンドマイストの差を話したカズキへとタオルが差し出された。
差し出したのはエリサだ。その後ろにはエレナがいる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「エリサちゃん……ありがとう。まぁ、どうにか大丈夫」
カズキは上半身を起こすとエリサからタオルを礼を言いながら受け取って顔や首の汗を拭き取った。
その前でエレナはおずおずと口を開いた。
「あの、マーリさん。カズキさんはどうなんですか?」
「大丈夫だ。とりあえず才能はある。これからみっちり教えて使い物にするさ」
自然にさらっと言い切られたそれにカズキは驚いたような表情を浮かべ、言葉を漏らす。
「えっ……ま、まさかこれより厳しくなるんですか?」
「当然だ。ひとまず今日は終わるがまた明日もするからな。きちんと体を休めておけよ」
「はい……」
力少ないカズキの言葉は試験場に小さく響いた。
初日からこのザマだ。すでに気が重い。
これから自分はこのままやっていけるのか、自信などない。
しかし、才能があるというのなら出来るところまでやってみせる。
カズキは鼓舞するように自分の両頬を叩いた。
◇◇◇
マーリがカズキの操縦の才能を見つけたとき、ネバリエの格納庫にメリスはいた。
神妙な面持ちの彼女の目の前にはアファメントが鎮座している。
その周りには研究員達が装甲を触ったり軽く叩いてみたり、機材を使っていたりとそれぞれに割り振られた方法で調査を行なっていた。
「所長!ちょっと来てくださーい!」
アファメントの左脇下にいた女性の研究員がメリスを呼ぶ。
メリスはすぐに整備用の固定具を登り、呼ばれた場所に到着。
呼んだ女性はすぐ上、ちょうど腕と体を接続している部分を指差した。
「あれ、見て下さい」
言われて見上げた先にはアファメントの肩関節が映っている。
最初に調べた時に見たがやはり何か変わっているようなものは何もない。
特に大きく変わったものを見つけられなかったメリスはその女性に聞いた。
「ん?あれがなんだい?」
「私も少し前に気がついたんですけど、おかしくありませんか?“普通”なんですよ」
「別にそれはおかしくは……あ、いや、そうか」
関節部に何も真新しいものはない。ゴーレスとほとんど違いがない構造をしている。
だが、それはおかしい。
ゴーレスと構造上の違いがほとんどない。しかし、あれだけの機動力と出力を引き出せるとはどういうことだろうか。
むしろ見たことがないような、違う構造をしている部分の方が多いはずだ。
いや、たしかに違う構造、そもそも解析すらできない部分はある。
「体と頭部以外は現行技術……?」
「はい。むしろ少し古いレベルの技術ですよ。これ」
そんな会話をしていると男性がメリスに記録を取った紙を差し出してきた。
「詳しい装甲の材質がわかりました」
「おっ、どれどれ?」
そこには装甲に使われている材質とそれが使われている割合が書かれている。
それに目を通したメリスは小さく呟く。
「……ふむ。材質も特別目を引くものは、なし、か」
「はい。ですが……」
「うん。おかしいよね」
他の構造もゴーレスとの差異はあまりない。むしろ少し古いレベルの技術が使われている。
その上、装甲の材質も大きく変わっている点はない。
だが、その能力や強度は尋常ではなかった。
「何かしら裏があるっということですかね?」
「まぁ、でしょうね」
しかし、その裏がわからない。
四肢や体、頭部にあるマナティック・コンデンサは度々発光しているため全く使っていないわけではないだろうがほぼ飾り。
おそらくそれらはただの補助装置に過ぎない。
メリスはそう見定めていた。
(でも、補助装置をここまで取り付ける必要なんて……)
あればたしかに困らないだろう。
しかしそれにしては限度がある。
ここまでつけていれば大型になってしまい、重くなる。
そして大型化されればエネルギーの効率も悪くなる。
わざわざそんなデメリットをこの機体の製作者は無視するのだろうか。
たしかに各部は古い技術。しかしそれ自体は当時としては画期的なものだった。
一部は現在のゴーレスにも使われているようなものまである。
「ほんと、変な機体だよ」
メリスがそう呟いた時、格納庫へとガンドマイストが2機入ってきた。
前を歩くのはオレンジの肩アーマーの訓練機、その後ろに通常色の機体が歩いる。
「おや、彼らが帰ってきたみたいだね」
「のようですね」
「どうしましょうか。まだ調査を行いますか?」
機体が戻ってきたと言うことはそのメンテナンスで動く整備士たちと機材が動くだろう。
流石にそんな状態では調査もし難い。
「いや、今日はここで引き上げよう。資料は後で部屋に持ってきてくれ」
「わかりました」
「はい」
話していた2人の研究員が答えると他の研究員達へと指示を行う。
そしてメリスはそれぞれの機体から降りるであろう者たちの元へと向かった。
◇◇◇
私は誰だ。わからない。
私は何だ。わからない。
そんな自問自答ばかりが浮かぶ。
現存する26機のメンターズが1機、アファメント。それが己の名前だ。
機能はゆっくりとだが取り戻している。
現在は《リヴト》の機能の修復がほぼ完了し、次の戦闘ではおそらく使えるようになる。
彼がそれを使いこなせるかは不明だが、彼は思いの外危機に強いようなので大丈夫だろう。
機能はゆっくりと取り戻しつつあるがそれに反して、記録はほとんど戻ってきてはいない。
今はただ戦わなければならない。
アークを“ヤツ”に渡してはならないと言うことだけ。
アークとは何なのか、ヤツとは誰なのか、わからない。
しかし、そうしろと言う強迫観念に近い使命感が浮かんでくる。
(私は……何だ……?)
忘れてはならないことがあったはずだ。
忘れてはならない存在があったはずだ。
早く思い出さなければならないことがあったはずだ。
外で人間たちが自分を調べているようだが、正直なところ彼らが忘れている何かを掴んでくれるのを期待している。
今日の様子を感じる限りだとその望みも薄いようだが、それでも縋りたくなる。
(私は……誰なんだ……)
その問いに対する答えは、未だ浮かぶことはない。
己の存在が何なのか、それの答えを見つけられぬままアファメントはただ戦う。
ただ、戦うしかない。




