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騎乗士への道

 カズキたちが副都ハイリヒトに訪れ、バースレン城塞に滞在して2週間。


「え?俺が……騎乗士に?」


 朝食を終え、与えられた部屋でゆっくりしていた時、その部屋に入ってきたメリスが言ったことをカズキは反射的に聞き返していた。


 それを受けるとメリスは「んー」と少し唸り続ける。


「より正確には、私たちネバリエ所属の騎乗士だね。王国所属の騎乗士とはすこーし扱いが変わるかなぁ」


「それは、王国の決定、ですか……?」


 エレナの問いかけにメリスははっきりと頷いた。

 メリスの話によればアファメントの処遇は全てネバリエに託されたらしい。


「あの分からず屋どもにわからせるのに苦労したよ」


 という風なことを言ったあたり無理やりもぎ取った。と言った方が正しいかもしれない。


 ともかくとして、アファメントの管理がネバリエに託された故にその搭乗者であるリンカー、カズキも同じくネバリエ所属となった。


 その際、アファメントのパーツ、としての管理も提案されたらしいがカズキ自身の戦闘技術向上が国防に繋がる。ということを言ったらしく、晴れてカズキはネバリエ所属の騎乗士となった。


「……もしかして、メリスさんがいなかったのって」


 メリスは約10日間ほど彼らの前に姿を現さなかった。

 彼女には重要な仕事がある。それが忙しいのだろうと思っていたが––––


「ん?そうだよ。直談判。分からせるには手紙よりも直接話す方が手っ取り早いからね」


 一連の話、その衝撃に呆然としていたカズキへとエリサ、エレナの視線が注がれる。


「お兄ちゃんが……騎乗士?」


「カズキが……騎乗士?」


 その目は心配しているような色を浮かべていているがそれは悲観的なものではない。

 むしろ言うなれば「いつも問題を起こしている者がまた問題を起こすのでは?」という感じだろう。


 そして、それは向けられるカズキが一番良く分かっている。


「……なんだ。なんだその目は……」


「だって、カズキってどこか抜けてるし」


「なんか……お兄ちゃんって鈍臭いところあるし」


「その言い方酷くない!?」


 そのまま口論が始まった3人に今度はメリスが驚かされたのか瞬きを繰り返すと咳払いをして3人に聞く。


「あの、心配じゃないのか?扱いは確かに違うが彼は兵士になるってことだよ?もしかしたら、何かしらの作戦に参加するかもしれないよ?」


「だって、カズキは必ず戻ってくるって言ったから」


「お兄ちゃんならなんだかんだで戻ってくるから大丈夫」


 当たり前のように答える2人からカズキへと視線を変える。


「君は……いいのかい?」


「はい。何があっても絶対に死ぬつもりはないですし」


 それに根無し草であるカズキ自身も身分を得られる。

 しかも一般の国民ではなく、騎乗士という身分だ。


 そもそもの話として彼に拒否権はないがもしそれがあったとしても断る理由はない。


 そう、殺す理由を持ってしまったカズキには断る理由はない。


「まぁ、いいならいいんだよ。マーリが詳しく説明しにくるはずだから後は彼女に聞いておくれ」


 そう言い残すとメリスは部屋から出ていった。


 彼女は通路に出るとその扉を背にふぅと小さく息を吐く。


「……なるほど、君はそうやって自分を奮い立たせるか」


 カズキのあの言葉にはどこか含みがあった。彼がわざと言わなかったこと、それはエレナとエリサがいた故だろう。


「例え、誰かを殺すことになっても死ぬつもりはない……」


 彼は誰かを殺す覚悟を決めた。

 意志があるのならば技術を積めば彼は最後まで生き残ることができるだろう。


 だが、それは生半可な覚悟ではない。

 それは意志を持って殺すということだ。

 殺すことに慣れるのではない。快楽を覚えるのでもない。


 自分の意志で、その手で殺す。

 ただ、自分のために、自分が守りたいと思ったもの守るために。


(その覚悟、途中で折れないことを祈っているよ)


 メリスはゆっくりと自分の仕事場であるネバリエへと向かった。


◇◇◇


 メリスが部屋から出て10分後。マーリが部屋に訪れ、説明を始めた。


 カズキが所属することになるのはガルドリシア王国の認可を受け、ゴーレスを開発している【ネバリエ】。


 立ち上げたのはメリスの曽祖父、まだその頃は独立しておらずバースレン城塞の一部を間借りしているような状況だった。

 しかし、それは開発者たちの「設備が使いにくい」などの不満の声の原因となっていた。


 そのため、ガンドマイストⅡ開発開始を機にバースレン城塞の一部を接収、加えて新たに敷地を広げ、そこを拠点とするネバリエの本拠地が作られた。


 ネバリエの目的はゴーレス本体、武装の開発。


 基本的にそこに所属する騎乗士は試作されたゴーレスのテストパイロットである。


「……それって、かなりすごいんじゃ……」


「当然だ。試製ゴーレスに乗る、ということは騎乗士たちにとっては目標の一つだからな。各人の練度もかなり高い」


「俺が……そんなところの一員に」


 カズキは緊張で生唾を飲むがマーリは安心させるように微笑んだ。


「そうあまり肩肘を張らなくても良い。君が所属する組織について説明しただけだ。実際に君がゴーレスに乗れるかどうかはこれからの訓練次第さ」


「どういうことですか?」


 マーリはそのカズキの質問に答えるように説明を続ける。


 ネバリエに所属する騎乗士は12人だった。

 だった、というのもシチナ村を最初に訪れたマーリを含めた3人がネバリエ所属の騎乗士なのだ。

 マーリ以外はラブザメントとの戦闘で死亡しているため現在10人。人員があと2人足りない。


 カズキはちょうどその足りない部分に当てられる。

 ゴーレスに乗るかはまだ未定だがアファメントに乗ることは決まっているため戦力してそこに含まれているのだ。


 しかし、アファメントとゴーレスの性能差は圧倒的で連携が取りにくい。


 機体の性能を知るには乗るのが早い。という結論に至ったらしく、カズキはしばらくゴーレスの操縦訓練を行うことになる。


 その訓練の成果が良ければ騎乗士の補充数を少なくでき、もし芳しくないようであればカズキはゴーレスではなくアファメントのみに乗る。ということらしい。


「まぁ、乗れれば以後君にはそれ相応の報酬と身分を、乗れなければ今までと同じような扱いを受けると考えてくれ」


「えっと……それってつまり、カズキを試すっということですか?」


「ああ、そうだ」


「乗れますかね?俺が……」


 不安そうに俯き声を漏らすカズキ。

 その不安を和らげるためだろう。その肩にマーリの手が優しく置かれた。


 それに礼を言おうと彼女の顔を見た瞬間、息を飲んだ。


「安心しろ……乗れるようにするさ。私が、な……ふふっ」


 顔は笑っている。

 笑ってはいるがその目は笑っていない。


 カズキはこれから自分が体験するであろうことにすでに恐怖を覚えていた。

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