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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
終わりと始まり
3/35

日常との出会い

 それから歩いて15分。

 エレナの家は木造の二階建ての家だった。大きさ的には一騎の世界にある一般的な住宅と比べ少しこじんまりとしている。


 一騎は左手に学校のバッグ、右手にエレナのバスケットを持ちそれを見上げるとすぐに視線を戻し周りに巡らせた。


 この辺が住宅街らしく似たような建物が並んでいる。


「どうかしました?」


「え?ああ、いや。なんでもない」


 適度な人通りがある町並みを見る。

 どこか田舎のような雰囲気も受けるが家や人は多い。

 全員が白人でファンタジーの村人らしい服装をしていた。時々浮いた服装をしている一騎を白い目で見ては通り過ぎていく。


「ただいま〜」


 家に入っていくエレナに続き一騎もその家に入る。


「お、お邪魔しま、す?」


 家の中も洋風の一般住宅だった。フローリングに似た廊下が伸び、先には階段があった。


「あ、こっち。付いて来て」


「は、はい……」


 エレナについて行きリビングに入る。


 長机と椅子、その先には流し台がありそこに1人の女性が立っていた。その女性が振り向きながら言う。


「お帰りなさい。エレナ。遅かっ……あら?あらあら??」


 視界に入った一騎を見て女性はどこか嬉しそうな表情を浮かべて近づく。頭のてっぺんからつま先までを物珍しそうに見回した。


「ん〜?」


「あ、あの……」


 あまりされないことをされたじろぐ一騎に構わず女性は注視し続け、満足したのか一騎から離れてエレナを引っ張り出した。

 すこし離れると小声で女性は聞く。


「ねぇねぇ。あの子何?彼氏?」


「な、そ、そんなんじゃない!違う。違うから!」


 顔を真っ赤にさせて反論するエレナに女性は驚きの表情を浮かべる。


「あら?本当に違うのね。あ、違うわね。まだ、そう言う関係じゃないってこと?」


「……っ!っ!もう!!」


 エレナは頬を膨らませると女性から顔をそらした。それをどこか嬉しそうに見るとカズキの方を向くと女性は軽く頭を下げた。


「こんにちは。私はファリス。この子の母親です。貴方は?」


「あ、えっと、し……一騎、です」


 苗字を名乗ろうとしたがまた「苗字とは?」と質問をされても答えられないので名前のみを名乗る。


「カズキ、さんね。あ、そこに座って。今お茶を出すから」


「あ、はい。すいません」


 一騎はファリスに勧められた椅子に腰掛ける。その時だった。


「あ!カズキさん」


 後ろから声をかけてきたのはエリサだった。エリサは走り寄るといつもその椅子に座っているのか慣れたように椅子に座った。


「カズキさん。どうしたの?」


「え、えーっと……」


 再びなんと答えればいいのかわからず一騎は口ごもる。しかしそんな時に助け舟を出したのはエレナだ。


「私が呼んだの。ほら、この辺って休憩する場所ないじゃない?」


「あー、なるほどね〜」


 どこか怪しむような目を向けるエリサ。だがエレナは気にせず一騎の隣に座る。


「それにしてもカズキさんはどこからここへ?住んでいる私が言うのも変だけれどここよりも副都に行ったほうが色々あるわよ?」


 言いながらファリスは一騎の前に紅茶とクッキーのようなものを出した。


「……」


 やはり向けられたその質問に一騎は答えられずに出された紅茶を見つめる。

 変わったその様子にファリスは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ご、ごめんなさい。何か事情があるみたいね」


 自分が今まで無言だったことを思い出した一騎は慌てて首を横に振り否定する。


「い、いえ!そんな、ことは……」


 本当にファリスは悪くない。ただ自分がうまく説明できないからだ。自責の念に駆られる中、ファリスは両手を軽く叩き笑顔を浮かべた。


「んー。お詫び、と言ってはなんだけど今夜泊まっていかないかしら?」


「「「え?」」」


 一騎、エレナ、エリサは同時に声を上げたが気にせずファリスは続けて言う。


「いいじゃない。悪い人には見えもの。ね?」


 一騎としてはありがたい話だ。

 どうしてこうなっているのかはわからないが一先ず雨風をしのげる場所に居られる。安心して眠ることもできるのだ。


 しかしそれは一騎の都合。提案したファリスはともかくエレナとエリサがどう言うかはわからない。

 そう思い一騎は2人の方を向く。


 2人はしばらく考え込むように唸っていたがふと顔を合わせると互いに頷いた。


「うん。いいよ。困ってそうだし」


「私も!」


 2人の答えにファリスは表情を緩め一騎を見る。


「と、言うことだけど?」


 申し訳なさもある。

 だが今は彼女たちの提案に乗るべきだ。むしろここで断った方が失礼にあたるだろう。


「……ありがとうございます。お世話になります」


◇◇◇


 一騎がエレナたちの家に泊まることが決まってから数時間後、一騎は窓の外の景色を眺めていた。

 すでに日は落ち始め、辺りは夕方の景色へと変わっている。


(……もう直ぐ夜、か)


 ボーッとしながら景色を眺める。そうしながらも思考は進む。


(そういや、こんなゆっくりしてるのってどれぐらいぶりだ?)


 元の世界ではいつも何かに追われていた。勉強だったり家事だったり。部活に入っていなかったので多少の余裕はあったが微々たる差だ。


 ふと視線を自分の手に移す。

 家事をしてはいるが比較的綺麗な手をしていると思う。

 あまり男らしい手ではないとは自覚しているがかと言ってどうこうすることもない。そもそも気にする余裕などなかった。


「今戻ったぞ〜」


 そんな時だった。男性らしい声が玄関の方から聞こえてきた。


 なんだ?と思い一騎は顔を上げリビングの入り口の方を向く。


「ファリス。水をく……ん?」


 そうするとちょうど入ってきた男性と目があった。


 がっしりとした体格の良い男性だ。身長自体は一騎と大きくは変わらないが少し大きい。

 顔も彫りが深く男らしい面構えと言える。しかし目はどことなくエレナやエリサと通ずるところがあった。


「……君は?」


「あ、えっと……」


「カズキさんよ。今日泊まるところが無いらしくって、泊めることにしたのよ」


 言いながらファリスは会話に入り、その男性に水を差し出す。

 男性はそれを一気に飲み干すと息を吐き一騎に手を差し出した。


「俺はガエリス。まぁ、ゆっくりして行ってくれ」


「え、あ、カズキ、です。ありがとうございます」


 一騎はその手を握り返した。

 そんな光景を見てファリスは予想外だったのか驚いたような表情を浮かべながら言う。


「あら?いいの?」


 ガエリスは飲み干したコップを机に置きながら椅子に座る。


「いいもなにもすでに君が決めたことだ。君は強情だからな」


「あら?それはあなたもでしょ?」


 言葉を交わすと一緒に笑い出した。

 その声に誘われたらしく自室にいたはずのエレナとエリサがリビングにきた。


「あ、お父さん。おかえりなさい」


「おかえり〜」


「ああ、ただいま。2人とも」


 リビングに入ってきた2人に近づき頭を軽く撫でるガエリス。嬉しそうに目を細める2人を一騎はボーッと見ていた。


(……お父さん、か)


 一騎の両親は共働きだ。

 中学の頃まではどちらかが必ず家に居たが高校に上がるとそんなことはなくなった。

 父親は仕事の関係上転勤が多く、母親は夜勤専従。どちらともここ最近まともに話した記憶がない。


(なんか、羨ましいな)


「なぁ、ファリス。今日の晩飯は?」


「そう急かさないの。今日は羊肉のシチューよ。ベッチさんからいいもの貰ったから」


「ほほぅ、それは楽しみだ」


 言いながらガエリスは再び元の椅子に座った。そこで一騎がボーッとしていることに気がついた。


「ん?どうかしたか?」


「……あ、いえ。なんか、羨ましいなって」


 一騎は僅かに反応に遅れながらもそう返した。


「羨ましい?」


「何がですか?」


 エリサ、エレナが順に言いながらそれぞれの椅子に座る。


「普通に家族がみんな揃うことが……」


 一騎はそれから堰を切ったように話を続ける。


「自分の家は両親は共働きで、家にいることの方が珍しくって。でも、俺はその両親に食わせて貰ってるわけでなんとも言えなくて……って」


 そこでふと我に帰り辺りを見回すとガエリス、エレナ、エリサが一騎に視線を集中させていた。

 それに気がつくと急に恥ずかしくなり一騎は顔を赤らめ苦笑いを浮かべる。


「は、ははっ、何言ってんですかね?俺」


「寂しかった、んですか?」


 そのエレナの言葉にすぐさま「違う」と答えようとしたがそれはすぐに奥に押し込んだ。

 そうしたせいで言葉は表に出ることはなかったが代わりに一度小さく頷いた。


 全員が言葉なく沈黙が場を支配している中、ガエリスはゆっくりと手を伸ばし一騎の頭に手を置いた。


「ん?急に、な!?」


 次の瞬間、荒々しく一騎の頭を撫で始める。


「ちょ、やめてくだ––––」


「まぁまぁ、いいじゃないか」


 そのまま為すがままで撫でられていた一騎だが不思議と悪い感覚は覚えなかった。むしろなぜか少しホッとしていた。


「こーら。あまりカズキさんをいじめたらダメですよ?」


 木のお盆の上にシチューを乗せてファリスが現れた。


「あ!お母さん!言ってくれたら取りに行ったのに!」


 エレナは言うと立ち上がり台所へと向かう。その後を追うようにエリサも立ち上がり向かった。


「はい。どうぞ」


 ファリスは言いながらシチューと木製のスプーンを一騎の前に差し出す。

 一騎はガエリスとファリスの方を見た。

 2人は何も言わず微笑みを浮かべ一騎にシチューを勧めている。


 一騎はシチューを掬い、口に運んだ。


「ん!!」


 その瞬間、目を見開き飲み込むと一言漏らす。


「……美味しい」


 それはまさしく家庭の味と言っていいほどの優しい味だった。


 そのほのぼのとしたゆったりとした時間は突如として訪れた大きな揺れと音により終わりを迎えることになる。

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