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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
少年の覚悟
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人間の限界

 肩にオクロメントを担いだアファメントがバースレン城塞へと戻ってきた。

 アファメントは姿をドルウィンからベーシトへと戻している。

 それを出迎えるのは3機のガンドマイストⅡとエレナ、エリサ、マーリ、メリスだ。


 アファメントはゆっくりとオクロメントを降ろした。それを待機していた3機が持ち上げ、ネバリエの格納庫へと運んでいく。


 それと同じタイミングでアファメントはカズキを地面へと転送した。


 地面に降り、よろけるカズキにエレナとエリサが真っ先に駆け寄る。


「カズキさん!」


「お兄ちゃん!」


 2人の呼びかけにカズキはどこか心ここに在らずという様子で「ああ」とだけ答えた。


「カズキ。よくやってくれた」


「そうだよ。本当に。んで、アファメントはどうやって姿を変えたんだい?強く光ったのはわかったけど……」


 マーリが労いの言葉をかけ、メリスの質問が飛ぶかそれにもカズキはほぼ無反応だった。


「どうしたの?カズキさん。服が汚れてるけど、もしかしてどこか怪我でも……」


 エレナがカズキの肩に手を置こうとしたが彼自身がその手を振り払った。

 それは力がこもっておらず優しい力でだったがこのような反応をしたことは今までない。


 いや、これと同じような状態になった時はあった。

 それはシチナ村で村人やガエリスとファリスを自分が殺したことがわかった時だ。


「ごめん。少し、1人にさせてくれ」


「あ、うん……わかった」


 力なく言うカズキにエレナはそう言いエリサは静かに頷く。


「……とりあえず、テリエに入ってきな。そこで着替えも用意しよう」


「はい。お願い、します」


 メリスの提案にカズキは心ここに在らず、と言った様子でほとんど言葉を聞いていないようだったが答えた。


「案内しよう。こっちだ」


 そう言い先を歩き出したメリスの後に続きカズキも歩き出す。

 エレナとエリサはその背中になんと言葉をかければいいのか分からず、立ち尽くすしかなかった。


「大丈夫だ。彼は強い。君たちが信じてやらなくてどうする」


「はい……」


「うん……」


◇◇◇


 その景色を見てカズキは言葉を漏らす。


「ここ、は……」


「ん?テリエだよ。初めて見たかい?」


 現在彼らがいるのはその脱衣所のようなこじんまりとした部屋だ。その奥の扉にはテリエ、と呼ばれた大浴場があった。


「ほら、さっさと脱いで入りな」


「えっ?で、でも」


「でも、じゃない。速くしないと私が脱がすよ?ほら、バンザーイ」


 言いながらカズキの服を脱がしにかかるメリス。


「わ、わかりました!わかりましたからやめてください!!」


 カズキはメリスから離れると後ろを向いて服を脱ぎ始めた。


 全裸になるとチラッと後ろを見てメリスが見ていないことを確認すると奥に進んだ。

 そのまま大きな浴槽に進んでその中に手を突っ込みお湯加減を確認する。


「…………あったかい」


 カズキは壁の近くにあった木製の桶で身体を洗い流すとゆっくりと湯船に浸かった。


 瞬間、反射的に深く大きな息が吐かれるとポツリと言葉が漏れる。


「風呂に入るのなんて……どれくらいぶりだろ」


 この世界に来てもう2週間が過ぎた。

 その間に風呂に入ったことはない。そもそもそんな場所にゆっくりと行けるほどの余裕はなかった。

 基本的にタオルで拭くぐらいでハイリヒトに行く間にあった川で水浴びをしたのがせいぜいで暖かい湯には浸かっていない。


 では、元の世界では?

 そこでは基本的に1人だったためシャワーで済ませることが圧倒的に多かった。


 覚えている範囲ではゆっくり入った記憶がない。


 全身が暖められる感覚に身を委ね、手足が弛緩されていく感覚を覚えながらそれらを伸ばす。

 ふと伸ばされた自分の手を見て、握ったり開いたりを繰り返す。


 頭に浮かぶのは今まで倒したメンターズの最後。

 ラブザメントは胸部に雷よ、闇を穿てライトニング・ストライクを打ち込んで倒した。

 ファスィメントは胸部をアルファードで切り裂いた。

 そして、オクロメントは胸部を搭乗者(リンカー)ごとアファメント/ドルウィンのドゥルガーで放つ風よ、吹き荒らせ(フロスト・バースト)で潰して裂いた。


 その全てに人が乗っていた。

 しかし、よくよく考えてしまえば当然のことでアファメントはメンターズに属する機体。そして、襲ってきたその3機もメンターズ。


 アファメントには自分が乗っている。ならば同じ種類であるその3機にも人が乗っているのは当たり前のこと。


 エレナとエリサの涙を見て、村の人たちの涙を見てもうそんな人の顔は見たくないと思った。

 もう誰にも死んでほしくないと思った。


 だが、自分は殺していた。偶然殺してしまったのではない。

 たしかに自分の意思で、自分の手で殺したのだ。


(……俺が、やっていることは、正しい、のか?)


 自分の全てを守ると決めた。自分の全てを賭けると誓った。

 しかし、そこに他人の命を賭けることなど、たった1人のわがままのために誰かの命を奪うことがあっていいはずがない。


(あっていいわけが……ない!)


 カズキが拳を握りしめたところで左後ろから声がした。


「あ、ちょいと隣失礼するよ」


「あ、はい……」


 何の気なしに声がした方を向くとそこにはメリスがさもそれが当然かのように全裸の状態でいた。


「って!何してるんですか!!」


「ん?何って服着たままテリエに入るやつなんているわけないだろ?それに、いいじゃないか。見て減るもんでもあるまいし」


 カズキからしてみればずれたことを言うメリスはそのまま彼の隣で湯船に浸かり、手足を伸ばすと気持ちよさそうに息を吐いた。


「そ、そう言うわけじゃ……」


「それとも、カズキ君は女性の裸を見れば見境なく盛るのかい?」


「そんなこと、ありませんけど……」


「なら良いじゃないか。私も入りたかったしね。それに、ここなら誰かに聞かれることもないし」


 その言葉にカズキは目を見開いた。

 その反応を知ってか知らずか、メリスは続けて問いかける。


「君さ。覚悟、まだ決められてないだろ?」


「……そんなこと、ありません」


 カズキはうつむき、水面に映る自分の顔を見ながら続けた。


「俺は、決めてます。自分の全てを使って守るって……あいつらが笑顔を、浮かべられるなら、なんでもするって」


 そう言ったカズキに対しメリスは苦笑いを浮かべて首を横に振る。


「あー、カズキ君はさ。たしかに覚悟はある。だが、それは自分を切り捨てる覚悟だ。でも、本当に必要なのは他人を切り捨てる覚悟なんだよ」


「他人を、切り捨てる……」


「そうだ。君はなぜ戦う?なぜアファメントに乗っているんだい?あの2人のためだろ?」


 当然だ。とカズキはすぐに頷く。

 そのためだけに自分はアファメントに乗っている。

 そのためだけに自分は戦場に立っているのだ。


 そのことはメリスももう知っているはずなのになぜ?と疑問に思う前に彼女は続ける。


「極論を言うと君はそれ以外の人は綺麗さっぱり切り捨てるべきなんだよ。例えそれが私やマーリであっても、ね」


「な!?そんなこと、出来るわけが!」


 そんなことできるわけがない。

 彼女たちには世話になっている。本来なら牢に繋ぐなりもできたはずだ。

 だが、今自分は自由に動けている。


 たしかに人質としてエレナとエリサがいるがそれでも扱いは破格的に良い。


「なら、君は全ての人を笑顔にするとでも言うのかい?全ての人を守る、と?笑わせないでほしいね。はっきりと言うけどそんなことは出来ない」


 メリスは冷たく言い放つ。それにカズキは「当然だ」と頭によぎったため何も言い返せない。


 守ると言うことは守らないものもあるということ。

 守ると決めたものを大事にし続けながらそれ以外のものは切り捨てる。

 これはもう無理だと最初から諦めておく。


 下手にそれにまで手を伸ばせば自分だけではなく、本当に守ろうとした存在までもが失われてしまう。


「人間の力など全てを守れるほど大きくない」


 それが彼女の言い分だった。


「……それじゃあ、他のメンターズの搭乗者(リンカー)をこれからも殺し続けろってことですか?」


「ああ、そうだ」


 きっぱりとメリスは言い放った。

 それは突き放すような冷たも感じるような声音と雰囲気だった。


「そんなこと!!」


「敵の目的はわからない。だが、攻撃を仕掛けてきているのはたしかだ。それを退けなければ、君は死ぬし、もしかしたら彼女たちも死ぬ。そんなことは君が1番わかっているだろ?」


 メリスは言うと湯船から上がり、脱衣所に向かいながらカズキに言葉を投げる。


「私が言いたかったのはそれだけ。自分が本当に守りたいものはなんなのか、それをするために切り捨てるものはなんなのか……きちんと考えておきなさい」


 そのままメリスは大浴場から出て行った。


「切り捨てる……もの」


 守りたいものはすでに決まりきっている。

 では、切り捨てるモノとは?

 決まっている。それは襲ってくるメンターズ、そのリンカーだ。


 カズキの脳裏にドゥルガーで潰す直前のオクロメントのリンカーの顔が浮かぶ。


 彼女は最後まで強い憎悪を向けていた。もしかしたら、2機のメンターズのリンカーと何かしらの関係があったのかもしれない。

 それは家族だったのかもしれないし恋人だったのかもしれない。


 たしかなことは自分はその命を奪ったということだ。


 守るために他者から奪う。


 それをまだ続けなければならない。また、誰かを殺さなければならない。


 カズキにはそのことが異質で、異常で、恐ろしく思えた。

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