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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
少年の覚悟
28/35

速度

 メリスたちはバースレン城塞のテラスに来ていた。城壁の向こうには丘陵が広がっており、アファメントとオクロメントが戦闘を繰り広げている。


「これは……まずいかな」


 彼女たちの目の前ではたしかに戦闘が繰り広げられているが状況はアファメントが圧倒的に不利だ。

 アファメントはオクロメントに馬乗りされ一方的に殴られ続けている。


「カズキさんっ!!」


「お兄ちゃん……!」


 エレナとエリサは声を上げるが当然それはカズキに聞こえるわけがない。2人はただ固唾を飲んで見守ることぐらいしかできないのだ。


(お願い……神様ッ!カズキさんを……守って)


 彼女たちにできることなどそうやって祈るぐらいしかないのだ。


◇◇◇


『胸部、ならびに頭部装甲に被害蓄積中。このままでは殴り潰されます』


 搭乗席が揺らされる中、その文字が視界の端に浮かび、警報音が鳴り響く。


「くそ!どけぇええええ!!!」


 向けられる憎悪、自分の中にある恐怖を吹き飛ばすようにカズキは叫んだ。


 オクロメントの右腕の杭がアファメントの胸部を打つ。一瞬止まったその腕を掴むと胸部を思いっきり殴った。


 わずかに崩れた姿勢と隙を見つけたところでさらに殴り飛ばすと、スラスターを全開で吹かすことで馬乗りから逃れた。


 振り落とされたオクロメントが立ち上がる前にアファメントは姿勢を立て直すことに成功。

 アルファードを展開してオクロメントに接近する。


 狙いは胸部。

 そこへと突き刺そうとアルファードの切っ先を向けるがすぐに横に転がられ、かわされた。


 うつ伏せになったオクロメントは両腕を地面に着けるとパイルバンカーを放ち、その勢いで立ち上がり、さらに両足のそれも放ち高く跳躍、空中で1回転しながら距離を取ると同時に体勢を整える。


 戦況は振り出しに戻った。だがカズキの表情に余裕はない。


 前回戦ったファスィメントよりもさらに速く、しかも三次元的な動きで翻弄しながら攻撃するオクロメントにアファメントがほとんど対応できていない。

 それに加えて気迫でも負けている。


「だからって––––」


 カズキはちらりと後ろへと視線を移す。

 そこには副都があり、そこには守ると決めたものたちがいる。

 自分が“自分の全て”を使って守ると決めた存在がある。


「––––俺は、下がれねぇんだよ!!」


 カズキがフットペダルを踏み、前へと飛び出したその時だった。

 

『トランスシステム復元が完了しました』


 その文が視界に浮かぶと同時に大量の情報が頭の中に流れ込んだ。

 その量に一瞬、目が眩む。


 そのせいでアル・ファードは収納され、さらに急に止まったスラスターにバランスを崩したアファメントはつんのめりながら四つん這いになった。


 オクロメントはカズキが今どのよう状況かなど知らない。

 しかし、アファメントの動きが長い間止まっており、隙だらけなのは事実。

 そしてその隙を逃すほどオクロメントは腑抜けではない。


 オクロメントはクラウチングスタートのような姿勢を取ると足のパイルバンカーを放ち、アファメントへと急加速すると右腕の杭の先端を向ける。


「ッッ!!」


 とっさに横に転がり、その杭の先端から逃れた。

 オクロメントは左腕のパイルバンカーを地面へと放ち、止まろうとするが勢いがかなり乗っていたせいですぐに止まることができずに地面をえぐりながら止まった。


 幸運なことに2機の間には距離が開いている。


『使うのなら、今です。リンカー』


「ああ、わかっている。トランス!」


 カズキのその言葉に反応し、アファメントの各部位にある黄色のマナティックコンデンサが強く光を放つ。


 そしてアファメントを中心にした東西南北に形の違う黒い影が現れた。


「セット、ドルウィン!!」


 4つの幻影のうちアファメントの西側にあった幻影がアファメントに重なり、強い光が放たれて残っていた影が全て消える。


 その強い光が晴れるとそこには姿を完全に変えたアファメントがあった。


 ベーシトの頃と比べ、細身のシルエット。しかし、上半身はどこか野暮ったくなっているのが特徴だろう。


 細く長く伸びた足のふくらはぎには背中にあるものと同じようなスラスターが装備されている。

 さらに頭部は造形が変わり、どこか虎を思わせるものになっていた。


 また、ベーシトの頃はほぼ全身にあったマナテックコンデンサは脚部や背面に集中し、その発光色は黄色から白へと変えている。


「さぁ、行くぞ。アファメント!」


 そう叫ぶカズキの目の色は黄色から灰色へとかわっていた。

 そして、その声に反応するようにアファメント/ドルウィンはリアスカートアーマーにあった棒のような物を取り出すと両はしを連結させ、1本にした。

 1本になった棒【ドゥルガー】は両端から伸び、アファメントと同程度のサイズの杖となった。


 感触を確かめるようにそれを振り回すとオクロメントへと向けて構える。


◇◇◇


 そして、その変化はバースレン城塞にいた彼女たちにもわかった。


「姿が……かわった?」


 メリスの口から反射的に言葉が出る。

 アファメントから何か影が出たかと思うと光だし、その光が消えると姿を変えていた。


 言葉として言う分には簡単だがあまりにも突拍子がなさすぎる現実にそう呟くのが彼女の精一杯だった。


 エレナ、エリサだけではなくマーリまでもがその光景に言葉を無くし、黙ってその戦場を見ている。


(アファメント。いや、それだけじゃない。メンターズ……あんなもの。いったい誰が……)


 メリスもまたその疑問に思考を支配され言葉をなくしていた。


◇◇◇


 カズキはベーシトの頃と同じ調子でフットペダルを踏んだ。


 その操作に従い、アファメント/ドルウィンの背部とふくらはぎにあるスラスターが展開、足裏のマナテックコンデンサが一瞬光ったかと思うと急加速した。


「ちょっ!!」


 このドルウィンという形態の移動速度が速いことはカズキ自身も頭の中に書き込まれた情報で理解はしている。

 だが、実際に動き出した時の体感はそれを大幅に上回っているように感じたのだ。


 それ故に唯一の武装であるドゥルガーを振るう暇もなく、一直線にオクロメントへとただ真っ直ぐに向かった。


 その速度に驚いたのはカズキだけではないようで一瞬、反応が遅れたオクロメントの肩アーマーをたまたま構えていたドゥルガー当たる。

 しかし、ただ当たっただけでもかなりの速度があった。


 肩を殴り飛ばされたように姿勢を崩したオクロメントはどうにか倒れずに済ませ、通り過ぎたそれの方へと頭部を向ける。


 一方のアファメントは途中でかかととドゥルガーを地面に突き刺しブレーキ。

 地面を抉りながら方向転換して正面にオクロメントを捉える。


「な、なんだよ……今の」


『一気に踏み込むからですよ。ですが、速度の感覚はわかりましたね?』


「ああ、おかげさまで!」


 アファメントのかかとが再び発光、その後急加速し、オクロメントへとドゥルガーを振るう。

 加速する寸前にオクロメントは四肢を地面につけてその全てのパイルバンカーを使い、高く跳ぶことでかわした。


「逃すかぁ!!」


 アファメントが地面を蹴り、スラスターを使い、高く跳んだ。

 確かにベーシトの頃より高いがそれでもオクロメントにはあと少し届かない。


 しかし、アファメントは足裏にマジックキャンセラーを展開、それを地面のように踏み込むと再び跳躍、オクロメントへとドゥルガーを振り下ろした。


 流石にその攻撃は予測できなかったのかオクロメントは空中にいると言うこともありまともに回避せずにそれを左腕で受け止める。


「こんのぉぉぉおッ!!」


 アファメントは再び空中で跳躍、重力に引かれるオクロメントの上を取るとその頭部に強烈なかかと落としを決めた。


 残っていた右腕でその攻撃を受け止めたが衝撃を殺しきれずにオクロメントは地面に叩きつけられる。


 アファメントはそれから少し遅れてスラスターを着地寸前に噴射することで安全に地面に降りる。

 その頃にはオクロメントはすでに立ち上がり右腕のパイルバンカーを構えていた。


 オクロメントが立つ地面が爆発、その勢いに乗り、真っ直ぐに跳んできた。

 アファメントは危なげなくその攻撃をひらりとかわし、隙だらけの背中にローキックを入れる。


 最初の勢いとその蹴りで吹っ飛んだオクロメント。

 だが、そのまま受け身を取るとすぐに立ち上がり、正面にアファメントを捉えて急加速。


 アファメントもそれに答えるように急前進。

 2機が交差した瞬間、それぞれ攻撃を繰り出す。


 オクロメントの左腕の杭が向けられるがそれをドゥルガーの右端で上へと叩き上げ、隙だらけの腹部を左端で殴る。


 よろけながらも右腕から放たれる杭。

 ベーシトの頃は見えなかったがドルウィンとなった今なら見える。


 アファメントは左肩を落とし、ドゥルガーを放たれた杭の下にピタリと付けるとそれに沿うようにそのまま横に振った。


 それはオクロメントの右腕、より正確には杭を放っていた装置に命中。

 そのせいでひしゃげ、使えなくなってしまっていることなど見ればわかる。


 オクロメントは両足のパイルバンカーを放ち、距離を取りながら壊れてしまったその装置を外して投げる。


 飛んできたそれをドゥルガーで弾き飛ばし、その先端で突いて薙ぐ。

 それは胸部に命中、そこの装甲へとヒビを入れ、吹き飛ばされるオクロメント。


 四肢で地面を捉えて止まり、立ち上がろうとするそれへとスラスターを全開で吹かし、急接近してドゥルガーを振り下ろす。

 地面に叩きつけられたオクロメントへとさらに追撃の一撃を振るおうとその先端を向け、降ろす。


 だが、オクロメントは転がり、それを回避。

 ターゲットを失ったドゥルガーは地面に突き刺さるだけだ。


 一方、オクロメントは立ち上がる間すら惜しみ、すぐさま左腕のパイルバンカーを放つ。

 しかし、その先に狙っていたアファメントの姿はすでにない。


 放たれるのと同時に、高く跳び、それをかわしていたアファメントは落下しながらオクロメントの左腕の関節へと向けてドゥルガーを投げる。


 その攻撃は予想していなかったらしく、オクロメントはそれを回避することができずに狙い通りの場所へと突き刺さった。


 そして、自由に動くであろう右腕を踏みつけて着地。

 そのまま抑えながらオクロメントの腕ごと地面に突き刺さったドゥルガーを引き抜き、先端をオクロメントへと向ける。


「はぁ、はぁ……っ。これで、終わ…………り」


 その時にカズキは見た。

 ひび割れ、一部は吹き飛ばされた胸部装甲の隙間から人が見えた。

 それは自分と同じくらいの歳の少女だった。


 その少女は憎悪を帯びた表情でアファメントを、いや、カズキを睨みつけている。


(なん……だよ……これ)


 装甲の破片で切ったのか頭から血が流れている。

 しかし、そんなことを気にする様子もなく名も知らぬ少女は睨んでいる。


 息が荒く、速くなる。

 呼吸をしているというのに全く楽にならない。それどころかどんどん苦しくなるだけだ。


「はぁはぁはぁはぁっ!!」


 その少女は憎悪をまとわせながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


 ––––––殺してやる


「ああああぁぁぁぁぁああッッ!!!」


 その叫びに答えるようにアファメントはドゥルガーを高く掲げた。

 そして、浮かぶ言葉をそのまま嘆くように口にする。


風よ、吹き荒らせ(フロスト・バースト)!!」


 それが告げられるとドゥルガーの先端にマジックキャンセラーを展開した。

 そしてそれを自分を睨みつける少女へと振り下ろす。


 放たれたその一撃は残っていた胸部装甲をその操縦者(リンカー)ごとズタズタに引き裂いていった。


 その瞬間、カズキは目を閉じていた。

 だが、脳に直接映像を送り込んでいるためそんなことをしても見せつけられた。


 アファメントが振り下ろした一撃、それが少女の体を押しつぶし、ズタズタに切り裂く様を。


 その光景を否定するかのように首を横に振るカズキの視界に文字が浮かぶ。


『あなたはすでに2機のメンターズを破壊しました。なのに、なぜ今更そのように苦しみ否定するのですか?』


「違うッ!!俺は、俺は殺したかったんじゃない……ただ、ただ!!」


 強く目を閉じたカズキの脳にその光景と感覚が一気に流れる。その瞬間、カズキは胃の中をアファメントの搭乗席にぶちまけた。

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