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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
少年の覚悟
26/35

正体不明

 バースレン騎乗士団の城塞に元は別の場所にあったネバリエが施設を移したのは20年前のこと。


 もともとゴーレスの情報は重要機密であり、またそれを作る製造施設も重要施設である。

 そのため防衛は盤石のものにする必要があり、常に防衛部隊がそのに配置されていた。


 ネバリエは大型魔獣討伐時からあった建物であり、作られた施設でもある。

 そのせいで老朽化が著しく、また対ゴーレス戦のことを考えるとどうしても守りにくい部分があった。


 それらの理由から施設を建て直すのと同時にバースレン騎乗士団の城塞内に併設されることになった。

 

 そんなネバリエの格納庫にボロボロになったガンドマイストⅡが搬入されている。


 それを予想以上の被害に「あら〜」と声を漏らしながら見上げるメリス。

 確かに報告では聞いていたが実際にここまで壊れてくるのを見るのは久々でつい声が出ていた。


「あ、所長!どこほっつき歩いてたんですか!仕事してくださいよ!!」


 男性の研究員に言われながらメリスはまったく反省の色を見せずに「ごめんね〜」と軽く言って続ける。


「んで、どうなの?」


 話を逸らしたメリスに研究員は非難の目を向けたが確かにそのことは報告しておかなければならない。

 うまく撒かれたことに多少の悔しさを覚えつつ、呆れたようなため息をつくと報告を始めた。


「……2機は搭乗席を一撃、もうあれは胸部ユニットを入れ替えた方が早いですね。マーリ万騎長の機体は四肢、特に下半身の負荷がかなりのもので……こちらも別に変えた方がいいかと」


「かなり派手にやられたんだねぇ」


 ガンドマイストⅡは構造の簡略化が徹底して行われているため整備性や量産性、なによりもその強度が異常なまでに高い。

 しかし、そんな満身創痍とも呼べる状態でこの副都まで歩いてこれたのは作った本人たちでさえ最初は驚いた。


「ええ。まぁ、強度には自慢があるゴーレスですから。ですが、それを一撃で粉砕するなんて、現物を見ても信じられません……というよりも信じたくないですね」


 しかし、胸部を一撃で粉砕された機体もある。胸部は特に装甲が厚いため、普通は一撃で潰されるようなことはあり得ない。

 少なくとも通常のゴーレス相手ではまず不可能だ。


 メリスは視線をアファメントへと移す。

 それ待機状態で地面に座っている。

 待機状態であるためか操縦者がいないせいか黄色の水晶はほのかに光っているだけで手足首に光輪はない。


「それで、あっちは?」


「あれは……全くわかりません」


「全く?全くって……全然わからなかったの?」


 ネバリエはガーンズリンド王国内でもゴーレス開発の最先端を行く場所だ。当然ながら、そ子にある機材も最新のものばかり。

 確かに時間は少なかったが全くわからないなんてことはまずありえないことだ。


「あ、いえ。装甲の材質とかあの水晶部分がマナティックコンデンサであることはわかりましたけど……」


 メリスは静かに聴きながらアファメントに歩み寄る。それの後を追いながら男性研究員は説明を続けた。


「それ以外はなにも……動力自体も全くわかりませんでした」


 それを聞いてすぐさま疑問符が浮かんだ。

 その男性職員の方へと視線のみを向けて問う。


「は?動力?マナティックコンデンサじゃないの?これだけ全身にくっ付けておいて」


「違いますね。まだ詳しく調べられてませんし、実際の動きも見てませんけど……」


 あくまでも報告からの推測ですが、と自信なさげに肩をすくめて付け足す研究員。


 まともに調べられるところすら見つけられなかったことに少し自信をなくしてしまっているらしい。


 メリスは地面に座るアファメントの装甲を撫でる。


「詳しいことは、動かしてみないとわからない、か……こいつはやっぱり彼じゃないと動かなかった?」


「はい。搭乗席の場所すらよくわかりませんでした。カズキ、でしたっけ?おそらく彼じゃないとまともに動かすどころか搭乗席に入ることすらできませんよ」


「んじゃ、さっそく彼には働いてもらうか」


◇◇◇


 場所はハイリヒトを出てすぐの丘陵地帯。

 そこにはアファメントとガンドマイストⅡが立っていた。


「––––と、言うことで少し付き合ってもらうよ〜!カズキく〜ん!!」


 大声でアファメントへと声をかけるメリスにカズキは拡声器を使って答える。


『はい。指示をお願いします』


 その返答を聞くとメリスは研究員数名に何か指示を伝えるとカズキへも指示を出した。


「それじゃ、その機体と取っ組み合いをしてくれ〜!全力でやってくれよ〜!」


『わかりました』


 とは言ったもののとカズキは視線を目の前のガンドマイストⅡへと向けて息を吐く。


「これ、全力でやったら……壊れるんじゃないのか?」


『まぁ、壊れますね。しかし、全力でと言ったのは向こうです。加減は不要でしょう』


 カズキの呟きにすぐにアファメントから返答が来た。

 どことなく不機嫌なような雰囲気を感じ取れたがどうやらこの実験に乗り気ではないらしい。


 カズキもその気持ちはわかる。

 こんなことのためにアファメントに乗っているわけではない。そもそもこんな実験体のような扱いをされて良いわけがない。


 だが、協力しておかなければ彼女たちがどうなるかわからない。


「あー、よし!やるか!」


 沈みかけた自分の気持ちを奮い立たせるように言い構える。


 アファメントの構えを見て目の前のガンドマイストⅡも構えた。

 互いに少し体を沈み込ませ、地面を踏み込み走り出す。


 2機が接触、すぐさま両手が重なり合い力比べに移ったがその勝敗はすぐにつく。

 握っていたガンドマイストⅡの手をアファメントが握りつぶし、そのまま押し倒してしまった。


 その光景をメリスはたちは呆然として見ていた。いや、そうやって見るしかなかった。


「まさか、1分も持たないとは……」


 研究員の1人がメモ書きをしながら呟いた。

 その後ろでは数名が驚愕の言葉を漏らしながら各々考察を述べあっている。


「あ〜、確かにあの出力で動力はマナティックコンデンサなんてありえないねぇ〜。ただ数を増やしてどうこうっていう差じゃないよ……あれ」


「は、はい……それに、おそらくですが各部強度もガンドマイストⅡを凌駕しているかと……」


「報告を見たときには笑いましたけど……たしかにあれは、ゴーレスでどうこう出来ませんね……」


 たしかにメリスも早馬からの知らせを読んだときには「幻覚でも見せられたか?」と笑い飛ばした。

 しかし、ゴーレスに携わっているからこそガンドマイストⅡとの軽い、それこそ数秒程度の手合わせだけでわかった。


 あの報告は全て事実だ。


 だとすれば調べようとしていた実験は全て無駄だ。

 なにせ最新とはいえその実験機器の全てがゴーレスを基準としている。だが、あれはその基準を完全に超えてしまっている。


 無理矢理調べることはできるだろうが全ての結果は分かりきっている「計測不能」と出ることだろう。


「こりゃ、機器は全部新調しなきゃかなぁ……」


「専用の物、となると……結構時間かかりますよ?それまでただ放っておくのも……」


「そうなんだよねぇ……乗ってる本人もまだ全部わからないらしいし……」


 手詰まりになることは最初から予想はしていた。

 だが、まさか調査の第1歩すら歩き出してないところで止まることになるのは予想外だった。


 とにかく足掻いて出来ることをしようと決意し、メリスは指示を出す。


「とにかく、無駄だろうけど記録は取れるだけ取っとこうか。機器の制限全部外して」


「え?でも、そうなると最悪……っていうか、確実に壊れますよ?」


「仕方ないでしょ?そうでもしなきゃ数値が取れないんだから……それでも取れるか怪しいけど……」


「わ、わかりました」


 メリスの指示に従い各研究員は機器の調整を始める。

 それからどうしようかと考えていると声が飛んできた。


『あの〜、これからどうすれば……』


 カズキを放ったらかしにして話を進めていたことを思い出したメリスはひとまず指示を出した。

 

「あー、とりあえずー!機体を起こして上げてー!」


『はーい』


 アファメントが倒したガンドマイストⅡを起き上がらせる姿を見ながらメリスは息をついた。


「ん〜、でも、本当に綺麗な機体だよねぇ〜」


 カズキが乗ってからはマナティックコンデンサが黄色に光り、手足の首には光の輪が形成されている。


 マッシブでありながらどこかスマートな手足と体にヒロイックなツインアイを持つ頭部。

 全身は黒だが所々にある黄色のマナティックコンデンサのおかげか、比較的流線が多いデザインのせいか禍々しさは感じない。


「それは、まぁ、たしかに……」


「あんな綺麗な彫刻みたいな設計する人がいるんですねぇ」


◇◇◇


 起こし上げられたガンドマイストⅡが膝たちをすると中から搭乗者が出てきた。

 そのままメリスたちの元へと向かうのを見ながらカズキはふと思い出したように聞く。


「……なぁ、アファメント。お前、誰に作られたんだ?」


『不明。記録素子が破損しているため記録を読み込めません』


 「またそれか」とカズキは心の中で呟く。

 どうやらアファメントはその記録素子と呼ばれる部分が壊れているらしく、機能のほとんどが不明なままだ。


 アファメントとリンクしていれば機能に関する情報は自動で脳に刻まれるらしいがそんなことはほとんどない。

 記録素子の修復は今も続けているらしいがこのままだとどれだけ続くかどうかも分からない。


 そんなことを思いながら空を見上げているときだった。


「ん?なんだ?」


 空にあるそれを見てカズキは眉をひそめた。

 それは影だった。その影はだんだんと大きくなり、そうなるにつれて形をはっきりとさせていく。


「ま……ずい……!!」


 それを認識するとすぐさま拡声器で叫んだ。


「今すぐにここから逃げてください!メンターズが––––」


 ズドオオオオォォォンッッ!!!


 最後の言葉はその音によってかき消された。

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