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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
少年の覚悟
25/35

バースレン騎乗士団

 物は多くはなく、広くもない部屋。

 床には赤い絨毯、豪奢でありながらシンプルにまとめられた机や椅子、本棚にシャンデリア。

 そこがガーンズリンド王国の軍とも言える騎乗士団バースレンの団長に割り当てられている執務室だ。


 その中で事務仕事に励む男性が1人。彼の名前はエグリア・ラーズド。

 大柄な体格に短く切りそろえられた銀の髪に男性らしい厳つい顔。


 ラーズド家は代々有力な騎乗士を輩出している名家だ。

 しかし彼は名家だからではなく、実力で団長を代々受け継いでいる。

 特にここ数代の団長の実力は他の団員を凌駕しており、その流れには彼も当然ながらいる。


 エグリアが紅茶を飲んでいると両開きの扉がノックされた。

 入室を許可すると男性が入り、一礼。そして報告を告げる。


「フィッター万騎長(ばんきちょう)が戻りました。現在、客人らを連れ、こちらに向かっている模様です」


「わかった。到着したら応接室に通せ」


「了解しました」


 それでは、と一礼して去ろうとしたところを男性は止めて質問を投げかけた。


「待て。あいつはどこに行った?」


 あいつ、と言う単語が出た途端に男性の表情が曇った。というよりも申し訳なさそうな、バツが悪そうな顔を浮かべる。


 どうやらその『あいつ』にでも釘を刺されてしまったのか、その男性は苦笑いを浮かべながら、どこか言いにくそうに言った。


「それが……『先に出迎える!』っと叫んで既に外に……」


 それを聞いて「はぁ」とエグリアは深くため息をついた。


 『あいつ』の突発的な行動はいつもことを荒だて複雑にする。今回こそはそれを防ぐためにも先に捕らえておきたかった。


(そう、捕らえておきたかったが––––)


 エグリアはゆっくりと椅子から立ち上がり、男性に告げる。


「私も出迎えに行く。応接室に通すのは変わらんから準備をしておけ」


「りょ、了解。すいません。団長」


「いや、構わんよ。あいつを止められるのは今のところ私ぐらいだからな」


 エグリアは再びため息をつくと外へと歩き出した。


◇◇◇


 バースレン城塞はそれを囲うように石造りの防塞が2枚あり、それらを超えたその先に居城や他の施設がある。


 ちなみに馬車たちとはすでに別れており、マーリと歩いているのはカズキ、エレナ、エリサだ。


「大きいですね……」


「それはそうだろう。ここはバースレンの総本山だ。それにガーンズリンド王国の重要施設でもあるからなっと、ちょっと待ってくれ」


 カズキたちを手で静止させると彼らの前をガンドマイストとガンドマイストⅡのそれぞれ3機の計6機が歩いて行く。

 ガンドマイスト3機は全機でキャリーカートのような物を引いていた。


「すごい……庭の中なのに……」


 エレナが驚嘆の声をあげたように城の敷地内であってもゴーレスが余裕で歩けているほどの広さがある。

 が、当然ながら副都内で派手に動かすわけにもいかないため、バースレン城塞を囲む二重の城壁、その端の東西には門がある。


 向かう方向から見ておそらく西門から出てアファメントや損傷しているガンドマイストⅡの回収に向かうのだろう。


 6機のゴーレスが通り過ぎると再びマーリは歩き出した。カズキたちもその後に続いて歩き出す。


「––––たああぁぁぁぁぁあああッッ!!!」


「のべッッ!!?」


 しかしそれができたのはエレナ、エリサだけだ。

 カズキは謎の声とともに何かに吹き飛ばされた。


「いったぁぁ……って」


 カズキが頭を抱えながら目を開けるとそこには女性の顔があった。

 自分はこの女性に押し倒された。そう状況を理解したカズキだが疑問が浮かぶ。


 この女性は誰なのか。何故自分を押し倒しているのか。

 しかし彼のその疑問を知ってか知らずか、女性のその顔は何が楽しいのかはたまた楽しみなのかわからないが、満面の笑みを浮かべていた。


 女性の金髪の長髪が見つめ合う2人の顔を覆い隠しているなか、女性はさらに笑みを深くした。


「むふふ〜」


「へ?ちょっ!?」


 女性はカズキの戸惑いをよそにその豊満な胸に彼の頭を埋めた。


「いや〜!会いたかったよぉ少年!!君があれだろ?ゴーレス、じゃなくてメンターズ?を動かしたんだろ?」


 暴れるカズキを押さえ込むようにさらに胸を押し付ける女性。カズキはジタバタと手足を動かすがあまり意味を成してない。

 それに本当で気がついていないのか女性は言葉をまくしたてるように続ける。


「んでんで!メンターズとやらはどういう原理で動いているんだい?報告を聞いたけど空間跳躍とか時空跳躍らしき能力もあるんだろ?他にはたしかマナティアの操作が可能とか!?あとはあとはマジックキャンセラーとかいうフィールドも何をどうして魔術的作用を無効化し––––––」


「ゴホンッ!」


 さらに言葉を続けようとした女性をマーリは咳払いで抑える。

 女性がその方を向くとそこにはジト目で見るマーリの隣には赤面しているエレナとエリサがいた。


「おや?マーリちゃんか。久しぶり〜3週間くらいの任務お疲れ様〜」


「あー、とりあえずその言葉はありがたく受け取っておきますので、彼を放してやってくれませんか?そろそろ限界のようですし」


 言いながら指差すマーリ。

 女性はその指の先の、自分の胸に押し付けているカズキの頭を見て気がついたらしく拘束から解放した。


「ぷはぁっ!!」


 ようやくまともに呼吸ができたカズキは荒く息を吐く。

 それを見ながら女性は立ち上がり白衣についた土を払い落としてカズキに手を伸ばす。


 息が落ち着いたカズキはその手を取りながら立ち上がった。


「あはは〜ごめんよ。でも、悪くはなかったろ?」


「うぇ?……い、いや、その」


 顔を赤くさせながらカズキはなにも言わずに顔をそらす。

 ちなみにだがエレナとエリサは視線を下、自分の胸あたりに落とし、その女性の物を見て目から光を失っていた。


 そんな彼と彼女の初心な反応を楽しんでいるのか女性はニマニマとしている。

 だが、それはマーリの再びの咳払いによって消された。


「それ以上遊んでやらないでいただきたい。メリス・アリエット所長」


「その堅苦しい呼び方はやめてくれよ。メリスでいいって。君たちも、ね?」


「は、はぁ」


「まぁ、アリエットさん。とかでもいいけど……」


 ニコッと笑みを浮かべるメリスに大まかに予想がついているのか少し呆れたような表情でマーリが問う。


「それで、アリエット所長はなぜこのような場所に?」


 その堅苦しい言い方もよして欲しいんだけどなぁ、と呟くように目で言うとメリスは答えた。


「まぁ、案内ついでにメンターズとやらを動かしている者を見てみたかったんだよ。純粋な興味さ」


 マーリは自分の予想が当たっていたことに今度こそ我慢できずに呆れたように息を吐く。

 メリスのこの行動はどうやらいつものことらしく、その表情は「またか」と語っていた。


「さぁいざ行かん!ってね。まぁ付いてきてよ」


 そう言い白衣を翻しながら歩き出すメリス、その後をマーリが追い。

 さらにその後にカズキとエレナ、エリサが続く。


「……やっぱり大きい方がいいのかな?」


「私だって……まだ終わってるわけじゃないもん」


 エリサの疑問の声、エレナの負け惜しみにも似た声は当然カズキに届くことはない。


◇◇◇


 それから歩いて10分。城の大扉の前に彼らは来ていた。

 その扉はすでに空いており、そこには3人の男性が立っている。


「あ〜ら〜、これはこれは団長殿。出迎えありがとう」


 メリスは男性のうちの1人に向けて言った。

 その言葉を向けられた男性はゆっくりと彼らへと歩み寄りながらそれに返す。


「アリエット所長。あなたにはあなたの仕事があるはずだが?」


「残念だったね。これもまた立派な仕事さ」


 男性の追求に飄々と言葉を返すメリスにその男性はため息をつく。

 彼もまた少し前のマーリと同じく「またか」とどこか呆れたような表情を浮かべていた。


 どうやら彼はメリスを無視することに決めたらしく、表情を引き締めカズキに向き直る。


「私の名前は、エグリア。エグリア・ラーズド。このバースレン騎乗士団の団長を勤めている者だ。君を歓迎しよう。カズキ君」


◇◇◇


 場所は移り、バースレン城塞の応接室。そこには赤絨毯が敷かれ、長机の両側にそれぞれ椅子が7脚並べられていた。

 壁には絵やら獣の剥製が飾り付けられている。


 席は真ん中にエグリア。その右にメリス、左にマーリが座っている。

 カズキはエグリアの前に、その右にエレナ、左にエリサが座っていた。


 それぞれの前にはすでに紅茶があり、仄かに湯気を上げている。


「––––なるほど、報告の通りらしいな」


 カズキの説明を聞いてエグリアは紅茶を飲む。

 ゆっくりと息を吐いて言葉を続ける。


「事情は理解した。だが、やはり君たちを素直に帰すわけにはいかない。2人は問題はない。しかし、カズキ君。君はゴーレス以上の力を保有している、ということだからな」


 ガーンズリンド王国では許可なく自衛以上の力、例えばゴーレスのような物の保有を禁止している。

 勝手にゴーレスに乗っただけでも重い罪に問われるのだが、今回は事情が事情なためその辺のお咎めは無し。


 しかし、やはり彼らの予想通り「わかりましたそれでは」で終わることはなかった。


「ひとまずは君たちを客人としてもてなそう。その間に我々は我々で君の処遇を決める」


「はい」


 深刻な顔で頷くカズキにメリスは安心させるように微笑みながら言う。


「まぁ、そんな顔をするのはまだ早い。もしかしたら搭乗者、リンカーだったか。それを変えることができるかもしれない。それができれば、言い方は悪いが君は用済みだ」


 声音的には安心してくれ、と伝わるがカズキはなんとなくそれは無理なことだと思っていた。


 何か確証があるわけではないがなんとなくそれは出来ない。頭のどこかがそう言っている。


「それまでは、悪いけど私たちの実験に付き合ってもらう。いいね?」


「はい。わかりました。自分にできる事は協力します」


 二つ返事で了承するカズキに安心したのかメリスは席から立ち上がった。


「んじゃ、私は機体の方に行くから」


 そう言い残すとメリスは応接室から出た。


「では、私もそろそろ執務に戻る。部屋を用意させるからもう少し君たちはここで待っていてくれ。フィッター万騎長、彼らのあとは任せる」


「了解しました」


 マーリの返事を受けてエグリアも応接室を後にした。


「……さて、少し暇ができたわけだが。何か質問はあるか?簡単なものなら答えられると思うが」


 3人は少し顔を見合わせてカズキが手を挙げ、質問を投げかける。


「あの……ラーズド様のことはわかったんですけど、アリエットさんは一体?」


 その質問を受けてマーリはメリスについて説明していなかったことを思い出したらしい。申し訳なさそうに眉をひそめた。


「すまない。説明していなかったな。彼女はガーンズリンド王国のゴーレス開発の研究組織【ネバリエ】の所長だ」


「……えっと、それってつまり」


「ゴーレスを研究してる人たちの中で1番偉い人?」


「しかも王国に認められた」


 エリサ、エレナ、カズキが彼女の顔と行動を頭に思い浮かべながら確認するように言った。


 その認識を噛み砕いているのかしばらく訪れた沈黙。


「「「ええええぇぇぇえええッ!?」」」


 そして、3人ほぼ同時にテーブルを叩いて立ち上がった。

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