副都到着
シチナ村を出て約2日。
副都と村の間にある平原には両肩に大破したガンドマイストⅡを抱えるアファメントとどうにか歩けているマーリのガンドマイストⅡがいた。
ゴーレスの輸送技術はこの世界では特に研究されていないらしく、大破したものはこうして他のゴーレスが運ぶことが多いらしい。
そんな2機の間には馬車が6台、三角形を作るように並び進んでいた。
『この辺りで一度休憩を取ろう』
「わかりました」
マーリの言葉で馬車は動きを止め、アファメントも抱えていた2機のゴーレスを地面に降ろした。
2人が自機から降りるのと同じように荷台にいた人たちも続々と降りてきて昼食の準備を始める。
カズキはそれを見ながら背伸びをして空を見上げた。
今のところはこれといった事態は起きていない。しかし、この後がそうだとも思えない。
ただ、今祈るのはメンターズが現れないことだけだ。
「お疲れ様。カズキ」
声がした方向を向くとそこにはエレナとエリサがいた。
「ご飯、食べよ?」
「ああ、そうだな」
3人は適当に場所を見つけると座り込み、食事を始める。
「副都まで、あと3日ぐらいかなぁ?」
「たぶんな……」
「私たち、本当に村を出たんだね……」
エレナはポツリと小さく呟いた。
2日前、村を出る事をベッチや村長たちに告げると彼らは少し寂しそうな顔をしたがすぐに送別会を行ってくれた。
彼女たちだけではなく、ほんの数日しかいなかったカズキも含めて。
村の復興も終わってないため山のようなご馳走が並ぶことはなかったがそれでもとても嬉しく、楽しかった。
彼らも彼らで復興の間のちょっとした安らぎを得られたようでカズキたちを見送る時はとても明るい笑顔を浮かべていた。
そんな彼らとはどれぐらいかはわからないがしばらくまともに会うことはないのは確かなことで、そう考えるとやはり寂しく思う。
数日しか過ごしていなかったカズキがこう思っているのだ。
産まれてからずっといた彼女たちはそれ以上の苦しみや悲しみがあって当然だ。
後悔しているか?
そう彼女たちに問いたかった。
しかしそれは野暮なことでむしろ彼女たちをさらに傷つけることになるだろう。
彼女たちは彼女たちなりでけじめを付けて、覚悟を決めているはずで、それを蒸し返し聞き出す。なんてことはしたくはない。
(聞く理由もないし……やることは変わらない)
いつも通りに接していればいい。約束を守り続けられればいい。
カズキは少し固いパンを噛みながらそう思った。
◇◇◇
通路を1人の少女が歩いていた。年は大体15か16といったあたり。
その足音は大きく力がこもっており、彼女が歩くたびに後ろで結ばれている金色の髪が揺れる。
可愛いというに相応しい少し幼さの残る顔立ちをしているがその口は強く結ばれ、その拳は握りしめられ、全身から怒りが溢れていた。
「んな、イライラすんなよ」
そんな少女の前に腕を組み、壁にもたれかかっている男性が現れた。
怒りを表す少女と違いかなり余裕のある笑みを浮かべている。
「あんたには関係ない」
冷たく突き放すような少女の言葉。
しかしその明らかな拒絶もなんのその。男性は変わらず、どこかふざけるような口調で言った。
「おお、おお。怖いねぇ……ま、そりゃ愛しのお兄様がああもあっさりやられたんじゃぁ––––」
「ッッ!貴様!!」
少女は怒りを男性へと向け、通路の壁を強く殴りつける。
あまりの怒りからか肩は震え、その目は獣そのものだ。
「私はまだいい。でも、お兄様を侮辱することだけは許さない!運び屋風情が、ほざくな!!」
「そりゃ、運び屋だからこそデカイ顔するんだよ。んじゃ聞くがな。お前のオクロメントは飛べるのか?ん?答えてみろよ」
さっきまでの威勢はどこへやら。少女は口を紡ぐ。しかし、怒りだけはそのままで壁を再び殴りつける。
だが、その怒りはそれは目の前の男性の代わりか、はたまたその言葉の通りで言い返せない自分に向けられているのかわからない。
少女は何も言い返さない代わりに強く睨みつけて男性の横を通り抜け、ズカズカと歩いて行った。
その背中に何か新しく言葉を向けることなく男性は少女を見送る。
「不器用ですね。あなたは」
そんな時、いつの間にそこにいたのか女性の声が聞こえた。
男性は振り返ることなくそれに答える。
「不器用?俺が?何の冗だ––––」
「ファスィメントのリンカーはあなたの友人でもありました。それに、あなたは彼女に好意を寄せている。違いますか?」
男性は彼女に背中を向けていて良かったと思った。
彼女は苦手だ。目を合わせれば心の奥底を覗かれそうで吐き気がする。
その女性は無言の男性の背中に続けて言葉を投げかけた。
「あなたは彼女に言って欲しかったのでしょう?『戦いたくない』と。『お兄様のようになりたくない』と……違いますか?」
「……違うな」
図星だった。
あの少女には生きてもらわなければならない。あの少女はつい先日死んだ男の妹だ。
その男に彼女のことを頼まれているのだ。
強がりでそう答えたのだが女性は「それは良かった」と言い言葉を続ける。
「次はオクロメントを出します。本人へは……まぁ、あの様子でしたし、すぐに知るでしょう。あなたは輸送の準備を」
「ッッ!!?…………わかった」
男性はズボンのポケットに突っ込んだ手を強く握りしめて頷いた。
◇◇◇
副都ハイリヒト。
副都のその名の通り、王都ガーンズリンドのもう1つの都として発展している。
元々は騎乗士団の施設、主に本部である城塞があった場所だったのだが、20年ほど前に研究機関とその施設もそこに移設さられた。
その移設と施設拡充をしていくにつれて労働者が多くなり、それらをターゲットにした商人たちが集まり、大きくなっていき、今の形となった。
研究機関があることもあり、ガーンズリンド王国のゴーレス技術のほとんどがこの施設で研究がされている。
そのため、このハイリヒトはガーンズリンド製ゴーレスの最先端が集まっている場所でもある。
ゴーレスに関する重要施設、技術が集まり、騎乗士団の本体もここにあるため防衛能力的に見れば王都と同レベルかそれ以上だ。
シチナ村を出て6日。
途中で雨が降り始めて少し到着が遅れたがそんなハイリヒトへとどうにか彼らはたどり着いていた。
彼らの前には城壁が広がっていたが門がある場所には2機のガンドマイストⅡが立っている。
その2機は彼らを見つけるとそれぞれが敬礼を向けた。
マーリ機がそれに答えると2機のうちの1機から声が上がる。
『フィッター万騎長ですね?』
『ああ、そうだ。すまないがあの機体とそれが担いでいるものと私の機体をネバリエに運んでくれないか?』
『了解。早馬で報告は聞いています。すぐに来ますので万騎長と補給部隊、それとその機体の搭乗者は先に本部への出頭をお願いします』
『了解した。カズキ。いいか?』
「は、はい!」
アファメントは担いでいた2機を地面にゆっくりと降ろすと、カズキも降ろした。
「カズキ!こっちだ!」
カズキが降りる頃にはマーリも自機から降りて馬車群の先頭に立っていた。そこに走り寄ってマーリに聞く。
「あの、アファメントは?」
「安心しろ。ネバリエに運ぶだけだ。何もしないさ……まぁ、したくともできないだろうがな」
カズキは視線をマーリから外し、自分を見下ろしているガンドマイストⅡを見上げる。さらにその視線をハイリヒトの門に向けた。
その門はゴーレスが通ることも考慮しているのか20メートルほどはあり、それの両扉は今は開かれている。
カズキたちが入ったのはハイリヒトの南西にある門だ。
そこは商業区と呼ばれる場所で商店や宿屋が立ち並ぶ一角だ。
ちなみに東は住居区でハイリヒトに住む人たちの家々が立ち並び、北は騎乗士団の施設が所狭しに並べられている。
マーリにその説明を聞きなら背中について歩いていき約30分。
そして、再び現れた城壁を2つ通り抜けた彼らの視界の先に立派な石造りの城が見えた。
城だけはハイリヒトに入った頃からずっと目に入っていたことからかなり大きいことは予想がついていた。
しかし、魅せるための城ではなく、城塞のためか地味だが間近で見れば圧倒されるほどの大きさだった。
そう感じているのはエレナとエリサも同じでぽけっとした顔でその城を見上げている。
「これでも首都の王城よりは小さいぞ」
マーリはそんな3人にさらっと言ったが一般人であったエレナとエリサ。そして、城などというものとはほぼ無縁の場所にいたカズキはそれを指差す。
「こ、これで……?」
「小さい?」
「の?」
カズキ、エレナ、エリサの順にマーリへと言葉を向ける。
そんな彼女はコクリと頷くと彼らと同じようにその城、ガーンズリンド王国騎乗士団の居城を見上げる。
「ここがガーンズリンド王国の騎乗士団【バースレン】の本部だ」




