副都へ
外から声が聞こえる。
子供の声もあるし大人の声も混ざっている。しかし。みんな何かを言っていることだけはカズキにもわかった。
それが分かる頃になり、ようやく自分が座っていることに気がつき、目を開いた。
その先には暗い部屋の壁がある。
「…………ああ、そうか」
いや、ここは部屋ではない。アファメントの搭乗席だ。
あのあとファスィメントを撃破したことを村のみんなに伝え、騎乗士たちは警戒態勢を取ることになった。
そこにはアファメントは損傷しているためエヴァンテへと戻し、修復してから加わるつもりだった。
だが完全修復には8時間かかるらしく、そこでアファメントに少し無理をさせて待機していた。
「アファメント……ふぁ……リンク」
欠伸を噛み殺しながらレバーを前へ。基部が回転、枷がつけられ視界が外の景色へと変わる。
膝立ちをさせていたアファメントを立ち上がらせて村を見下ろす。
いつのまにか朝食の時間になっていたらしく辺りは少し賑わっていた。
早々に食べ終えた子供が走り、それを親が軽く注意する。
そんな光景を見て少しリラックスしていると声が飛んできた。
『カズキ。ようやく起きたか』
ガンドマイストⅡの拡声器を通して声をかけてきたのはバルダだ。
「す、すいません。自分でするって言い出したのに眠ってしまってて」
『構わんよ。君は時間を稼ぐどころか倒した。本来なら護衛すらもして欲しくなかったほどだよ』
『そうそう、お前も今のうちに休んどけ。それも一度直さなきゃだろ?』
次いで声をかけてきたのはデクス。
『ま、カズキがやってくれるなら俺は何もせずに楽ができるけどぉ〜?』
『ほほぅ、私の前でそれを言うか……いい度胸だな』
『うひゃぁ〜!!』
変な声を上げるとデクスのガンドマイストⅡは2機から離れていった。
なんだかんだできちんと護衛をするらしい。
『と、まぁ、こうなるから君には休んでいてもらいたい』
「ははっ、わかりました」
カズキはアファメントのリンクを解除。外へと転送された。
地面に降りると後ろを振り返り、アファメントを見上げる。
所々に複数の傷が付いている。特に右前腕装甲に切り傷、左肩の穴が空いており、左腕は前腕の中ほどから先がなくなっており痛々しい。
もう少し戦い方を考えないとな。と思いながらアファメントをエヴァンテへと戻した。
上空の魔術陣に消えていくアファメントから視線を外し振り返るとそこにはエレナとエリサがいた。
「おかえりなさい。カズキ」
「おかえり!お兄ちゃん!」
2人はそう言い優しく微笑みかけてくる。
「ああ、ただいま」
カズキはその2人の元に歩み寄ると配給を配っている場所に向かった。
◇◇◇
「はい?」
突然の言葉にカズキは首を傾げる。
それを不思議に思ったらしくマーリも首を傾げた。
「ふむ?聞き取れなかったか?君には副都まで来てもらう」
食事が終わり、お茶を飲んでいるとマーリがそう言った。
なんでも大破したガンドマイストⅡ、マーリの機体を副都まで持って行くそうだ。当然だがそれと同時に副都にある騎乗士の本部に報告も入れるらしい。
マーリはそれの同行をカズキに頼んでいた。
「理由はわかるだろう?」
「そりゃ、わかりますけど……」
理由など分かりきっている。
カズキが動かし、半ば占有しているアファメントについてだ。
ゴーレスを圧倒する機体を占有しているとあっては騎乗士達どころかガルドリシア王国そのものから何かを言われかねない。
それを無視し続ければ、王国がどのような行動を起こすか。想像するだけで寒気がする。
そんな最悪のことになる前に自分から説明をしておけ、ということだ。
だが、心配事が一つ。
「……彼らの力だけでは不安だと?」
「いや!そんなこと…………」
否定の言葉を出そうとしたが飲み込んだ。
ゴーレスではメンターズに対抗できない。
乗っているカズキだからそこそう断言できる。
その性能差は技術どうこうで、連携どうこうで対応できるレベルを超えている。
カズキがバルダ達に苦戦したのはカズキ自身の戦闘の慣れや殺さないようにと加減していたせい。
アファメントの提案通りに一息に殺そうと思えば殺せてしまう。
そしてそれはラブザメントと直接戦ったマーリも理解している。
彼が村から離れるのを躊躇うのはわかる。
しかし、ここで彼が首を縦に振らなければ最悪の結末が待っているということに変わりはない。
(これだけは、あまりしたくなかったが……)
マーリは目を少し鋭くさせ、カズキを睨み言う。
「だが、君が応じなければ……君の周りの者達はどうなる?」
「ッッ!?それって……それって!エレナとエリサを!」
「国とはそういうものだ。自国の不利益になるものを野放しになどせん。莫大な力が転がっていると言うのに何もしないわけがあるまい?」
「だからって!一般人なんですよ!?」
「彼女たちは……な。だが君はもう、一般人ではない。普通の者では扱えない力を扱える」
カズキは拳を握りしめ、俯いた。
何かを考え込んでいるのか2人の間に沈黙が訪れる。
どれぐらいその時間が続いていたのか、カズキは一度頷いた。
「……わかりました」
「それでいい」
そこまで言うと今までとは違い声音を和らげ、いつもの調子で言う。
「そう重く考えてくれるな。逆を言えば王国の言うことを聞いていれば君を全力で守る。それはその周りも同様だ」
それを聞いてカズキは乾いた笑みを浮かべた。
「はははっ、脅しですか」
「もう一度言うぞ。それが国だ」
最後に目を鋭くさせ、そう言い残すとマーリはどこかへと歩いて行った。
その背中を複雑な気持ちで見送りながらカズキは座り込み、空を見上げる。
ほんの少し前ならまさか自分がこんな色々なことに巻き込まれ、その中心が自分自身である。などと想像できなかった。
重い溜め息をついたその視界の端にはエレナとエリサがいつの間にかいた。
「どうしたの?溜め息なんて……」
「あ、ああ。ちょっと副都に行かなくちゃいけなくなってな……」
「え?お兄ちゃん副都に行くの?」
「そう。ほら、アファメント……あれのことを直接説明しなきゃいけないから」
エリサは目をキラキラさせて副都に行くことを羨ましがっているようだがエレナはなんとなくでカズキの懸念を察して聞く。
「……ちゃんと、帰ってくる?」
「え?どいうこと?」
カズキは表情を暗くさせ、エリサは意味が理解できていないのか2人の顔を見る。
カズキがマーリの返答に迷っていた理由がそれだ。
副都に行けばカズキは確実にこのシチナ村に戻ってくることはない。
少なくともアファメントの他の搭乗者が見つかるか、謎のメンターズの襲来が落ち着くまでは。
そんなことになってしまえば下手をすれば彼女たちとはもう会えなくなる。
そこまで言うとカズキは空を見上げた。
(そもそも俺はこの世界の人間ではない。もしかしたらその方がいいのかもしれないな)
そもそも実質的に彼女たちを人質に取られている以上、カズキには従う道しかない。
と、ふと気がつくとカズキの服の袖を引かれる感触。
そこを向くとエリサが見上げていた。
「ん?どうかした?エリサちゃん」
「私も行く!」
「「……はぁ!?」」
カズキとエレナが反射的に声を上げたがエリサは構わずに続ける。
「だって、それなら離れ離れになることもないでしょ?お兄ちゃん、ほっとけないよ」
「え、エリサ!?自分が言っている意味わかってる?それって、ここには、もう戻ってこれなくなるって事で!!」
エレナに助けを乞うように視線を向けた。
しかしエレナは何かを考え込んでいるのか何も言わない。
「そうか、その手があった……」
「はい?」
ボソッと聞こえた言葉を聞き返したがそれに帰って来たのは予想外の言葉だった。
「私も行く」
「は?」
「だって、カズキさんこの辺のこと何も知らないみたいで、誰か付いていかないと何をするかもわからないですし」
なんともないようにサラッと言い切るエレナに頼もしさのような、恐ろしさのような、なんとも形容しがたい雰囲気を感じたカズキは言葉を失っていた。
そんなカズキにエレナは上目遣いで質問する。
「それに、約束、忘れちゃったの?」
「そ、それは……」
月下の元で結ばれた約束。その事を持ち出されてはいよいよ何も言い返せない。
おそらく王国側から見れば不利なことではない。むしろ首輪が近くにあって好都合と思うだろう。
そのためマーリも驚きはするだろうが断りはしないだろう。
だが、と考え込むカズキに対してエリサは言う。
「大丈夫だよ。何かあってもお兄ちゃんが守ってくれるもん。ね?」
自身に満ち満ちた言葉と表情。
強引なところは彼女たちの家系の血筋らしい。
二人がついてくる事をマーリに告げると––––
「まぁ、本人たちがわかっていて言うのならば私は何も言わん」
予想通りエレナ、エリサの同伴を許可した。
それから約3日後。
彼らはシチナ村を後にして副都ハイリヒトへと出発した。




