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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
少年の覚悟
21/35

白剣

「ッッ!?」


「なんだ!?」


 カズキとバルダは反射的に立ち上がり衝撃が発生した場所、より正確には何かが落ちて来た場所を見る。


 先ほどの衝撃で灯りが消され、少し暗くなっているが月明かりでその姿ははっきりと確認できた。


 認識できたそれを見てカズキは反射的に理解して呟く。


「……メンターズ」


 それは全体的にシンプルなデザインをしていた。

 だが、上半身が太めで特に大きな肩アーマーに目がいく。太ももや上腕も骨太でどことなく戦士の姿を連想とさせる力強さがある。

 その力強いボディを赤に白のラインが走った装甲で包んでいた。


 また、おそらくそのメンターズの主装備なのだろう短剣が両サイドのスカートアーマーに担架されている。


 そのメンターズの頭部にある1本のスリッドが赤に強く光った。


「ルクイーガ様。村のみんなの避難をお願いできますか?」


「……わかった。カズキくんも無理をするな」


「はい。わかっています」


 バルダはその返事を聞くと自分の機体へと走る。

 それと同時にカズキはその名を叫んだ。


「アファメントッ!!」


 カズキの声に呼応し、背後の地面に浮かぶのは「α」の文字を中心に刻まれている魔術陣。


 それは一気に上空に上がり、その中からアファメントがゆっくりと這い出てきた。

 アファメントは魔術陣から這い出ると空中で1回転しカズキの背後に着地、それと同時にカズキを搭乗席へと転送する。


 転送に動じることなくカズキはレバーを前へとスライドさせるとカチッという音ともに基部が90度回転すると同時に足首、手首、首に枷がつけられシートのサイドから突起が現れた。


「アファメント、リンクッ!!」


 その言葉に反応し、バチッと音がなったと思うとカズキの脳に外の景色が流し込まれる。


◇◇◇


 外ではカズキとのリンクを終わらせたアファメントの各部にあるマナティックコンデンサとツインアイが強く光を放っていた。


 自機を立ち上がらせていたバルダから見てもやはりアファメントの姿はどこか彫刻のような美しさを感じる。


「あれが……アファメント」


 話には聞いていた。自分で直接戦ったがやはり無茶苦茶なものだ。

 一体どういう原理なのか、どんな素材でできているのか。あのエネルギーはどこから湧くのか。

 疑問は絶えないが今は考えるべきはそんなことではない。


「カズキくん!我々もすぐに向かう。しばらくの間、頼むぞ!」


 こんなことをいくら力を持つとはいえ、民間人である少年に頼むことに不甲斐なさを感じる。

 だが、ガンドマイストⅡ1機ではどう頑張っても時間稼ぎなどできはしない。


『はい!』


 カズキのその声を聞きバルダはすぐに行動を始め、自機を走らせる。


 その口は本人も自覚しないうちにきつく結ばれていた。


◇◇◇


 村の方へと走るガンドマイストⅡを横目で見た後、すぐに意識と視線を退治するメンターズに向ける。


 するとターゲットカーソルが浮かび、そのメンターズに固定された。

 それと同時に『φ(ファイ)・ファスィメント』の文字が表示される。


「目標、ファスィメント。やるぞ、アファメント!」


 カズキは言うと同時にアファメントを走らせた。


 リーチ的にはあの短剣にわずかに負ける。

 だが、今は幸運なことにファスィメントは剣を装備していない。

 ならば今のうちに蹴りの一撃でも入れて体勢を崩す。あとはそのままラッシュをかけ、剣を抜かせないようにすればいい。


 アファメントはそんな考えのカズキの操作に従いスラスターを吹かし跳び蹴りを行う。

 ファスィメントはその一撃を軽く腕で受け流した。


「チッ!」


 舌打ちを鳴らしながら着地と同時に後ろ回し蹴りを繰り出すがそれは軽く身を逸らされ当たることはない。


 さらに追撃をしようとしたがファスィメントは後ろに跳躍。


 着地するとサイドスカートから短剣を装備した。

 その二本の短剣から白い光が溢れたかと思うと右に持った方からはソードが展開、左に持った方からはレイピアが展開された。


 まるで「ここからは俺の番だ」とでも言うように一直線にレイピアの切っ先を向けて見た目よりも速い突撃を仕掛ける。


 反射的にスラスターを吹かし、大きく横へと避けた。

 両足と左手で地面をえぐりながら止まり、大急ぎで通り過ぎたファスィメントを目で追う。


 視界の先にあるファスィメントはすでに体勢を整え再び突撃態勢をとっていた。

 それをカズキが認識するやいなやそれが飛び、切っ先がアファメントを貫かんと迫る。


 それを右へと軽く身をずらしてスレスレのところでその攻撃をかわした。


 再び通り過ぎるかと思われていたファスィメントの肩アーマーの上部が可動、胸アーマー開いた。


 それぞれに見えるのはスラスター孔。

 それを一気に吹かし、かかとで地面をえぐりながら急停止、それと同時に振り向きながら右手に持つソードを振るう。


(な!!?)


 とっさに右腕で受けるが踏み込みが甘く、衝撃を殺しきることができずに軽く飛ばされた。


 ファスィメントもまた少し不安定だったのか反動で軽く飛ばされたが器用に両手の剣と足でバランスを取り着地。


 互いの距離が開いたことでカズキは思い出したように荒い呼吸を始めた。


「はぁ、はぁ……」


(くそ……速い)


 肩アーマーにある可動式のスラスター。

 それらを用いた高速機動に合わせてレイピアの刺突。それがかわされればソードによる斬撃。


 速度を取ればレイピアが、距離を詰めればソードが容赦なく獲物を狩る。それがファスィメントの戦闘スタイルらしい。


「っていうか、剣ってずるくないか。こっちは素手だぞ……」


 その戦闘スタイルも確かにそうだが1番苦しめられていることがそれだ。


 どうしても素手と剣では剣の方がリーチがある。

 足でもその距離は埋められない。そもそもファスィメントの戦闘スタイルに対して蹴りはあまりにも隙が大きい。


(剣を掴んで動きを止める……レイピアの攻撃を見切ることができれば……)


 攻撃は与えられなくとも相手の手数を減らせる。

 ファスィメントの細かい動き、初期動作を見落とすまいとしていると視界の端に文字が並んだ。


『それはやめた方がよろしいかと』


 カズキが疑問の声を上げる前に続く文字が浮かぶ。


『あれはマナティアで生成されたもの。下手に触れればこちらがやられます』


 マジックキャンセラーはあらゆる魔術的干渉を軽減、もしくは防ぐだけの力を持ち、一点に集中させれば強力な一撃になる。

 しかし、それにも弱点はある。

 まずマナティアで形成されたわけではない実態攻撃。

 そして、マジックキャンセラー同士の干渉による対消滅だ。それはアファメントの「雷よ、闇を穿てライトニング・ストライク」で使っている原理だ。


 ファスィメントは出力こそアファメントのそれに劣るとはいえ同じ原理。


 先ほどの上手く弾けたのはファスィメントがバランスを崩したからだ。

 次もそうなるとは限らず、下手な防御行動をとれば自分がラブザメント相手にしたように倒されかねない。


 そうとなればさらに手詰まりだ。

 アファメントの一撃をぶつけるには動きを止める。もしくは制限する必要がある。


 新しく策を考えているとファスィメントがスラスターを全力で吹かし突撃。


 舌打ちと出かけた悪態の言葉を飲み込み、その攻撃をしゃがんでかわす。

 だが、肩アーマーがわずかに削られ、レイピアは空を穿つ。


 次に来るのはソードによる斬撃。

 ソードを持つ手はすでに高く掲げられていた。

 それを見るとかわすことはせずにおもむろに腕を伸ばす。


 ソードを掴むのがダメならば腕の方を掴んでしまえばいい。

 反射的に行ったその行動。

 しかし、それはすぐに察知されたらしく後ろに大きく下がられてしまいかわされた。


 伸ばされたアファメントの手は空を掴み、ファスィメントのソードは空を切る。


 再び互いに距離が開けられた。


「やっぱりそう簡単にはいかない……よな」


 カズキの頬から汗がゆっくりと伝い落ちる。


◇◇◇


『落ち着いて、ゆっくりだ!』


『安心してください。我々が護衛に着きます』


 ルクアとデクスのガンドマイストⅡから拡声器を通して声が村人たちに伝えられる。

 残りのバルダ機は既に狙撃杖を持ち、周辺警戒と同時にアファメントの先頭を見ている。


 3機もガンドマイストⅡがあり、またアファメントが足止めをしていることが既に村人たちに伝えられているお陰で不安の色がありはするが騒ぎ立てる者はいない。


 機体がないマーリは直接村人たちの避難誘導を行っていた。

 人で一杯になった荷台を見て御者に馬車を出すように告げると御者は頷き、馬車を出す。


「あ、マーリさん」


 その姿を見送っていると後ろから声をかけられた。

 振り向くとその先にはエレナとエリサがいた。


「どうかしたか?君たちも早く避難したほうがいい」


「はい……その」


「お兄ちゃんは、また……?」


 どうやら2人ともカズキのことを心配しているらしい。

 だが、それはマーリもまた同じだ。


 彼女もバルダから大まかな流れを聞いただけで詳しい状況までは聞けていない。

 時々戦闘音が聞こえて来るが詳しいことはやはりわからない。


 心配ではある。しかしそれを今彼女たちの前で表に出すわけにはいかない。


「なに、問題はないだろう。信じてやれ。彼は君たちを守った。今回だって守るさ」


 マーリはエレナとエリサの頭を優しく撫でる。


 2人は頷いたがやはりその顔からは心配の色が消えない。


 何もできない。こんなことしかできない。


 そんな歯がゆさを感じるがこれが今自分が出来ることだ。自分ができる精一杯のことを今はする。

 そう自分を言い聞かせながらマーリは避難誘導を再開した。

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