復興の矢先に……
場所は変わり、村の中で1番大きな家。そこは村長の家だ。
1階は村人たちに開け放たれており、病人やけが人がいる。
応接室も開けられているため、バルダはこじんまりとした書斎に案内されていた。
「騎乗士様。何もおもてなしもできず、申し訳ありません」
50になったばかりの村長が申し訳なさそうに言うがバルダは首を横に振る。
「いえ、この惨状ならば仕方ありません。それに、我々はあなた方の救援のために来たのです。お気になさらず」
ここまで案内されている中で村の惨状も見た。
時間が経っているため火は上がっていないが瓦礫はまだまだ残っている。行方不明者もまだ50人ほど残っているらしい。
まともな寝床もまだなく、テントや辛うじて残った家で過ごす日々。
精神も休まる暇はないだろう。
そんな者たちに無理をさせるわけにはいかない。
しかし話だけは聞いておかなければ何も始まらない。
少々心苦しいところがあるがバルダは話を切り出した。
「話をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「わかりました……」
答えるとポツポツと村長はこうなった状況をできるだけ細かく話した。
バルダは途中で言葉を挟むことなくそれを全て聞いていた。
「––––以上が、シチナ村で起こった全てです」
「……なるほど」
報告にあったのは6本足のゴーレスのことのみ。
それから村を守るために死んだ2人の騎乗士とガンドマイストⅡ、ボロボロになったマーリの機体。そんな彼らのかわりに村を守ったカズキという少年が駆るゴーレスの話は初耳であった。
その黒いゴーレスは間違いなくこの村に来てすぐに見たあれだろう。
「その、黒いゴーレスには確かカズキ、と言う少年が乗っていたのですか?」
「はい……信じられませんでしょうが。たしかです」
信じられないわけではない。
カズキという少年がゴーレスから降りて来たのだ。信じるほかない。
「……彼を呼びましょうか?」
疑っているのではなく案じているのだが彼からはそうは見えなかったらしく、気をきかせるように聞いてきた村長にバルダは首を横に振る。
「いえ、構いません。彼とはこの村にいれば話す機会はありますから……」
「それよりも」とバルダはゆっくりと立ち上がる。
「我々に指示をいただけますかな?瓦礫の撤去と物資の搬入を行いたいのですが」
「あ、わかりました。こちらに……」
◇◇◇
カズキが村の中を走っているとちょうどエリサが声をかけきた。
「あ、お兄ちゃん」
「エリサか。ちょうどよかった。騎乗士様は?」
「村長のところにお連れしたけど、どうしたの?」
「俺も事情とか説明したほうがいいかなって思ったんだけど……遅かったか」
「何かあれば呼びに来ると思うけど……」
とはいえそれまで暇になってしまったのはたしかだ。
アファメントならば目立つしマーリたちの瓦礫撤去に戻るべきか、と考え始めた時にぐぅ〜っと腹の虫が鳴った。
「「…………」」
しばし訪れた沈黙。
だがそれは2人が同時に笑うことで終わった。
「あはははっ!お、お兄ちゃん。そんな、綺麗に、あはははっ!!」
「ははははっ!ほんっとにな!」
しばらく笑い続け2人が落ち着いたところでエリサは言う。
「ご飯食べよ?」
「ああ、そうだな」
「ん」と差し出された手をカズキは握りしめるとエレナがいる場所へと向かった。
◇◇◇
その場所は村にある小さな食堂だった場所だ。
しかし今は配給をする場所として活用されており、昼時ということもあってか人が多くごった返している。
「あ、カズキさん!エリサ!」
そんななか声をかけてきたのはエレナだ。
彼女は今は配給作りを手伝っているためエプロンをつけてスープを木皿に注いでいる。
「俺も何か手伝おうか?」
「私も手伝う!」
2人の申し出にエレナは嬉しそうな顔を浮かべた。
「ありがとう。なら、エリサは食べたら手伝ってくれる?カズキさんは休んでて」
「はーい」
「えっ?なんで?」
エリサが元気に返事をする横でカズキは首かしげた。
その様子を見てエレナはため息をつくとスープを装いながらジト目で言う。
「あのね……カズキさんはずっと働いてたの。少しは休んでおかなきゃダメになっちゃうよ?」
たしかに今日は朝から休憩もろくに取らずにアファメントを動かし続けていた。
休めとエレナが言うのも当然だろう。
「む、むぅ……わかった」
カズキはエレナに差し出されたパンとスープを受け取る。
「ん。それでいいの」
ふっと表情を緩め微笑んだエレナに一瞬見惚れたがその背中を強く叩かれた。
「いっつ!何す––––ヒェッ!?」
振り返ると男性陣が複雑な雰囲気を纏わせた視線をカズキへと向けていた。
嫉妬、祝福が綯い交ぜになった複雑な視線がカズキを襲っている。
その視線にカズキはエリサを連れてそそくさと列から離れた。
「な、なんなんだよ……あれ」
つぶやくエリサに自業自得だ。と本来なら言うが今は違う。
たとえ彼がエレナに心配されているということに気がついたとしてもそれを無視する。そう断言できる。
彼は表面上は普通を装っているが自分を責め続けている。
その想いに嘘偽りはない。
でなければあんな顔で「さようなら」など言わない。
彼の重荷を少しでも軽くしたい。しかし自分の存在そのものがそれをさせないでいる。
エリサはどうしようもない歯がゆさ感じながらカズキにバレないように唇を軽く噛み締めた。
◇◇◇
夕食も終えた夜。
男性たちは昼間の疲れをとるために早々に眠りにつき、配給を作る女性たちは下ごしらえをしている頃に1機のガンドマイストⅡのところにカズキは呼ばれた。
そのガンドマイストⅡがいるのは村の中心から歩いて20分ほどの場所だ。少し前はここにも少し家があったが今は無くなっている。
呼んだのはバルダ・ルクイーガ。
このシチナ村に救援に来た騎乗士部隊の隊長だ。
カズキがその場所に着いた頃には自分の機体を見上げているバルダがいた。
「……あの」
「ん?ああ、すまないな。疲れているなかに呼び出しで」
声をかけられたバルダは視線をカズキの方に向けると床に腰を下ろし、カズキに手で来るように誘う。
カズキはそれに素直に応じて座った。
「いえ、大丈夫です。私からも説明しなければと思っていましたから」
「それで、話してもらえるか?」
バルダはすぐにそう言った。
カズキは一度頷きゆっくりと事の顛末を話し始めた。
おそらくは村長や別の者からほとんどのことを聞いているだろう。
ならば別に多くを語る必要はない。ただ自分がしたことや感じたこと、知ったことを素直に話すだけだ。
全て話し終えるとバルダは顎をさすりながら息を吐く。
「そうか……」
そう呟くように言うと頭を抱えた。
はっきり言ってしまえば彼の体験はバルダの予想以上に過酷なものだった。
少なくとも覚悟もない少年が体験するには酷なものだ。
彼は話の中で自分を責める言葉を使っていた。
村の者たちに許されたと言っていたがそれでも彼が自ら背負いこんでいるものの重さは変わっていないように見える。
(それに、彼は全てを話してはいない)
それは仕方ない。
いくら騎乗士といえどまだ会って間もないのだ。全てを包み隠さず話せと言って素直に話せるわけがない。
かと言って無理に聞き出す必要もない。
大方の察しはつくいている。
(––––だとすれば……)
◇◇◇
頭を抱えるバルダの隣でカズキは地面へと視線を下ろした。
彼は先ほどの話でたった1つだけ省いた話がある。
村人たちから許された。
だが、当然ながらカズキを許さなかった者たちも一定数いる。と言う話だ。
罵倒の言葉を向けられたこともある。石を投げられたこともある。
彼はその扱いを当然だと思って受けていた。当然の結果と思いバルダに話すこともなかった。
大切なものを失った。依り代を失った。
そんな者たちを責められるわけにはいかない。
彼らは今も苦しんでいるのだ。
自分はそんな彼らを笑顔にしたくてアファメントに乗ることを決めた。
そう考えるカズキは失念していることに気がつかない。
意思は確かにある。強く、揺るぎ難い意思だ。
だが、その代わりに切り捨てることを知らない。自分ではなく、他人や他の何かを切り捨てるという覚悟がない。
それに気がつくには彼はあまりにも経験が足りなすぎた。
それから少し沈黙が続いたがふとバルダが口を開く。
「なぁ、カズキ」
「はい?」
「君は––––––」
カズキがその言葉に目を見開いたその瞬間、あたりに衝撃が広がった。




