勘違い
カズキとアファメントがラブザメントを降してから約2日が経ち、シチナ村では復興がゆっくりとだが進んでいた。
「おーい。カズキィ!これ動かしてくれぇ!」
『はーい!』
カズキは自由に呼び出せるようになったアファメントで瓦礫の撤去作業を行っていた。
本来ならばその作業は副都から来たガンドマイストⅡが行うはずだったのだが、先の戦闘でマーリ機は大破に近い中破。他二機は大破しているためまともに使えない。
ちなみにその二機のガンドマイストⅡはボコボコになった元放牧場に置かれている。
(そういや、ラブザメント。どこ行ったんだろ?)
二機のガンドマイストⅡを運ぼうとした時には粉々になった両腕のパーツはあったがラブザメント本体の姿はなかった。
アファメントやラブザメントはエヴァンテと呼ばれる空間から現れる。
もしかしたら破壊されて機能を失ったラブザメントはそのエヴァンテに回収されたのかもしれない。と結論付け、深く考えていなかった。
「そうそう。ゆっくりだ……おーし!いいぞ!」
『了解でーす』
まだまだ問題は多いがそれはゆっくりと解消させればいい。彼らへの償いもそれと同じ。
自分ができることをコツコツとこなしていく。それだけでも進めている。
数日前とは違い、彼の心はすでに前を向いていた。
◇◇◇
そんなシチナ村の近くに近づく影があった。
まず、ガンドマイストⅡが三機。その中の1期は武装担架補助椀にコンテナを接続している。
それに荷台に大量の資材と食糧を積んだ荷馬車が6台。
彼らは副都バースレンから派遣されたシチナ村の復興、護衛をする部隊だ。
マーリたちは先行部隊だったがこちらは資材などを積んだ本隊である。
『にしても、なんなんでしょうね?6本足の黒いゴーレスなんて……』
『だよなぁ〜。セントリアの新型だったり?』
『ありえないな。もしそうだとしてどうやってこんなところに現れるんだ?まさか、飛んで来たとでも?』
そもそもセントリア王国からみればガーンズリンド王国はたしかに仮想敵国。しかし、今のところは互いに友好的であるため攻撃を仕掛ける理由がない。
『だってよぉ––––』
さらに続きかけた会話をその部隊の隊長である男性、バルダ・ルクイーガが言葉で制する。
「お前ら!いい加減にしろ。そろそろ村に着く。マーリたちが先にいるとはいえ気を引き締めろ!」
『……了解』
『同じく……了解で〜す』
バルダのその言葉に心底不服そうに2人は会話をやめ、答えた。
バルダはため息をつく。
部下2人がこんなことを言うのも当然だ。
度々大型魔獣の生き残りが出てきてはいるがそれすらも最近はない。
そんな騎乗士のやることといえば国境線付近の偵察。王都、副都などの重要地点の護衛である。
それ故にこの部隊内どころか騎乗士という組織そのものに流れる空気に緊迫感や緊張感はあまり感じられない。
その空気は国民たちや一部貴族にも広まっており、騎乗士の規模縮小から果ては廃止論などまでもが囁かれ始めている。
それでもそれらが行われていないのは隣国セントリアの影響が大きい。
多くの兵が実戦を一度でも経験すれば、騎乗士だけではなく、貴族たちも気が引き締まるのだろう。
しかしそれは国民たちまで危険な状態に合うということだ。
(……いや、考えるのは後だな。今は目の前の任務に集中しなければ––––)
「––––ん?」
『た、隊長!』
『あ、あれって……』
シチナ村に到着した彼らが最初に見たもの。
それは黒い装甲に黄色い水晶のように輝く装甲をいたるところに付けている謎のゴーレス。
それが大破しているガンドマイストⅡを持ち上げている姿だった。
そのゴーレスもガンドマイストⅡの部隊に気がついたのかこちら向く。
両者の間でしばらくの沈黙が訪れた。その沈黙を破壊し、先に動いたのはバルダたちだった。
「全機!抜剣!フォーメーショントライスラート」
『『了解!!』』
バルダ機が武装担架用補助椀からソードを装備。
一機はコンテナをパージ、隣の機体からソードを受け取るとすぐさま行動を開始、謎のゴーレスを包囲した。
いつでも切りかかれるように、そして相手の動きに対応できるように構える。
『え?……え?なに?』
包囲されたゴーレスから困惑する声が上がった。
◇◇◇
アファメントの中でカズキは首を傾げる。
放牧地の土をならす、ということで大破した機体を一時的に別の場所に移そうとしていた。
そんな時に突如として現れたガンドマイストⅡの部隊に囲まれてしまった。
「え?え?なにこの状況?」
『不明。ですが攻撃態勢を取っているのは確かです。リンカー、戦闘準備を』
視界の端に文字が浮かぶ。
その文字は最初はカタカナのみだったのだが気がつけば漢字とひらがなを使うようになっていた。
“この世界の文字ではない”はずなのにカズキはあまりにも見慣れていた文字だったゆえに「懐かしい」ぐらいの感覚で終わり、その違和感には気がつくことはない。
どうするべきか悩んでいる中、囲んでいるうちの一機から声が飛ぶ。
『この村、そしてその機体。それらは貴様がやったのか!』
なんと答えにくい質問だろう。とカズキは唸った。
シチナ村のこの惨状はあまり思い出して気持ちのいいもではない。しかも半分は自分にも責任がある。
大破しているこのガンドマイストⅡも村を守ろうとして散ったものだ。ある意味でカズキのせいとも言えなくもない。
その無言をどうやら肯定と受け取ったらしく別の機体から声が上がる。
『隊長。やはりこいつは……』
『報せの姿とは違いますがおそらく仲間か何かだと……』
再び流れる沈黙。
その状況と会話からカズキはあることを思い出した。それは昨日の夕方にマーリに言われたことだ。
「明日の……恐らく昼頃に本隊が来る」
「本隊?」
「ああ、資材と食料を積んでな。我々先行部隊から2日遅れて出発することになってるからな」
視線を巡らせてみれば奥の方に6台の馬車が並んでいた。その荷台部分には資材と食料が積まれている。
先程、ガンドマイストⅡがパージしたコンテナの中にも資材が入っていることだろう。
ひとまず敵でないことを確認したカズキは肩の力を抜くと言葉を投げようとした。
ちょうどその時––––
『……仕掛けるぞ!』
その言葉とともに一機のガンドマイストⅡがアファメントへと迫る。
「は?え?あれぇ!?」
横に振られた一閃をしゃがんでかわす。
そうしながら抱えていたガンドマイストⅡを下ろし、スラスターを吹かしながら距離を取った。
「ちょっ、ちょっと待ってくださ––––」
カズキの言葉を待たずして別の機体からの刺突が迫る。
「––––いいぃ!!?」
軽く身を翻しそれをかわすと反射的にそのまま回し蹴り。それを受けたガンドマイストⅡは軽く吹き飛び地面に倒れた。
「あ、ああ!ご、ごめんなさい!!」
倒れたガンドマイストⅡに近づこうとしたがそれを防ぐように光弾が直前を通り過ぎる。
その飛んできた方向を見ると左手で狙撃杖を、右手でソードを持つガンドマイストⅡがいた。
それがそのまま一直線に走り寄る。
「は、話を聞いてください!」
そんなカズキの言葉に対してソードが「聞く耳は持たぬ」と代弁して答える。
軽く舌打ちするとアファメントは半身を後ろにずらし、振るわれたソードをかわす。
しかし左から棍棒のように振るわれた狙撃杖の打撃により軽く姿勢を崩された。
その隙を逃さずそのガンドマイストⅡはアファメントを思いっきり蹴飛す。
姿勢を崩しながら飛ばされたアファメントへと別のガンドマイストⅡからの追撃が迫る。
バックステップでそれをかわすがその先には先ほどついうっかりで蹴飛ばしたガンドマイストⅡが待ち構えていた。
それが振るうソードの横薙ぎをしゃがんでかわすがその時を狙いすまされ光弾が放たれ命中した。
◇◇◇
(確実に命中した……は、ず)
その光弾を当てた本人であるバルダは驚愕をあらわにしてその光景を見ていた。
『な、なんだよ……おい』
その謎のゴーレスの近くにいたガンドマイストⅡから声が上がる。
それもそうだろう。光弾は間違いなく命中した。
なのに爆煙がゆっくりと晴れる中、そこには変わらずその謎のゴーレスはしゃがんでいる。
誰でもみればわかるほど無傷だった。
◇◇◇
アファメントは問題なくとも中のカズキはそうではない。
「あ、あ、危ねぇえええ!!!」
『問題ありません。この程度ならばマジックキャンセラーで耐えられます。戦闘続行可能』
あまりにも動じることなく浮かぶ文字にカズキは叫んだ。
「あ、あのなぁ。機体が大丈夫でも中身はそうじゃないんだよ!!」
しかしその言葉を無視するように新たな言葉が浮かぶ。
『早急に破壊すべきです。モドキになぜここまで手をこまねいているのですか?』
「破壊はダメだ。あれはこの国の機体だ。破壊なんてしたら捕まっちまう。それに……」
カズキはレバーを握りしめる。
頭に浮かぶのは無残にも搭乗席を潰されたガンドマイストⅡの姿とボロボロになりながらも懸命に戦おうとしていたマーリの機体。
「それに、人殺しはしたくない」
『……何を今さ––––』
文字が全て浮かびきる前に後ろに立つガンドマイストⅡが剣を高く掲げた。
「くっ!」
アファメントは立ち上がりながら背後の機体へと肘打ち。それは胸部に命中、その衝撃でソードが地面に落ちた。
その隙を見逃さず、振り向くと同時、ガンドマイストⅡの胴体を両手でしっかりと掴む。
「うぅぅ!らぁ!!」
アファメントのツインアイが強く光を放つ。
それを合図に掴まれたガンドマイストⅡは持ち上げられた。
『な、にぃ!?』
「だあぁぁあらぁぁあッ!!!」
持ち上げる機体から声が上がるが無視してアファメントは別のガンドマイストⅡに向け思いっきり投げ飛ばした。
『はぁ!!?』
その先にいた機体から声が上がると同時、投げられた機体とぶつかり激しい音を辺りに響かせながら倒れた。
◇◇◇
その光景を見てバルダの頬を冷や汗が流れる。それを拭う余裕すら今の彼にはない。
「な、なんだ……あの出力」
ありえない。ガンドマイストⅡはいくら前のガンドマイストと比べ多少軽くなっているとはいえ鉄の塊だ。
それを丸ごと一機持ち上げて放り投げるなど並みの機体で出来るわけがない。
その謎のゴーレスはゆっくりとバルダの方を向いた。
「ッッ!?」
バルダは覚悟を決めるように奥歯を噛み締めるとガンドマイストⅡに両手でソードを構えさせる。
一方のカズキは荒れた息を整えるようにゆっくりと深呼吸を繰り返していた。
「残り……1!」
カズキも終わりが見え始めた戦いに決着を付けるためにアファメントに構えを取らせる。
再び訪れた沈黙。それを壊したのはほぼ同時だ。
アファメントは握りしめた拳を、ガンドマイストⅡは両手で握りしめたソードを振るう。
『待ったああああッ!!』
「「え?」」
しかし、アファメントの拳がガンドマイストⅡへ、ガンドマイストⅡのソードがアファメントへと当たる直前にその声は響いた。
二機が同時にその声がした方を向くとそこにはボロボロになったガンドマイストⅡが立っていた。