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無装魔人機アファメント  作者: 諸葛ナイト
終わりと始まり
10/35

2度目の襲来

 それから40分後。マーリの乗るガンドマイストⅡの足元に一騎はいた。

 搭乗席へのハッチは開かれ、そこからはマーリが顔を出している。


「それでは、な。カズキ」


「はい。ありがとう、ございました。色々と……」


 一騎は1度深く礼をした。

 マーリはそれを笑顔で受け止め手を振ると搭乗席へ戻りハッチを閉じる。

 それを合図にガンドマイストⅡはゆっくりと立ち上がり移動を始めた。


 それを見送ると一騎はベッチを探すため歩き始める。


 心の中にはまだシコリが残り、闇が広がっている。

 だが、かすかに、ほんの僅かではあるが光が差し込んでいるのも確かだ。


 絶望の中でも希望はある。それは小さいものだ。

 だが、それがあることには間違いない。


(生きていれば……生きてさえいれば、か)


 ふっと自然と笑みが浮かぶ。不謹慎だとわかってはいる。

 しかし、これから自分がやるべき事、それがあまりにも曖昧すぎて笑うしかない。


(どうすれば……みんなに笑顔を、本当の笑顔を浮かべてくれるのか……)


 希望を返す。笑顔を返す。

 言葉としてはシンプルだが意味は無茶苦茶、しかも曖昧である。前途多難とはまさにこのことだろう。


「あ、カズキ……」


「……エレナさん、エリサちゃん」


 自分の名を呼ばれその方向を向くとそこにはエレナとエリサがいた。

 やはり2人ともろくに眠れていないのか表情は暗く憂いを帯び、目の下にはクマが出来ている。


 その表情を見て胸が締め付けられる。言い訳なんてできない。彼女たちにこんな表情をさせたのは紛れもなく自分だ。

 そんな表情は見たくない。しかし、目をそらすことはできない。


「––––––ッ!」


 一騎が言葉を紡ごうとした瞬間だった。

 地面が揺れ、風が吹いた。


 エレナとエリサは一騎の背に現れた物を見て顔を歪ませている。一騎もすぐさま後ろを振り向き、それを目にした。


 見間違えるわけがない。そこにいたのは4日前にこのシチナ村を襲い、彼らの日常を完全に破壊した存在、黒い6本足のゴーレスだった。


 あの時、ダメージを受けていたはずの頭部は元の姿に戻っており、不規則に並ぶ複数の単眼が怪しく光を放つ。


 一騎は2人に駆け寄り声をかける。


「2人とも!逃げよう!」


 しかし、2人は恐怖に身体を固められてしまっているのか動く様子がない。


(クソッ!)


 再び振り向き黒のゴーレスを見やる。

 それはちょうど両手の平を一騎たちに向けていた。

 その手の平が光り始め、そして、炎弾が放たれる。


 その刹那の時だった。3発の光弾がその眼前を通り抜けたため、最終的に炎弾が放たれることはなかった。


「あれは……!」


 一騎が向けた視線の先には3機のガンドマイストⅡが手に狙撃杖を持ち、黒のゴーレスを睨みつけている。


 中央の1機が左右のガンドマイストⅡに目配せするとあらかじめ指示されているようなスムーズな動きで散開、包囲した。

 しかし、攻撃は仕掛けずに睨みを利かせている。


 彼女たちの目的はあれを村から離すことだろう。

 村に被害が出ないように出来るだけ村から戦闘エリアを遠ざけてから戦闘を始めるつもりのようだ。


 しかし、だからと言って完全に安全というわけでもない。今すぐにでも避難しなければならないことに変わりはない。


「エレナさん!エリサちゃん!」


「あ、ああッ……!」


「あれが、お父さんとお母さんを……!」


 2人はまだ恐怖に縛られ、現実に思考が戻ってきていない。

 彼女たちを現実に無理やり引き戻す方法は、あるにはある。だが、それをしてしまえば––––。


(俺はもう……!2人のそばには!)


 走馬灯のように今までの思い出が浮かんでは消える。

 辛い思い出もいくつかあるにはある。

 だが、それ以上に楽しく、笑えるものばかりだ。それが眩しく脳裏をよぎる。


 これを言えばもう、日常へは戻れないだろう。


 たしかにこの世界に来ることで一騎の元々の日常は破壊された。

 もしここで言わなかったら、選ばなかったら。もしかしたらここで新たな日常を作れたのかもしれない。


 しかし、ここで言わなければ、立ち止まればまだ戻れる。


 そこで気付いた。


(……違う!俺は、俺が本当に守りたいものは––––)


 彼が本当に守りたかったもの、見たかったものは今も変わらない。


 「なぁ、エレナさん、エリサちゃん––––」


 一騎はゆっくりと口を開く。今の状況を考えればとてもゆっくりはしていられない。


(––––こいつらの、本当の笑顔じゃないか)


 しかし、一騎の声音は残酷なまでに優しいものだった。


「––––ガエリスさんとファリスさんを殺したのは、俺だ」


 その言葉が耳に届いたのだろう。

  2人は黒のゴーレスを見た時よりも更に驚愕の表情を浮かべ、一騎に視線を送っている。


 何も言わない。言葉が浮かばない。

 しかし視線が「嘘でしょ」と訴える。

 一騎は首を横に振りそれを否定し、続けるように口を開く。


 そこまで出来てしまえばあとは言葉に困ることはなかった。


「許してくれ、なんて言わない。俺を恨んでもいい。憎んでもいい。好きなだけそうしてくれ。ただ、ただ今すぐじゃなくていいんだ。どこかでちゃんと、本当の笑顔を浮かべていてほしい」


 言うと一騎はゆっくりと2人から距離を取っていく。


 まだまだ言いたいことは山ほどある。言い出してしまえば尽き果てることはない。


 ゆっくりと離れていく中、彼女たちの後ろからはベッチが走り寄って来るのが見えた。


「んじゃ、元気でな」


 一騎はゆっくりとエレナとエリサから背を向ける。


「カズ––––」


「お兄––––」


 ベッチが追いつく前に、2人が自分の名前を呼ぶその前に、一騎はただ一言––––。


「さよなら」


 たったのその一言を告げ、一騎は走り出す。

 目的地は当然、黒のゴーレスの所だ。

 自分が何ができるかはわからない。だが出来ることがある、ということだけなのは確かだ。


(俺は!)


 だから、一騎は脇目も振らずに走り出した。

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