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託されたモノ

 空は暗い灰色の雲が広がり、雪が続いていた。

 深々と、淡々と辺りを白で塗り潰さんと降り続けていた。


 そんな少し幻想的であり、儚げな雰囲気を台無しにするように金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。

 それに続くように声も響いていた。


『どうした?なぁ……!!』


『くそ!くそくそ!!』


 音の主たち、それは巨人だった。

 17メートルほどの大きさを持ち、鉄などの金属や鉱石。

 そして、魔術で形作られた2体は拳と足をぶつけ合う。


 互いの拳と足は降り続ける雪を跳ね除けながら相手の胴を捉え、頭部を捉え、向かってくる攻撃を弾く。


 その内の一体。どこまでも白い装甲に金色の水晶のようなものをアクセントにしている巨人から声が上がった。

 それはどこかもう1体を小馬鹿にするような物言いだった。


『あれほどの大口を叩き、目の前で彼女の死を見て決めた覚悟とやらはその程度か?』


 もう一体は先ほどのものとは真反対のどこまでも黒い装甲をまとっていた。

 しかし違う点はそこだけで白い巨人と同じように金色に輝く水晶のようなものを腕や足に付けている。


 それから怒りが込められた叫びが上がった。


『お前が……お前のような奴がいたからぁ!!』


 黒と白の拳がぶつかり合い、それが衝撃となり降り積もった雪を吹き飛ばす。


『こいつは……こいつらはそんなことのために作ったんじゃねぇ!!』


『お笑い種だ。これほどの力があればなんだって出来る。そう、進化だってなんだって!!』


 白い巨人から上がる声。それがさらに黒い巨人の怒りを誘う。


『あれが……』


 脳裏にある記憶が蘇る。

 誰もが手放しで喜んでいた。「成功した」と「理論は間違っていなかった」と。そしてそれは彼も同じ。


 ––––しかし、それは間違いだった。


『あんなものが……』


 異変は唐突に訪れた。きっかけは些細なものだった。だが気付いたときには遅く、ただ悔いるしかなかった。


 ––––「ヤツに嵌められた」と。


 戦えば死んだ。戦わなくても死んだ。


 口々に「もう嫌だ」と言いながら、それでも戦い続ける者たちがいた。逃げる者もいた。

 だが、彼らには等しく死が訪れた。


 そして、それは彼女も例外ではなかった。


「ごめん……ね。私、あなたを守ることが……」


 己の腕の中で光となり消える彼女。

 愛した彼女が消えたその腕、何も出来ずに守られるだけの自分を見て涙を流した。


 そんな中であるモノは笑いながら言う。


『ああ、そうだ。あれが、進化だよ』


 その言葉がさらに挑発する。

 怒りが爆発し、衝動となる。


『ッ!!貴様あぁぁあああッッ!!!』


 黒い巨人は黄色の二つの目を光らせ、同時に拳を突き出した。


 白い巨人は動じることなくそれを受け止めた。その後心底呆れたようなため息が溢れる。


『はぁ。君は本当に愚かだ。進化を望むのは生物の道理、本能だ。それを否定するなんて……君があの26人の内に入ってるのが不思議なくらいだ』


『ふざけるなよ。貴様のそれは進化ではない。あんなもの進化などではないッ!』


 それを聞くと白い巨人は黒い巨人を思いっきり蹴り飛ばす。

 それを受けた黒い巨人は降る雪を吹き飛ばしながら、積もった雪を削りながら両足に力を入れて止まった。


『はっ!笑わせないで欲しいな。私は指導者となる。そう、人類を進化へと導く指導者(メンター)にね』


『やらせるかよ……そんなこと!』


 叫ぶと黒い巨人は両拳を力強く握りしめ、ぶつけた。

 すると左腕にある金色の水晶のようなもののが濁り、右腕のそれが強く金の光りを放つ。

 それを合図に腰を落とし、右拳を貯める。


『君は……やはり、愚かだ』


 白い巨人も同じ動作をして力を溜めながら眼前に立つ巨人を睨んだ。


光よ(シャイニング)!––––』


闇よ(ダークネス)!––––』


 白い巨人と黒い巨人が同時に踏み出す。

 どちらも背中とふくらはぎから勢いよく圧縮された空気を吐き出しながら進む。


『––––闇を穿て(ストライク)!」


『––––光を穿て(ストライク)!」


 それがぶつかり合った瞬間、雪が降る白い景色よりもさらに白い光が辺りに走った。


◇◇◇


(情けないな……)


 狭い空間の中で1人の男性が十字架に貼り付けにされていた。その全身至る所には毛細血管のように細く黄色く光る線が走っている。


 あの後のことはろくに覚えていない。衝撃から逃れるためにとっさに【エヴァンテ】を介して転移してきた。


 そして、ふと気がつけば視界には闇が広がっていた。

 おそらく転移したきた先が地面か山か、どちらにせよ埋まってしまっているのは確かだ。


(まぁ、どちらにせよ……もう動けはしないが……)


 文字通り自分の全てを使い果たした男性は消えかけた感覚と意識の中で悔やむ。


 おそらく勝負は決められず相打ちとなった。

 ということは【箱】は開けられていないはず、だとすればいつかはわからないが必ず次の戦いが始まる。


 いや、始められてしまう。


 その戦いの行方を無責任に託してしまうのは心苦しい。

 さらに言えばそれに巻き込んでしまう者たちがどのような末路を迎えるのかもわかる。


 それゆえに本来ならば誰にも託したくはない。あの場所で、自分でケリをつけるつもりだった。


 だが、結果は相打ち止まり。


(すまない。私が……私に力があれば、私が速く気が付いていればッ!)


 男性は悔しさで涙を流すことも奥歯を噛みしめることも出来ずに光となり、その狭い部屋の中に消えた。


「……あなたの意思は私が受け継ぐ。それが、あなたの指導者(メンター)としての、役割だから」


 どこから現れたのか1人の少女が十字架から椅子に戻り行く姿を見ながらそうつぶやく。

 彼女のその両手は強く握りしめられていた。


 ––––––こうして、人知れず一回目の戦い(ファースト)は終わりを迎えた。

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