タイが靴履いて歩く宇治
「あーあ、最近薫来ないわねぇ。」
暇。暇。暇。
五条のぼろ家から、宇治の邸へと運ばれてきてからというもの、とにかく私は暇だった。
一瞬ではあるものの胸をときめかせた宇治の新生活だったけれど、そんなに甘いものではなかった。そもそも薫様本人が、私をここに置いたことで安心しきってしまって殆ど顔すら出さないのだ。
宇治の山荘は、遊び相手を求めています!
平安の娯楽といえば、和歌を詠む。琴を弾く。景色を愛でる。手習いをする。貝合わせをする。本を読む。……娯楽なのかも疑わしい娯楽しかない。同じ平安でも、京の都はやっぱり華やかで、宇治とは全然違ったもんなぁ。なにもかも洗練されて見えるっていうか。都心と地方との格差は、こんな昔からあるんだなぁ。
まぁ、四十八都道府県魅力度ランキング最下位の茨城県こと常陸に比べれば、いろんな意味で宇治のがマシだけれど。
ここまでなにもなく暇を持て余すと、相手が誰であろうと(というのは過言だけれど)「お客様」いうのは神様のような存在に思えてくる。手土産もくれるし、他所の話もしてくれる。当たり前の毎日に刺激をもたらしてくれるのだ!
しかし最優良顧客である薫様ときたら、宇治はなにをどう頑張ったって遠いらしく、なかなか!姿を!現 さ な い!
なにしろ、冬の宇治ときたら雪だらけ。手紙を出しても届くのに何日かかるのかわかったもんじゃない。
まぁそのぶん、いいこともあるけれど。都合の悪い手紙は、まだ届いていないことにしてしまったり、気が向いた時に返事をしても誰にも怒られない。
逆に、薫様がどんなに京の都でエンジョイ!パリピ!していても、それが私に知れることもない。「私のこと放置してなに楽しんでんのよ!来世虫に転生しろ!」なんてことにはならない。
なんて平和なんだろう!現代のコミュニケーションがいかに密かを思い知らされますね。うんうん。
それにしても!今は!昨今は!本当に!非常事態!本当に!暇!
「これはこちらの方から仕掛けて、宇治に出向きたくなる工夫をしていかないと駄目ね……。退屈で死んでしまうわ。」
私はかつて読んだ「NonNon」の特集記事、「気になる彼を振り向かせる10のヒケツ」を必死に思い出していた。そして、思い出したものから、半紙にメモしていく。
「自尊心を高めるための褒め言葉を使う……、そつなくこなさず隙をつくる……、戦意を喪失しない程度にハードルを上げる……。」
ぶつぶつ言いつつ書き留めてみたものの、どれも薫様本人が来ないことにはできないものばかりだった。あーあ。会えないことには、アピールもなにもないよ。スマホがあればなぁ。
私は嫌気がさして、筆ででかでかと書き記した。
「ひ ま」




