お姫様抱っこで彼と駆け落ち〜元カノと住んでた部屋で新生活〜
そんな大混乱の私を尻目に、薫様は私を抱えて車へと運ぶ。車、といっても勿論自動車ではなく、牛車のことだけれど。ひょいと車に移され、あっという間に私たちは出発する。こんなんでいいのか、引っ越し!
いや、でもやっぱりこういうのってなんだかドキドキするかも……。なんだか逃避行めいているというか。駆け落ちみたいっていうか。物語の醍醐味っていうか。
「中の君に挨拶するのが礼儀かもしれないが……まあ後でいいだろう。僕たちがこういう関係になったと知れるのもなんだか気恥ずかしいしね。」
頬を赤らめる薫様。横顔がなんだか可愛らしく映る。イタズラを隠そうとする子どもみたいだ。確かに、ずっと仲良くしてきた女友達の妹といきなりこんなことになったなんて、ちょっと言いにくいのかもしれない。
私は、気になって気になって仕方がなくなって、尋ねる。そう、愛の巣の場所だ。
「か、薫様……私たち、いったいこれからどこへ行くのですか……?」
「宇治だよ!」
にっこり、という効果音が聞こえてきそうなばかりの満面の笑み。
「宇治。」
私の心の温度が、スッと下がる。
宇治って。心機一転新生活!どころか、薫様と大君の、思い出の場所……。
「そう!宇治!ちと山奥だがいいところだよ。邸も綺麗に設えてあるから心配することはない。」
昔の女が住んでいた場所に、私は据え置かれるってか。それってもう、完全に私は大君の代わりでしかないんじゃん。大君から、離れる気なんて、この人には本当に本気でサラサラないのだ。
わかっていたはずなのに、一瞬でも華やいでときめいてしまっていた自分が憎らしい。
そして、私のそんな心情を一ミリも察することなくニコニコしながら私を宇治へと連行するこの男もまた、憎らしい。
意気込んではいたものの、私に、この人の心をこちらへ向けさせることなんて、できるのかなぁ。
ああ、前途多難。
うじうじ悩む私を乗せて、牛車は一路宇治へと向かうのであった……。




