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愛のないところに愛を生み出すことはそう簡単ではない

朝起きたら泣いていた。


空はようやく白み出した。隣では、薫様がすうすうと寝息を立てて眠っている。私たちは昨夜、肉体関係をもったのだ。乱れた髪と衣が、昨夜のあれこれが夢ではないことをなによりも証明している。


私の初体験に、心はなかった。


「ここから他所へ引っ越さないか?」

起きるなり、薫様は私に提案した。

「君は、こんなぼろ家にいるべきじゃない。」

私を抱き寄せ、髪を撫でる薫様。

薫様は、とても優しい。昨日の夜だってそうだった。割れ物でも取り扱うかのように、私を撫でた。女友達の話やネットに書いてあるみたいに、痛いとか、無理矢理とか、そういうことも全然なかった。


ただただ、私は、なにも感じなかった。一晩中、薫様は、大君を抱いていた。薫様が私の中に入り、私たちが一つになっているときでさえも。行為が終わるそのときでさえも。私ではなくーー「私」でも、「浮舟」でもなくーー大君のそばに薫様の心は寄り添っていた。


私ではない人を思う人に抱かれていても。幸せな気持ちも、満足も、興奮も、熱情も、私にはない。


でもーー薫様と関係をもってしまった以上、これは「薫ルート」。

薫ルートに乗るとなれば、私は薫様を全身全霊をかけて攻略しなければならない。匂宮ルートへ足を踏み外さないように気をつけながら、薫様と幸せにならないといけない。


確かに今は薫様も大君のことを思っているかもしれないけれど、私の頑張りによっては、私自身……浮舟のことを見てくれるようになるかもしれない。いや、そうなってくれるように、私が努力していかないといけない。

それが「薫ルート」として「新編 源氏物語」を紡ぐ者の使命……。


なのか?!

は、よくわからんけれども!


うじうじ悩んでいたって仕方ない。とにかく、私は私にできることを頑張ってみよう。他の女のことを考えられながら抱かれるというのも癪だし!


五条のぼろ家から離れるというのは、正直とても魅力的だった。どこに行くにせよ、薫様が手配するのだからここよりも隙間だらけということはないだろうし。


それに、二人の愛の巣……ってことだよね?!

甘い新婚生活……ってことだよね?!


これは、薫様の心をゲット!するチャンス!なんじゃない?!新生活で心機一転、新しい恋に目覚めてくれるかも!


「うむ、そうと決まれば、善は急げだ。」

薫様は立ち上がると、私をひょいと抱きかかえた。

「へっ?!」

これって所謂、「お姫様だっこ」というやつでは……?!なにこの少女マンガみたいなシチュエーション!


ふわふわと宙を浮く身体。普段よりも高い視点。不意に横を向くと、そこには「生徒会書記」薫様の顔がすぐそこに。薫様が少しでも動けば広がる、すてきな香り。


あ、頭がパンクしちゃうよぉ!


心臓がバクバクバクバク鳴る音が、私の頭の中までドクドク響いていた。

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