死してなお生き続ける理性と本能、その混じりあう先にあるのは歪んだ愛
薫視点。本編にはない部分です。
微エロです。
断っておくが、僕は普段はそんな無体な振る舞いはしない。絶対にだ。誓ってもいい。
なんにせよ、今回に限っては事情が違った。
戸の向こう側には、僕の永遠の恋人・大君がいるのだ。今度こそしっかりこの手に捕まえておかないと、いつどこへ消え去ってしまうかなんてわからない。
大君そのものではないにせよ。大君そっくりの「人形」が、この世界に確かに存在する。その確証を、まずは得なければならない。
戸を開け、静かに部屋の中へ入る。
暗がりではあるが、ほのかに灯る明かりに浮かぶ女の姿は、確かに我が愛しい人。緊張しているのか、身を固くして僕を見つめている。
「そんなに怯えないで。」
声を掛ける。懐かしい。宇治の御堂に僕が入り込んだ時も、大君はすっかり怯えてしまっていた。あの時は御仏の前ということもあって、僕たちは一晩静かに語り明かして過ごしたのだった。そう、「法の友」として。
……本当にそこにいるのかなぁ。
高まる鼓動と、苦しくなる胸を抑え込みながら、僕は彼女の頬に触れた。
温かい。最期に触れた大君の頬。どんどん冷えていって、真っ白な雪のようになった頬。今ここにある大君の頬は、きちんとちゃんと温かかった。
大君は、「生きている」。
刹那、僕の脳裏に大君との思い出が走馬灯のように駆け巡った。そう、きっかけは、宇治での垣間見。大君、中の君姉妹の演奏を見た時から心惹かれ。仏道修行に励むもの同士語り合い。そしていつしか、その気持ちは恋情へと変わっていき……。
二人きりで過ごした夜。大君が亡くなった、八月十五夜の晩。僕の想いは、ずっとずっと、変わらない。
「貴女のお姿をちらりと拝見したその時から、ずっとお慕い申し上げておりました……。」
コレは人形だ。本物の大君ではない。そんなことはわかっているのに、こんなにも恋しい。運命としかいいようがない。僕と大君とは、御仏にも引き裂けない宿縁で結ばれているのだ!大君が死してなお、僕たちは巡り会う。
「こんなにも心が惹かれてやまないのは、全て前世からの宿縁によるものでしょう……私たちは、結ばれる運命にあったのです。」
「本物」の大君ならば、無理になにかすることも憚れるが、コレは大君の「人形」だ。身分だって取るに足らない。どうしようと僕の勝手だ。
そう。ずっと夢見てきた。大君を僕の腕の中でどう愛してあげようか。ずっとずっと、何度も何度も。意識がなくなるくらいまで、めちゃくちゃにしてしまおうか。それとも、二度と僕の前から消えないように縛り上げて、美しい顔が歪む様を灯りの下でまじまじと眺めようか。
だけど、僕はやっぱり怖い。
その証左のごとく、彼女の頬に触れる掌はふるふると震えていた。
壊したくない。
失いたくない。
ずっと、永遠に。
ああ、大君……。涙が溢れ落ちそうだ。
「僕の愛しい人……。」
そう呟くと、僕は大君に接吻をした。
大君は、意外にもなにも言わなかった。照れ屋なあの人のことだ、少なからず抵抗されてもおかしくないと思っていたのに。大君も、僕との再会を喜んでくれているに違いないと確信する。彼女もまた、離れていた時間で僕たちの宿縁の強さを改めて感じたのだろう。
胸の鼓動と逸る気持ちを抑え込み、大君の着物を一枚一枚剥がしていく。
引き剥がしてしまいたい欲望が高まるけれど、そんなことをして大君が壊れてしまったらいけない。
壊さないように、壊れないように、全身隈なく全てを触り切らないと。大君の全てを確かめないと。
大君は静かに僕に抱かれていた。時々、くすぐったそうに身を攀じるとーー大丈夫、この大君は生きている、そう実感できる。頬に触れていたときから感じていた温かみは、全身に触れれば触れるほどに増幅していく。
上がっていく息。はあ、はあ、はあ、という呼吸音が繰り返し繰り返し響く。混じり合って、どちらが大君のもので、どちらが僕のものなのかは判断がつかない。
剥ぎきった衣の中で、僕たちは揉みくちゃになっていた。
……これ以上のことをしたら、大君は僕のことを嫌いになるだろうか。いや、これ以上のことをする前に、僕を拒絶するだろうか。
大君を失ってから、僕はずっと考えてきた。あの夜ーー大君と二人で過ごした夜。無理にでも大君と契っておくべきだったのだろうか、と。何度となく「もしも」の世界を試行した。
でも、どちらが正解だったのか、いつも答えを出せないのだ。仏道について語り合う僕たち「法の友」のあいだで、大君の承認なしで契るなんてありえない、それも御仏の前で……と僕を諭す理性。今こんなにも後悔するのなら契ってしまうべきだった、大君はきっと僕を拒まなかったはずだ、と叫ぶ本能。二人の僕が、僕のことを苦しめる。
今だって同じだ。
あのときできなかったことを、今成し遂げたい。でも、大君に嫌われたくない。そんな二人の僕。
ああ、でも。
『コレは、大君ではないのだ』。
『大君の人形だ』。
それに、そうだ、確かめないといけない。
『大君がちゃんとこの世にいるのかを』。
『大君の全身隈なく余すことなく僕が触れて』。
確かめないといけない。
触れないところなんてあってはならない。
大君の奥までちゃんと、僕が調べてあげないといけないなぁ……。
僕はおもむろに、彼女の股を開く。
「……薫様……。」
大君は、潤んだ瞳で僕を見上げてくる。
「愛してるよ。」
愛してるよ、大君。僕の可愛い恋人。
今、身も心も僕だけのものにしてあげる。
僕は間違っても大君が壊れてしまわないように、優しく優しく、彼女の中に入っていった。




