やらしくてやましくて厄介な感情
『……名前教えてもらえるまで、俺、ここから動かないから……。』
ああ、なんだろう。気持ちがいい。暖かくて、優しくて、ふわふわ揺れる。
名前を教えなければずっとこうしていてくれるなら、私、そのほうがいいなぁ。
ずっと、貴方のそばで、抱き締められていたい……。
「ハックシュン!」
はっ……!自分のくしゃみで目が覚めた。
吹き込んでくる冷たい風に、身震いを一つ。
ぼろ家。マジぼろ家。隙間風という概念が崩壊している。隙間って少し間が空いている空間を指す言葉じゃないの?そこかしこに穴の空いた空間があって、壁と穴どっちが多いの?むしろ穴があることが普通で、壁がある部分がレアなんじゃない?という風情すら醸し出ている。
ああ、暖かい夢の中へ戻りたい。
本編『源氏物語』のほうでは、今の私ってどういう状況にあるのかしら。そしてこれからどうなるのかしら。さっさとこのぼろ家から抜け出したいのだけれど……。
きちんと読んだこともなく、授業でも習っていない部分でもあり。「新編 源氏物語」を作っていくにあたっても、本編を知らないというのはかなりの致命傷だ。
だって「本編」がわかっていなかったら、「新編」……違うルートが選べないもの。本編でも薫ルートなの?どうなの?
……それに、今の私の心はこんなにも、匂宮様のことばかり求めて……。
『なにがだめなの……?』
なにもだめじゃないです。
『もうされたくない?』
……さ……されたいです……。
『ふふ、いい子だね……。』
わ、わ、いきなりそんなところ触るなんて、匂宮様のえっ……!
トントン!
「わあ!」
思わず、お腹の底から声が出た。
び、びっくりしたぁ。
うっわ、また私ったら、やらしくてやましいことを……!!!
トントン!
門が叩かれた音。
ぼろ家なので、トントンでさえ奥の座敷まで聞こえる。こんな夜に誰かしら、珍しい。




