襲って、犯して、でもそのまえにキスをして
えーっ!なにこれ、なにこれ、なにこれ!
ていうかこの人誰?わざと顔を見えないようにしているのか、誰なのかは判別できない。
私に迫って来ているということは、薫様?さっきからとってもいい匂いがするし……。
いや、でも、薫様なら私の顔がわかるよね。女!って騒ぐようにも思えない……。
え、まさか。
この人、匂宮様?!
いや絶対そうだ。「綺麗なヤリチン」だ!
「……どうして答えてくれないの?」
匂宮様は、不貞腐れたように言った。
「あ、いや、えっと!」
やばいやばい、答えないと!あれ、でも待って、答えない方がいいのかな?三角関係ができちゃうのを阻止するのなら、名乗らないではぐらかすのが得策なのかな?!
思考をぐるぐる巡らせていると、チッ、という舌打ちが響いた。
「この俺様を焦らそうっていうのかよ。」
「え、え、そういうことじゃ!」
ない、のに。
あれ、身体のバランスが後ろに傾いて……。
ドサ、という重量感あるものが落ちる音。私が来ている着物の重みだ。気づけば、私は天井を仰ぎ、床に倒れていた。否、匂宮様に、押し倒されていた。
「え、えっと!」
なにこれ!思考がごっちゃごちゃに絡まって、頭が真っ白になる。
お、襲われる?!犯される?!
隣にそっと、寄り添うように寝転んでくる匂宮様。ふわっと鼻先を、いい匂いがくすぐる。
匂宮様は、私の肩を捉えてそっと抱き寄せた。暖かくて、いい気持ちだ。真っ白だった頭の中はーー今度は別の意味で、なにも考えられなくなっていく。匂宮様は、鼻と鼻がくっつきそうな距離で私を見つめ、囁く。
「……名前教えてもらえるまで、俺、ここから動かないから……。」
「あ、あの……わたし……。」
私まで釣られて、囁き声で言葉を紡ぐ。
「……なあに?」
距離を詰めることを辞めない鼻先がとうとうくっついて、このままじゃ唇も……。
いや、それも悪くないかも。だって、とってもいい匂いがするんだもの。
いやいやいやいやなに言ってるの私。
ううん、うん。
そう、でも、だめ、名乗らないと。
名乗るのよ、私!
「……私の……名前は」
でも、結局私は、匂宮様に名を名乗ることはできなかった。
このとき私が、浮舟、と口にしなかったのは、焦らしたかった訳でも、今後の展開を気にした訳でもない。
名乗れなかったのだ。
私は呆気なくも、匂宮様に唇を奪われていた。




